第36話

「教えていただいても、かまいませんか?」


「え、ええ。非常に、これは言いづらいのですが」


 そう、前置きして言った先生は、異能と魔法の関係を語った。それは私が以前に立てた仮説とほぼ同じで、私が異能を持っていると確信していない先生が思いつくには、あまりにも鋭い仮説でもあった。


「あ、りがとう、ございました……。少し、考えてみます」


「また、何かあったら教えてください」


「はい」


失礼いたします、と部屋を退室し、近くで待っていてくれたアリエルさんと合流する。少し遅くなってしまったと思い、謝ると笑顔でそんなに待っていないというので、気遣いの塊だと思う。


「アイリーン様、アリエル様、お待たせいたしました」


「セシル、お疲れ様です」


「お疲れ様です、セシルさん」


遅れてセシルも合流し、三人で昼食を食べる。セシルは最初、護衛だから同じテーブルで食べるのは、と嫌がっていたが、同じように入学を許可されて生徒として通う以上、立場は同じ。そう言いくるめて同じテーブルで同じように食事をしている。


「アイリーン様、今日は私……、家の都合で午後からお休みをいただいているのです」


「そうなの?」


「はい、なので今日の午後はご一緒できません。申し訳ありません」


「気になさらないで、そういうことはあるものよ」


「ありがとうございます、アイリーン様」


 昼食後、今日は早く帰るのだと支度をしてアリエルさんは、足早に帰っていった。そして急に学院で会議があるとかでどのクラスも授業がなくなってしまったので、セシルといつもより早く王宮へと帰ることになった。


「セシル、どうしたの?」


「おひいさん!」


セシルが急に立ち止まったので、何故だろうとセシルを振り返れば、セシルが見たこともない怖い顔で私の頭を庇いながら引き寄せた。


「えっ?」


その直後、ガチャンと音を立てて割れる鉢植え。なんで、こんなところに鉢植えがあるんだ、と考えても状況がイマイチ飲み込めない。


「おひいさん、ケガはないか?」


「あ、ええ……、ないわ。セシルは?」


「俺の心配よりもまず自分の身の心配をしろ!」


なぜセシルに怒られているかもわからないくらいには、パニック状態になっているのがわかる。頭は酷く冷静に感じられるのに、状況が理解できないなんてことは、ほとんどなかったから、解決の仕方がわからない。


「おひいさん、こっちに」


「え、あ……」


 未だに頭が働かない私をセシルはその場から連れ出した。いつもよりもずっと足早で行った先は、私とアリエルさんが使っている教室だった。今日はアリエルさんはもういないから私とセシルだけの空間ができる。


「よかった……。ケガがなくて……」


「たとえ、危険な目に遭っても……。あなたが守ってくれるでしょう?」


「だからと言って無防備でいられるのは困るけど……」


椅子に私を座らせた彼は、手早く制服の上からケガを確認し、何もないことに安心していた。


「わかっているわ……。私の立場上、仕方がないことは……」


今はだいぶ落ち着いたからなのか、先ほどのことをゆっくりと嚙み砕いて理解することができた。とりあえず言えるのは、私の頭の上に鉢植えが落ちてきたこと。それをセシルが防いでくれたことだ。


「おひいさん……、今は考えるな。迎え、来たから帰ろう」


「うん……」


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