第41話 再び、九州島北西部 ネコと

「あいつら、立派なやしろを建てたね」 由希は、夏の日に来た二十一世紀の宗像大社を思い起こした。 ヒカルとネコと、社を見下ろす巨木の森の一本によじ登る。 「建立こんりゅう、って感じ。こんな建築技術を持つ人たちが、流れ着いたのか、育ったのか、」

「未来からタイムトラベルでやって来たのか」ヒカルがまじめに言う。


 ラグーンが広がる浜辺のほど近く、古代から命をつなげて来た巨木を何百本も何千本も切り倒し、壮麗な社が築かれていた。

 森はそれでもまだ東へ、南へ、尾根の向こうに尾根を重ね、山の端、緑から青へ、見渡す限り広がる。


「長旅だったぁ」由希は竹筒に入れた水を飲み干した。「旅の間、人間に会うたんびにいざこざ。ヒカルが、あんなすごい剣術使いだとは知らんかった。おかげで助かったよ。以前、島を半分縦断したときと人間性が変わった。警戒心が先に来る、好戦的な人がやたら増えた」

「進化か?」


「まさか」

「長旅になったのは、迷って」ヒカルがヤマネコの胴体を背もたれに太枝でくつろぐ。「行ったり来たりもしたしな! ハナクロの臭い探知能力って、あんまりないんだな」


 ネコが背もたれを外し、怒った顔をヒカルの鼻にくっつける。

 ヒカルも怒った顔をする。「おいおい」


「ニニギにやっと追いついた。結局、アタシもヒカルもタイムトラベルで目が覚めた場所じゃんね」

「うん、おれは心に閉じ込められとったけど」


「ここで待っとってもよかったんかな」由希は観察を続ける。 「あとからなら何でも言える」

 ネコがヒカルを枝の上で組み敷き顔を舐める。「わかった、ハナクロちゃん、謝る、ゴメン」


「かわいいから何でも許せてしまうわ」由希も両腕をヤマネコの胴に巻き付けた。

「でさ、この聖地、お姉ちゃんなら地底に入れる?」


「この状況で?」見下ろす社は地底への出入口を囲んで建造されている。「潜入工作ってか」

「誰が?」


「まずはヒカル。忍者なんでしょ? ヤマトタケルみたく、女装でもして」

「やだよ。ほら」少し、ごつくなった顔を近づけてくる。「もう十五歳じゃないし」


「じゃあさ、また、セキセインコに変身できる?」

「無理。それに、おれ男だから出口をあけれん」


「あぁ、アタシしかないか。忍びの者するわ。ね、あれ、新しいむろの建築中。コノハナサクヤヒメが産んだ跡継ぎを育てる建物みたいね」


 地底への出入り口を真ん中にした広い中庭に、渡り廊下のような細長い室を建築し、上から見ると漢字の日、のような形状が完成間近だ。


新室にいむろうたげの準備に混じる」ヒカルの瞳が輝く。「古事記みたいに? ヤマトタケルみたく?」


「うん。後方援護は頼む。服はね、どっしよかな、あ、あれ!」


 樹々の向こうに、行列が見える。別の方向にも見える。周りの集落から労働者を集めているらしい。「庶民の服は男女同じ!」

「ヤマトタケルって、上流階級の服を貸してもらったんじゃなかったっけ?」


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