第38話

 息を抜いてもいい、休んでもいい、そう声をかけてくれたセシルは私の頭を撫でた後、そっと部屋を出て行った。きっと、このことも父に報告をされるのだろうとは思うけれど、今は不思議と気にならなかった。


「アイリーン様、お食事をお持ちいたしました」


「ありがとう、レイラ」


タイミングを見計らって夕食を持ってきてくれたレイラにお礼を言い、食事をする。セシルに吐き出したことによって、少しは頭も冷えたらしい。ずいぶんと落ち着いて食事をすることができた。


「アイリーン様……、その……」


「レイラ、さっきはごめんなさい。ご飯をありがとう。ちょっと落ち着かなかったみたい」


「アイリーン様、私はいつだってアイリーン様のお側におります。御心をすべて理解差し上げるというのは難しいですが……、私にもどうか、その御心を守るということをさせてください。アイリーン様は、お一人ではないのですから」


「レイラ……」


「も、申し訳ありません、出すぎたことを申しました」


「気にしないで……。そう言ってもらえると、嬉しいから」


 レイラはいつだって私の味方でいてくれる。そう、アイリーンが横暴だったころから。なんでそんなに優しいのかはわからないし、もしかしたらその優しさは嘘かもしれないけど。それでも、今の私には力になってくれる大きな存在。


レイラに支えられた部分は、数えきれないくらいある。私がアイリーンになる前からだ。きっと彼女は急にアイリーンが変わったことに疑問を覚えたこともあっただろうし、度々、少し先の未来を聞いてしまった時も、何も言わなかった。だから私は、無条件に私を信じてくれているのだと、そう思うようになった。そして、その期待に応えたいとも。


「魔法は人並み以下でも学力と知識はある、魔法がなくてもやっていけることを、必ずや証明して見せる。それが、私にできること」


そんなレイラに、熱心にご教授くださる先生方に、味方でいてくれるセシルに、私が返せることだろう。この世界に魔法が使えない人なんてほとんどいない。でも、全くいないわけじゃない。そのマイノリティとして扱われる人たちにも、こんなにも魔法がなくても生きていけるという姿を見せなければならない。王族たるもの、いついかなる時も国民の手本とならねばならないと、マナーの先生は言った。


「私はまだ、王族としては父の足元にも及ばないけれど……。同じ王族なのに、年下のアンジェリーナやルドルフに魔法の才能も負けているけれど……。第一王女として、常日頃から誰からも見られるということを忘れてはいけないわね……」


 私は、この国を治める王の一番目の娘。すなわち、年齢が下の王族たちが、何かしてしまった時は、すべての責を負う立場でもある。私が手本とならなければならないと、責められる立場。それを忘れてはいけない。


私の立場は、責任の重い立場であることを。


「嫌ね……、弱音を吐くとどうしても、弱くなる……」


心細い、そんな感情が私を支配する。本当は誰かに側にいてほしい。一人でなんて立ちたくない。でも、立たなければならない。


「頑張らなければならない、努力し続けろ、私」


常に私は、ううん、人間は努力をする生き物だ。私だけ努力しないで生きるのは無理な話。


「大丈夫、私なら」


鏡に向かって言うように、自分に声をかけた。


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