渋沢慶太

第1話 蝉人間

死ぬ時、泣く事すら面倒く、仰向けで動く事すら面倒く。

蝉は一週間で死ぬ。

人間は現代では女性87歳、男性は81歳が平均寿命だ。

太陽が誕生して約46億年前。

案外似ている。

人間も蝉も愛を欲して声にし、必死に何かにしがみついて、結局倒れてしまう。

泣いていい?

下らない思い出話を聞いてください。

私は田舎の一人っ子の男として生まれた身。

私の幼少時の趣味といえば、近くの森に出かける事でした。

私は当時、甲虫と鍬形にどっぷりハマっていました。

普通の男の子。

それ以上にハマっていたのが、麦藁帽子の女の子ですが、今は話したくありません。

普通の男の子にそんな話は…悲しいですもの。

森はある意味都会です。

騒がしい鳴き声。

私は大人になって正しい事を知りました。

都会には泣き声が多い事多い事。

その時の私にはどの泣き声が甲虫か、鍬形か、分かりません。

鳴き声が聞こえる方に数打ちゃ当たる戦法で行きます。

捕獲者には選ぶ権利があります。

必要なければ野に放すだけです。

その考えは大人になって大きく影響します。

結局そのときは、蝉を野に放す事3回、甲虫と鍬形をそれぞれ一匹ずつ手に入れました。

これから話す事は最近の事です。

私は人事を担当している会社員です。

そこで私は新卒の大学生の面接をしました。そこであの時の行動を思い出しました。

必要なものだけを取り、後は野に放す。

野に放した蝉の声を私は知りません。

今、ニュースで飛び降り自殺が報道されている。

見たことある顔、面接で落とした奴だ。

人間は寿命まで生きる訳ではない。

蝉も一週間の間に殺される事もあるだろう。

あれ、もう一度言う。

蝉も人間も一緒だ。

そして、私は屋上に立つ。

私が蝉である証明をしたいのだ。

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渋沢慶太 @syu-ri-

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