第27話

「やっぱり、アンタ気づいてたんだな」


「あなたっ!」


ロイドさんの姿が一瞬にしてあの護衛騎士の姿に変わった。しかし服装はいつも見ていたものではなく、シンプルな黒字に赤色の装飾が施された近衛騎士ともまた違った服装。もしや敵国か、とも疑ったが胸元に取り付けられている紋章は我が国のものだ。


「あなたは……、密偵、ね……?」


「セシルと申します。陛下のご命令によりあなた様の側付きとなりました、以後、お見知りおきを」


丁寧な礼を取り、セシルと名乗った。ゲーム上のアイリーンが直接的、間接的に殺した暗殺者であり、最近ずっと一緒だった護衛騎士。普通の近衛騎士ではないだろうと思っていたけれど、まさか密偵だったとは思わなかった。


「普段通りの話し方で構いません。あなたのその口調、違うでしょう」


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 おひいさんと私を呼び、口調が先ほどよりも砕けたセシル。彼が忠誠を誓っているのは王である父のみだ。ゆえに、私に対してかしこまる必要はない。密偵とは特別な存在だ。あまり詳しくは知らないけれど、普通の近衛騎士とはまた違う訓練を重ねていると聞いたことがある。


「おひいさん、アンタいつから俺に気が付いていた?」


「……」


「つい最近じゃないよな。俺個人を認識したのは数か月前、俺がおひいさんの側付きになったころのはずだ」


さすがだ、私がセシルを認識したのはあの日。レオンハルト皇太子殿下との晩餐の後だ。それまでも違和感は感じていた。だけど完全にセシルがどんな存在かを思い出したのはその日。セシルが魔法を使って自分の姿に対して何かをしていたのはわかっていた。残念ながらそれがどんな魔法なのかはわかっていなかったけど。


「アンタ、気づいていたか? よく俺のほうを見ていたんだ」


気が付かなかった、そんなに見ていたなんて。私は見ていたつもりはないけれど、無意識に視線がそちらを向いていたということだろう。


「俺は、アンタの側付きになってからずっと、アンタを観察していた。だからアンタが何かを隠しているのを知っている」


「セシル、あなたは……、いえ、何でもありません」


味方か、なんて問うたところで何の意味もない。味方でなければ敵になる、味方だったとしても未来視など伝承レベルの異能だ。理解を得られるとは思えない。


「客観的に俺はアンタを評価した。あえてその評価を言わせてもらう。自信を持っていいよ、おひいさんは。正式に側付きとして命令を受けたとき、俺は主様に言ったんだ。俺が認められる相手じゃなかったら側付きはしないと」


 それは、私が期待も信頼も何も得られていないということの証明ではないの?結局のところ、それは私がどんな人間なのかを試されているのと同じじゃない。


馬鹿みたいだ、期待をかけてもらって信頼されていると勘違いした自分が。セシルは自信を持っていいっていうけど、そんなの慰めにもならない。


「おひいさん、俺はアンタの努力を認める。アンタが助けてほしいとき、俺は必ず助けるよ。アンタが望むすべてを、俺が叶えてやる」


「私が、無理難題を押し付けるかもしれないのですよ。そんなことを簡単に言うものではありません」


「いや、その言葉を言っている時点で信頼に足る人物であると証明がされている」


それ以上何かを喋るのはよくない気がして、黙った。助けてほしいときに本当に助けてくれるというのだろうか。私が望むすべてを、叶えてくれるのだろうか。


「それからおひいさん! アンタちゃんと食べてるか?」


「え、ええ、まあ」


「厨房でアンタのご飯残ってるの見たけど」


「たまたまでは?」


「結構な頻度で見たけどな」


もう何も言うまい。


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