零、語り部はすぐそばに
「いつもの場所で」
「今日もいつもの場所で」
なんて言葉は、大学の入学式の頃に出会った初々しい頃だけ。今は言葉を交わすなんて行動に意味はなくなった。
そんな仲。
そしていつものように二人は、いつもの場所で話すのである。
それは初々しい話題であったり、なんの変哲もない話題であったりと様々。それもそうだ。平日の大学の講義を抜け出して、毎日毎日同じ場所で、その二人は人が変わることなく話しているのだから。
週に五回。傍から見ると同じ二人が一体毎日何を話しているのだろうか、飽きないのだろうか。なんて考えてしまうような光景である。
でも、二人はいつもその場所で、毎日毎日平日に話し合うのだ。それも、講義を抜け出して。
その話題は、当たり障りのない話題から始まる時もあり、突発的に序盤から始まる時もあり、最後にさわり程度に花が開くときもある。
二人はいつも何を話しているのか。
なぜそうなったか。
それは誰にもわからない。わかっているのは二人だけ。
たまたま女子の二人が、二人して同じ悩みを持っていただけで、毎日話すのだ。二人の近状報告など、毎日毎日。
そこで思うだろう、毎日話していても、お互いの恋愛事情なんて話すほどの変化はないはずだと。だから、話題性には大い欠けるのではないかと。
否。二人は、その「話題」を求めているわけではないのだ。
そもそも「恋愛話」とは。
女子が夢中に話す話題としては大いに優れたキーワードでもあるわけだ。
誰かが誰かに恋をしている。それも恋愛という脳の異常現象に侵された人間の、他人に対する動機やめまい、それを誰かに伝えて、その聞いた誰かも同じ異常現象を起こし、共感を持ち、興味を示す。
「恋愛話」というのは尽きない。それは理性を持った人間の性でもあるのだろうか。人間の恋愛というものは、言葉では表現しきれないほどに、いつ、何が起きるかわからない。
ということは、この二人はそのスリルそのものを楽しんでいるのだろうか。
いや、それも違うのだ。
二人は、毎日恋愛話で花を咲かせているのであれば、恋愛の中毒性に取り込まれているのではないか。それでお互いが毎日飽きないほどに話し続けているのではないだろうか。
そう思うだろう。
でも、二人は違ったのだ。
一方は、同じ部活動で知り合った先輩に一目ぼれした。成績も優秀。部活動でも高評価。おまけにルックスも上場。絵に描いたような相手だ。
もう一方は、別れた彼氏に未練を持っている。一度好きになり、別れてからも未練を持っていて、未だその気持ちが伝えきれずに引きずっている。
二人は片思い中なのである。
そしてお互いの心配をしながら、お互いの恋愛事情の進行状況を毎日思いやりながら話し込んでいるのだ。
・・・というのが、二人の「表面上の見方」である。
一方は、どうして未練を持っているのか。
一方は、どうして気持ちを伝えないのか。
一方は、そんな恋愛をしていると不幸になるとか。
一方は、どうしてそんな幸せな恋愛ができるのかとか。
相手が望む「ゴール」を、もう一方は求めていないのが「真の理由」である。
お互いの「真意」はわからない。でも、毎日話すという環境でお互いの恋愛が「どれくらい」進行しているのかという情報は入手できる。
実際にどのように進行しているのかなんてどうでもいいのだ。だが、一方が望んでいること、もう一方が望んでいることが相容れない状態であることに、双方は全く気付いていない。
それは、お互い様のはずなのに。
これから、どちらかが進む。
そして、どちらかが行動を起こすだろう。
それは、どちらかが進んでも、同じ展開になるかもしれないし、そうならないかもしれない。
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