「マネージャーと僕」
グラウンドに声がひしめき合う。大学といえど、サークルだけではなく、本腰で部活動をしている活動組織もあるのは知っているだろうか。
「部活動は高校まで」なんてことはない。今の時代は大学まで行く子どもも増えた。その大学という学び舎で、部活動を本格的に行っている組織は昔と比較すると格段に増えただろう。現代では一般受験やセンター試験の利用のほかにも、スポーツ推薦や特待制度まで設けている時代だ。
そんな部活動を行っているグラウンドは、今日もたくさんの声でひしめき合っているのだ。同じスポーツで同じ目標に向かって取り込んでいる同じ部員たちで、共にライバルと認め合い共にチームメイトとして共存する。
そんな組織には、選手のほかに活動をサポートしてくれるマネジャーもいる。マネジメントを担う彼ら、彼女らは、選手が心地よく部活動をするようにサポートする。
あそこで、ドリンクを渡す女性は、選手から絶大な信頼と人気を勝ち誇っている女性マネージャーの一人だ。華奢な体で、身にまとっているジャージが似合わないような「ジャージ負け」しているような容姿の女性だが、裏を返せば女性らしい、かわいらしい外見。世の男性を虜にするほど・・・とまではいかないが、男性から見る「異性的な魅力」を引き立たせる魅惑を持ち合わせている。
その、ドリンクを渡している人こそ、あの片思いをしている二人のうちの一人が思い焦がれている男性である。その男性にドリンクを渡し、男性は「ありがとう」と受け取って飲む。飲料を一気飲みしている男性のそばを離れない女性。
そう、この二人は「できている」。
・・・と、部活間では噂になっているほど。
実際はどうか、まだこの時点ではわからない。確証たる証拠も事実も、何もない「ただの噂」だ。
だが、噂が立つということは、何か疑わしいことがあるのだろうかと思う人もいるだろう。それはまた別の話に。
そして、その片思いをしている女性はというと、「選手」として所属している女子部の部員だった。
ということはつまり。
「片思い」と表記しているということは、もちろんその女性も、二人の「仲睦まじい」関係性の噂を知っているということだ。
だからこそ、グラウンドの対面で部活動をしている男子部に、ひっそりと視線を向けながらも部活動に励んでいる「片思い女子」がいた。
横に並ぶ二人を、恨めしそうに見る「片思い女子」が。
きっかけがある。好きになったきっかけが。
部活動に所属して一年目。彼女はレギュラーに抜擢された。同期のメンバーでもほとんどレギュラー入りなんてしていなかった中、彼女は技術を認められレギュラーとなった。
その彼女を、快く思っていないメンバーもいた。
彼女は一年目にして素晴らしい待遇とは裏腹に、部活動で孤立状態となった。
「一匹狼」。その当時は彼女にとってこれほどまでに似合う言葉はなかった。ただ部活動にまじめに励み、誰とも仲良く接することはない。罵声を浴びせられても微動だにせず、淡々と取り組んでいた彼女。
その時、「恋」なんて言葉はこれっぽっちも浮かんでこなかったはずだ。
だが、彼女は恋をした。
孤立状態になっていた彼女を助けたのが、当時二年生だった「先輩」だったから。
ある日、男子部と女子部の一部の部員が食事をしていた時のこと。彼女のことを気遣ってくれていた女子部員の食事に参加していた一部の先輩が、彼女が孤立状態であることをぽろっと話した。その話を聞き、憤りをあらわにしたのは彼だった。
彼は、まっすぐな性格。卑劣なことは許せないタイプだった。
それから、部活動で彼女が罵声を浴びせられているときに、彼と数人の意気投合した男子部の部員が言い返した。「チームメイトをなんだと思っているんだ」と。
彼女は、救われた。気遣ってくれていた女子部の先輩も、その意見に乗っかり応戦してくれた。
罵声をあびせていた女子部員たちは、何も言い返せなかった。
後日、罵声を浴びせた女子部員たちは彼女に謝罪をした。彼女は、本当に嬉しくてその場で涙を見せた。そこから彼女は和解し、今では部活動を行くことが楽しみになったのだ。
この一連の出来事に彼女は救われ、感謝した。まず女子部員の先輩に感謝を伝えたら、食事をした時のことを聞いた。そこから彼女は、彼と数人の男子部員に感謝を伝えに行った。
「ありがとうございます。本当にありがとうございます」彼女は頭を深々と下げた。すると彼はニンマリ笑って彼女の頭に軽く手を当ててぽんぽんとたたいた。
「気にするな。何かあったら頼れよ」
彼女が頭を上げたとき、そして彼の笑顔を見たとき、彼女は顔を真っ赤にして、胸が高鳴って、動機が収まらなくて困った。
これが彼女の「恋」となった。
今まで部活動にのめりこんでいた彼女が、初めて「恋」をした。
その恋が、「片思い」だということも痛感した。
抑えきれない衝動、抑えきれない不快感。
彼女は苦しんだ。そして、二人を見て過ごす。まるで二人だけの世界が広がっているような、そんな小さな空間にやきもきする彼女。
あの隣に、私も立ちたい。
そんな願いを、彼女は切望している。彼女の胸の中で。
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