霧と金(一)

 テルネラはウルリヒのテントに居候させることになった。共同テントの中に放り込んで村八分が起こってはよくないし、村人たちも彼女と寝泊まりなんてまだ到底できないだろう。人間は眠っている時が一番無防備だ。ゆえに村長代理のウルリヒの庇護下に置くというのが目下最善手だった。

 ウルリヒはテルネラのことをひいきしなかったし、彼女が自分の小間使いや世話係になるのは避けた。同じ一人の人間同士として一対一で接し、働かざるもの食うべからずを徹底した。少し厳しすぎるかとも悩んだが、当のテルネラは嬉しそうだった。テルネラは、対等に扱われること、対等に働けることを、自由そのものと捉えている節があった。多少の理不尽にも傷つくのではなく笑ったり拗ねたりする元気があった。儚い外見に似合わず、存外彼女の生命力は強く、心も強かった。

 ウルリヒとテルネラの口喧嘩は絶えなかった。互いに遠慮がない……というよりは、遠慮の仕方と距離感を図りかねた結果衝突することが多かった。そうして幾度も諍ううちに、互いのことを理解し歩み寄り始めた。

 ウルリヒはテルネラの図々しさやすぐ拗ねるところ、ころころと変わる表情と機嫌を好ましく感じ始めていた。そしてそれが――特に図々しさという点において――自分だけに発揮されていると気づいた時、言いようのない不安感に襲われ高揚した。だから、彼女を一度遠ざけることにした。自分のテントから出して、共同のテントで過ごすよう言いつけたのである。

 結果的に、時宜を得ていたといえる。テルネラは歓迎とまではいかなくとも、当初こそぎこちなさはあれ、まもなく村人たちの輪に溶け込んだ。

 意外にも、テルネラを真っ先に受け入れたのは子を持つ母親たちだった。いずれも貝の末裔に夫を食い殺された者ばかりだった。それ故に憎しみや割り切れない感情もひとしおだっただろう。それでも、小柄でやせっぽっちで顔の青白い子供のテルネラを放っておくことはできなかったのだという。

『顔色が青いのは普通だよ、みんなの顔が赤くなるのと何も変わらないの……。むしろ近頃は前よりずっと調子がよくて――』

 体調を心配される度テルネラはそう言って訂正したが、それを理解させるのはなかなか難しかった。後にテルネラが転んで膝をすりむいた時に初めて、彼女の血が青いということを人々は目の当たりにした。気持ち悪い――その頃には気が置けない間柄になっていたにも関わらず、誰からともなく呟かれたその言葉。あの時テルネラが顔をこわばらせ、それでもなお笑った光景を、ウルリヒは忘れることができないでいる。

 笑い合い、同じ釜の飯を食べ、同じ場所で寝入ったとしても、ふとした時にその歪みは草の上の露のごとく零れ落ち、テルネラを濡らした。テルネラの瞳の色をオログは紫陽花の色だと言ったのだというが、それを聞いてからは、雨季に咲き誇る紫陽花の花が雨粒に濡れている景色にすら、ウルリヒの胸は締め付けられるようになってしまった。それをかき消すすべが見つからず、ウルリヒは如雨露に川の水をなみなみと汲み、紫陽花にじゃぶじゃぶとかけ続けた。紫陽花は枯れてしまった。

 もしかしたら、いつか自分のこの名も無き感情が、やるせなさが、テルネラを不自由にするのかもしれないという漠然とした不安。いつのまにか、ウルリヒはテルネラを自由であれと願っていた。それは僅かばかり自己投影でもあったのかもしれない。自分の分も、オログの分も、鳥のように自由であれと願い、そんな自分に気づいては影で一人笑った。

 鳥、といえば、こんな余話もある。

 海で取れる貝の肉は人の食事の一つだ。ウルリヒは今まで、それを特段気にしたことは無かった。しかし最初にそれを勧めた時、テルネラは僅かに顔をこわばらせた。それは一瞬のことで、その場ではテルネラは油で焼かれたおいしそうなそれを食べたのだった。誰も周りにいなくなってから、ぽつりと零した――「人間も貝を食べてるのに」。……その時は、ウルリヒも俯いて、「おれらは鳥も食べてるよ」と応えた。

 碧眼の子供は貝の末裔を滅ぼす青い炎を身に纏った不死鳥の化身である――それは内陸部に伝わる言い伝えで、そこから発展して、人間は元々鳥だったのだとすら信じられている。その伝説を信じているからこそ、王はウルリヒに青い鳥の羽飾りを与えた。

 人間の祖が青い鳥だなんて、ウルリヒは信じてはいない。それでもこの羽飾りを捨てられない。伝説が真実ならば、人間は共食いをしているわけだ。貝を食べ、コエナシと呼ぶ人間を食べ、コエナシモドキと呼ぶ同胞を食らう貝の一族と何が違うというのか。

 しばらくの間、ウルリヒは鳥を食べられなかった。貝を食べることも気が引けた。

『でも、人形ひとがたを食べるのと、そうでないのとでは訳が違うんだよ。おれたちはそういう肉を食べていかねえと飢えて簡単に死んでしまうんだ』

『情が移れば、食べられないよ』

 ウルリヒは弱音を吐いて、テルネラはそう言った。

『もし本当に情があるなら、食べられない。オログが人間を食べられなかったのは、食べたことを苦しんだのは、私もオログも旅人さんと出会って、旅人さんが好きだったからだもの。私だって、たとえあなたを食べたら真珠が零せると言われても食べる気にはならない。そんなことするなら死んでいい』

『……なら、どうすれば、おれたちの間に情は生まれるんだよ』

 テルネラは目を泳がせた。その時少しだけ、ウルリヒのこと好きだよと言って欲しかったような気がした。けれども、きっと今でもずっとテルネラには嫌われているだろう。

 ウルリヒだって、今でもテルネラのことが嫌いだ。きっと出会った頃よりずっと嫌いだ。簡単に心を乱してくるから。そばにいるとほっとするけれど、同じだけ胸が苦しい。

 テルネラが来て、三年。テルネラは三年もの月日を人と共に生き延びた。きっとこれからも生きてくれる。人間と同じものを食べて、同じ水を飲んで、同じように笑い合って、生きていける。

『なあ、おれ思うんだけど。近頃ずっと考えているんだ』

『なあに』

『血の色が違っていても、真珠をぼろぼろと吐き出すおれらにとっちゃ異様な生き物だとしても、言葉があるなら、声があるならきっとあいつらもここで生きていけるんじゃねえかな。生きようと思えば、おれたちと生きようって思ってくれるなら……』

 ……そんな話をしても、テルネラは黙って静かに首を振るのだ。

『あの人たちは……貝の末裔は、海水を飲んで、塩辛い殻の木を食べる。私とは違うわ』

 何度も何度も、そんな会話を繰り返す。


 さて、その日ウルリヒは木の枝に腰掛け鳥を待っていた。懐いた青い鳥はバサバサと大きな羽音を立て、青い空から降下した。脚には手紙が括りつけられている。ウルリヒはにっと笑って腕を伸ばした。鳥の爪が袖に食い込む。少しだけ痛いけれど、だからといってどうということもない。ウルリヒは鳥の頭を指の腹で撫でてやった。鳥は目を閉じてきゅるる、と気持ちよさそうに鳴いた。

 鳥にはハルフェルと名付けている。ウルリヒはハルと呼んで、テルネラはハルフと呼ぶ。どう呼ぶかでお互いに譲らず「どうせハルフっつったって、フの発音のあるかないかを鳥がわかるかよ」と言い放ったところで十日ほど口をきいてもらえなくなった。面倒で、今は好きなように呼ばせることにしている。いずれにせよ、ハルはウルリヒにもテルネラにも親愛を示してくれる良い鳥だ。

 手紙を解いて広げる。美しい光沢のある檀紙は柔らかく、少しの力で破れてしまいそうだった。内陸の国で生産されている貴重な資源だから、扱いには気をつける。

 そこに書かれた墨の文字をつらつらと目で追った後、ウルリヒは小さく息をついて紙を丸めた。一気に憂鬱になったが、頭の中で考えを素早く巡らせる。ハルが不思議そうに小首をかしげた。その羽を撫でながら、ウルリヒは浜辺の方に目をやった。女たちが揃って砂浜に膝をつき作業に勤しんでいた。打ち寄せた貝を石で叩いて身を取り出すのだ。身を取り出したら綺麗に殻を洗って、食器や飾りの代わりにする――内陸の方では螺鈿の技術もあって、貝殻を納めるとたいそう待遇が良くなるのである。

 そして、女たちの中にはテルネラの姿もあった。

 テルネラは、時々くすくすと楽しそうに笑っていた。頬が砂で汚れているのが遠目にもわかる。ウルリヒは少しだけ首を傾けて見惚れた後、木から降りて浜の方へ向かった。女たちが疎らに顔を上げる。

「あれえ、ウルリヒ様。どうしたの」

「こちらに来るなんて珍しいねえ」

 近づいてみれば、女たちの足元には磨かれた色とりどりの貝殻が並んでいて、いくつかの蔓籠の中に仕分けられていた。丈夫で形の整ったものは尖頭器で穴を開けて、一つの籠へ。砕けた物は、別の籠へ。不揃いのものは、また別の籠へ。別の女たちが穴を開けた貝殻に糸を通して編み込んで行く。できあがれば此度王が望んだ王の花嫁のための装飾品となるはずだった。

 ウルリヒは女達を見回して、すう、と息を吸った。

「王さまが心変わりされて、貝殻の飾りではなく、美しい真珠の飾りを寄越せと言ってきた」

「連絡が来たの?」

 ウルリヒが頷けば、女たちは途方に暮れたように顔を見合わせた。

「真珠ったって……今からどうやって集めるっていうんだよ。急に言われてもたくさん集めるなんて無茶だよ」

「貝の一族の陸に行けとでも言うのかね、王さまは」

「死んでもいやだよ」

 ひそひそと囁き合う女たちの声に、テルネラが目を伏せている。

「いや、おれがどうにかする。おまえたちは当初の予定通り、王さまが度肝を抜くほどの精巧な冠と首飾りを作ってやれ。今の新しい王は気がころころと変わる人だからな……作っていなかったら作っていなかったで、後々面倒なことになるだろう。頼んだよ。あと、テルネラは話があるから、こっちに来い」

「うん」

 テルネラは頷いて、服の裾に乗せていた貝殻たちを隣の女にばらばらと手渡した。

 テルネラと共にその場を離れる。女たちのひそひそ声は潮風に沁み、途切れ、やがて聞こえなくなった。


「話って何?」

 テルネラはにこりともせずにウルリヒの目を見つめた。ウルリヒは少しだけ目を逸らして、罰が悪そうに眉根を寄せた。昨日も些細なことで口喧嘩したばかりなわけで。……なんで喧嘩になったか忘れてしまったけれど。

「……真珠が必要って話」

「それはさっき聞いたよ。それで? 私にどうしろって言うの?」

 テルネラは服の裾をぎゅっと握りしめていた。それを認めた後、ウルリヒは顔を緩やかにあげた。

「海に潜るのはいやだって言ってたな」

「うん。できれば」

「今更だが、簡単な解決法だってあるぞ」

「え?」

「おまえのその黒真珠を全て献上すればいい。この世に一つしかない宝だと言えば、付加価値がつくだろ。事実、今はもうあいつはいない」

 テルネラはきゅっと唇をかみしめ、首飾りを庇うように腕で隠した。行き場を無くした手は白い三つ編みをぎゅっと握りしめている。ウルリヒはそれを少し悲し心地で見つめながら目を細めた。

「……髪、伸びたよな」

「今その話、関係ある?」

「ううん、なにも」

 ウルリヒはゆるやかに首を振った。

「……ごめん、な」

「なに、が」

「いや」

 ウルリヒは肩に留まるハルの頭を撫でた。ハルはきゅる、と喉を鳴らした。

「仮に海底の真珠を拾ってきたとする。するとあの新王のことだ、真珠はいつでも採れるものだと解釈するだろうな。お前も一度会っただろう? あの人は、きっとあの時おまえのその真珠の飾りに目をつけたんだ。だからこの命令は、暗におまえのそれを寄越せと言ってんだ。それを渡したくないなら代わりの品を用意しなくちゃならねえが、あいにくと今年の真珠貝は不作で、お前に海に潜ってもらわなきゃならなくなる。そうして真珠を採っても、今後ずっと折に触れて要求されるだろうな。その度におまえは海の底に潜らなきゃいけなくなるんだ。おれたちは誰一人、深い海の底までは泳げねえから。それに――」

「それに、何?」

 テルネラは顔を青く染めたまま、ぎゅっと眉根を寄せてウルリヒを睨んだ。

「……おまえがもしも、おれたちを裏切って海から帰ってこなかったとする。するとおれたちはお前を失うことになるよな。無事に真珠を得る機会を失うわけだ。死んでもいいからって誰かが潜るか、億が一にかけてあっちの陸に乗り込むことになんだろうな。で、無視したらいつ攻め入られても文句は言えねえ。これは、そういうことだ。事実上王に見放され、生かされたくば真珠の宝を献上しろ、無理なら死ね……ってな」

「な、んで……」

 テルネラの顔はみるみるうちに血の気が失せ、真っ白になった。

「なんでと言われても、王さまっていうのはそういう横暴すら許される存在なんだよ。それだけの財力と武力を持ってる」

 ウルリヒも目を泳がせた。

「だからそういうわけで、何をどうしようと悪い方にしか転ばねえんだ。だからおまえがいやなら無理してその首飾りや、髪飾りや……耳飾りを手放す価値のない案件なんだよ。それを渡したところで、王の強欲が満たされるのはどうせ少しの間だけだろうしな。今度は白い真珠が欲しい、もっと欲しい……次々要求されるぜ。おれたちは元々が疎まれてるからな。しばらくの平和が約束されている現状、所詮は貝の一族への供物でしかないおれたちがいようがいまいが痛くも痒くもないんだよ。おれがたまたま伝説の碧眼をもつやつだから、発言力を持たせて無下にできないってだけ。国に属しない自由集落なんて王族にとっちゃ目の上のたんこぶだろうな。隙あらば殺したいだろうよ……」

「どうして、ウルリヒ、そんなに冷静なの?」

 テルネラは三つ編みから手を放して、下ろした。

「あ? 冷静なのが悪いかよ」

「そんな理不尽なこと言われて……いやじゃないの」

「あー、そりゃ不快で糞喰らえに決まってんだろ」

 ウルリヒはがりがりと頭を掻いた。こんな、おれたちが必要とされていないだなんて、そんなことまで言うつもりはなかったはずだった。調子が狂う。テルネラにさっさと海に潜ってもらってこの場を凌ぎ、時間稼ぎをしようと確かに思った。だからわざわざ呼び出したのだ。だのに、紫陽花のような赤紫色の目でまっすぐに見つめられたら、傷つけたくないだなんて変な気持ちが湧いてきてしまった。

 テルネラにはとかく言う必要のないことを言ってばかりだ。刺青は嫌いだとか、眠れないとか、本当は鳥の肉を食べるのは苦手だとか、炎がまだ少しだけ怖いとか。

 ――おれが、他の誰にも話せないようなことを、話す気にもならないことをこいつに話してしまうのは、おれもまだこいつを同胞だと見なせていないからなんだろうか。

 そう、悩んでいる。ウルリヒは目を伏せる。同じ村人に、王にさえ、こんな弱み知られたくない。本当は狡くて我が身が可愛いだけの餓鬼だって、知られたくない。あの日誤魔化して煙に巻いて青い炎を取りに行かず逃げた臆病者だったということを誰かに思い出されたら、困る。

「なあ」

「何……」

 顔を上げたところで、テルネラがこちらへ伸ばしかけていたらしい手を宙で泳がせた。ウルリヒは目を見張る。テルネラは真っ青な顔になって視線を揺らした。何度見ても見慣れない蒼白な顔が、人間で言うところの赤面なのだとウルリヒはもう知っている。

「何? 今、何を触ろうとしたんだ」

「な、泣きそうだったから!」

「……はあ? おれが?」

「そう!」

 よくわからない。テルネラは段々と眉間にしわを寄せていった。明らかに機嫌を損ねたらしい。ウルリヒは肩をすくめた。追及するのはやめておこう。テルネラもまた、上ずった声で話を元に戻そうとする。

「それで、何、何を言いかけたの?」

「んー……」

 ウルリヒはハルを撫でながら、テルネラと目線を合わせた。出会った時は同じ高さにあった視線が、今は少しばかり低い。ウルリヒを見上げるテルネラの瞳は潤んで見えた。それを見ていたら、磨いた宝石みたいだなと思った。

「お前にとって、おれは同胞か?」

「えっ、今更……」

 テルネラは戸惑ったように眉尻を下げる。ウルリヒは緩く頷いて視線を落とした。

「そうだな、……今更だ」

 潮の香りを纏った風が吹き抜けた。がさがさ、と草むらをかき分ける音がして、女たちの笑い声が近づいてくる。作業がひと段落ついたのだろう。二人で声の漏れる方向を見つめた。するとだれかが「しっ」と鋭く呟いた。

「若い二人の邪魔をするんじゃないよ。静かに!」

 ウルリヒは呆れて眉を潜めた。大人の考えることはよくわからない。テルネラのことを今でもどことなく差別しているくせに、ウルリヒがテルネラといることは喜んで囃し立てる節がある。

 ウルリヒは額に手を当てて、俯いた。深い溜息が漏れて零れた。疲れている。視線と息遣いを感じて顔を上げれば、テルネラが心配そうに顔を覗きこんできていた。近くて、なんだか苛ついて、ウルリヒは手を伸ばしテルネラの赤い髪結い紐を掴んでぞんざいに解いた。

「あっ、何するの! もう! せっかく綺麗に編んでたのに」

「どうせ潮風でぼさぼさだったよ、ばか」

「……だとしても勝手に解かないでよ。編み直すの大変なんだよ……?」

「編み直すのが、じゃなくて、編み直した房を紐で綴じつけるのが、だろ。おまえいつもへたくそだもんな。おかげでいつも緩んでるじゃねえかよ。だったらもう大差ねえよ」

「へたくそって言われたくないなあ! 汚い言葉やめて!」

 テルネラは、むすっとしながら解けた髪を三つの束に分け直し、編み直し始めた。耳が見えて、黒い真珠の粒がきらりと輝いた。目がちかりとした気がして、ほとんど反射的に、ウルリヒは耳ごとそれを手で包み込んだ。テルネラはびくっと肩を揺らした。

「な、何……」

「……いや、えっと――そうだ、この金具、どうやったら作れるんだろうな」

 どうごまかそうかと捻り出すうちに、ふと天啓を得た。

「な、何の話?」

「いいこと思いついたぞ」

 ウルリヒはにやりと笑う。テルネラは訝しむ。

 するりともう一度テルネラの耳を撫でた。そっと優しく耳飾りに触れた。真珠を留める金色の光がキラリと輝いていた。ウルリヒは笑みを耐えきれず、クスクスと笑いながら踵を返した。取り残されたテルネラはぽかんと口を開けて、佇み。

「ひ、紐を返して……!」

 そのままうっかり紐を持って行ってしまったから、テルネラは怒ってしばらく口をきいてくれなかった。


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