幸せ家族契約

大和麻也

契約書

〈契約書〉


平本初美(以下「母」とする)と平本奈緒子(以下「娘」とする)とは、母娘の関係および家庭生活全般について以下の通り合意する。


   署名



    平本初美  (母) 印


    平本奈緒子 (娘) 印



                 20XX年3月31日




第一条 娘は、母に対し、三年間の後期中等教育を修了する義務を負う。


第二条 母は、娘に対し、以下の義務を負う。

 1 家庭の代表者として、必要な手続きおよび人間関係を処理すること。

 2 家計を維持するための収入を得ること。

 3 住居を含む一定の生活水準を維持すること。

 4 学業または就職活動等に必要な品および経費を提供すること。

 5 必要な医療を受けるための費用を負担すること。

 6 娘または家庭あるいはその両方の有事の場合において、危機を打破あるいは回避するために尽力すること。


第三条 1 母は、娘に対し、通学の対価を支払わなければならない。

 2 通学の対価は、家計の収入および娘と同年代の子女が受け取る一月あたりの小遣いの常識的な金額を参考に、娘の毎月の出費計画を勘案したうえで、月毎の通学日数に応じた金額が支払われる。また、娘が部活動に参加し、休日に活動を行う場合、経費および相応の金額の手当が支給される。

 3 1の金額は、月毎に母と娘との合意により決定するものとする。

 4 この規定は、娘がアルバイト等その他の方法で独自に収入を得ることを妨げるものではない。

 5 娘は、二十日の通学につき一度、通学せずとも、通学したのと同じ対価を得ることができる。ただし、一年度につき十日を上限とし、次年度への繰り越しはできない。

 6 娘は、その週の日曜日までに申し出れば、母から弁当を購入することができる。購入時の金額については、2の規定を損なわない程度とする。


第四条 1 家事は、家庭の居住環境を快適に維持するために行われなければならない。

 2 家事の分担については、母と娘との合意に基づいて決定する。ただし、家事のために必要な経費は母が負担する。

 3 朝夕の食事の準備に関しては、事前に特別の定めがない場合、またはやむを得ない事情がない限り、第四条2の規定に拘わらず母が義務を負う。


第五条 母は、通学または娘の心身の健康に支障がない限り、娘の交友関係について指示または命令してはならない。ただし、娘の求めに応じて相談あるいは助言することはできる。


第六条 娘は、母の務めに対して任意の額の対価を支払うことができる。


第七条 1 この契約の内容は、変更することができない。

 2 この契約は、娘の意思により、いつでも一方的に解除することができる。

 3 この契約は、娘の後期中等教育の修了に伴って自動的に解消される。



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