第11話 2013年1月20日・火の山

 十四ヵ月前、最初の小噴火が起きた。

 その後、山体の周囲で温泉があちこちで噴き上がり、火口の真ん中にある虹色の湯溜まりは干上がった。


 この火の山が、かつて、他の火の山と共に形成したこの大きな島の地下、深くに静謐な水が広大に横たわっている。

 その音無しの水が、十二ヵ月前からさざ波始めた。


 H2Оは透明なまま、中に秘めた古代の水中花たちが鼓動を始めた。その心臓の動きが、透き通る波動を揺さぶる。

 地殻は、かつての暴れの山々に、その水の振動を伝える。


 火山性地震が巨岩を転がし、大草原のひび割れをより深く刻み続けた。

 地下数キロにあるマグマには地圧が様々なものを溶け込ませている。ガスだけではない。

 地表の裂け目が超高温の地下層に達し、急に減圧されたマグマが大量にガスを噴出させた。


 数千万の絶叫も解き放たれ始めた。


 水は、蒸発しても、蒸発しても、地殻の隙間から供給される。大地の下の細かい隙間が大海原の下をくぐり抜け、各地の荒ぶる山々が呼応する。

 ライブカメラは順次、映像を送ることが出来なくなっていった。


 三か月前の十四度目の噴火は大きく、立ち昇る噴煙は地球を回った。世界中の航空機運航にも衛星の通信にも甚大な影響が出た。

 大雨が、降り積もった火山灰を土石流にし、無人になった街々を飲み込みながら絶叫は拡散していく。


 終焉の兆しがないまま、火山性微動が一日千回を超え、山体膨張が続き、半径五十キロが無人となった。


 十四日前、火砕流が噴出し山体は巨神が呼吸するように膨らみ始めた。

 一週間前から、一部の衛星だけが観測を続けた。避難指示が半径二百キロに広がり、そのうち警戒区域が百五十キロとなった。


 夜明け前、巨神の呼吸は浅く、早くなった。

 大地は唸り、波打ち、午後四時半、軌道上にある四千を超える衛星の全てが落ちた。

 十五分後、巨神の呼吸が停止した。

 七分後、巨大噴火が起こった。マグマ溜まり自体が爆発したのだ。

 激震は大地を、空気中を、一瞬で数千キロ駆け抜けた。


 壊滅的な破壊は地殻表層部に留まらなかった。




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