あの頃
勝利だギューちゃん
第1話
家の近所にある神社の境内。
そこに、大きな杉の木が、生えている。
今、僕はスコップをもっている。
「まさか、ひとりで来るとはな・・・」
小学生の頃、友達数人と、タイムカプセルを埋めた。
この杉の木の下に・・・
男女6人の、仲良しグループだ。
「じゃあ、成人式の時に、ここに集合」
「OK」
みんなの意見が、一致した。
それぞれが、何をいれたのかは、わからない。
でも、何を入れたかは、見当がつく。
ただ、手紙は入れなかったはずだ・・・
しかし、全員が集まる事はもうない。
なぜなら、もう連絡が取れなくなっている。
そう、永遠に・・・
スコップで、木の下を掘る。
「あれっ、こんなに深く埋めたっけ・・・あっ、出てきた」
少し小さめの、収納ケースが出てくる。
缶だと、かじかんであかないので、これにした記憶がある。
「あっ、野球カードだ。治だな。」
原田治、野球好きで有名だった。
リトルリーグでは、エースで4番だった。
どちらかというと、弱いチームが好きで、
「俺の力で、優勝させてやる」と、意気込んでいた。
「あっ、当時の人気女性アイドルグループの、ブロマイド。
弘だな。ませてたもんな・・・」
福本弘。
アイドルが好きで、小学生なのに、おっかけをしていた。
「俺も芸能人になって、一緒に仕事する」と、はしゃいでいた。
「あっ、これは、手作りのぬいぐるみ。めぐみだな」
市原めぐみ。
手先が器用で、よくぬういぐるみや、セーターをバザーに出していた。
小学生にしては、上出来で、評判だった。
「私、お店持つんだ」
その時のめぐみに表情は、とても生き生きしていた。
「えーと、カセットテープ?あなたも、アニメ歌手・・・ああ、真彩だな」
泉真彩。
とても、奇麗な声をしていた覚えがある。
アニメが好きで、「将来はアニメ歌手になりたい」と、語っていた。
カラオケでは、とても上手かった。
「えーと、次は・・・スケッチブック・・・ああ、好美か・・・」
パラパラとめくる。
絵が描かれている。
お世辞も上手いとは言えない。でも、とても感動が出来る。
「今は、下手だけど、いつかは上手くなるんだ」
前向きに、語っていた・・・
「そういえば、全員前向きな性格だったな・・・僕を除いて・・・」
そう、5人はみんな、ポジティブな性格だった。
それに対し、僕は内向的で心を開かないタイプだった。
そんな僕に、彼らは手を差し伸べてくれた。
何を入れようか迷った時、僕は5人への手紙を入れておいた。
当時は、恥ずかしくて言えなかった、感謝の言葉を・・・
しかし、その5人はもういない。
僕は、タイムカプセルを埋めなおした。
もう、掘り起こす事はないだろう・・・
杉の木は、あの頃と同じように、僕を見つめている。
あの頃 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu
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