僕の長い散歩

甲池 幸

第1話 プロローグ

「僕には一人の幼馴染がいたんだ」


 祖父はそんな風に話を始める。何度も聞いた祖父がまだ中学生だった頃の話だ。


「その子は時戻しの異能を持っていた」


 もう何十年も前に当たり前になった異能。祖父が中学生だった頃は、まだクラスの半分ほどの人しか持っていなかったらしい。幼馴染の異能について語る祖父はいつも自慢げだ。その子がどんなに才能に溢れる子だったかを事細かに、丁寧に語る。そういう時の祖父は本当に楽しそうだ。


「でも、知っての通り異能には代償がある。その子の代償は、日常的な記憶だっった」


 祖父の顔が少し曇る。眉を寄せ、辛そうな顔のまま祖父は話を続けた。


「彼女の記憶は立った一日しかもたなかった。僕は、彼女の隣に十三年間ずっといたけど、今の彼女の中にほんの一欠片だっていないんだ」


 「だからこれはね、僕だけが知っている彼女との思い出なんだ」と祖父はもったいつけるように声をひそめる。それから秘密基地を見つけた子供みたいな楽しそうな声で、最後の一年のことを話し始めた。

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