第26話

 翌朝は早くに起きて、何とか朝食を食べた。そのあとは護身術の訓練を行い、それが終われば宰相へと報告書やら公務に必要な書類やらを提出したりとやり取りをたくさんした。


「アイリーン王女殿下、少しお顔の色が……」


「大丈夫です、行きましょう」


例の護衛騎士に顔色が悪いと指摘されるが、無理を押してそのまま次のことをする。今日は授業はないが、その分だけ公務が入っていたりする。


 しかし、本日の重要ミッションは公務ではない。それは双子の一日に寄り添うことだ。いわば、授業参観みたいなもので、今日一日、公務のない時間であの子たちがやっている授業を見学させてもらうことになっている。



「……そっか」


ぼそりとつぶやいた言葉が誰にも聞かれなくてよかったと思う。魔法実技の授業を見学しているのだけれど、私とは違って将来が楽しみなほどに二人は才能にあふれていた。私のようなそよ風しか起こせない魔法とは違う。それを見て、嫉妬しないわけがなかった。



 当たるのは大人げないと分かっているし、才能は人それぞれだと分かっているからこそ、やり場のない自分への怒りが出てくる。


うらやましい、ずるい、私だって。


 どんなに努力しても、魔法の才能は開花する兆しを見せなかった。魔法がほとんど使えないと知った王宮の人たちが、失望していたのを私は知っている。嫉妬したって意味がないこともちゃんと理解しているのに、ずるい、と思う気持ちが生まれる。それが本当に嫌で嫌で仕方がない。


自分の中で折り合いがついていると思っていた。できないものはできないし、努力でどうにもできないことだってあることも、きちんとわかっている。それなのに、どうしてこうも辛いのだろうか。


「あねうえさま!」


「おねえさま!」


 教師に褒められて嬉しそうに魔法を見せてくれる弟妹に、純粋に笑みを浮かべた。やはりどれだけ嫉妬したって愛おしいことに変わりはない。そして、この国を継ぐのは私ではなくこの二人だと、直感できる。きっと、この子たちは素敵な大人になるだろう。


 見学時間はあっという間に過ぎ去って、すぐに公務へと戻らなければならない時間となった。護衛騎士を連れて部屋へ戻り、昼食は食べないままに書類と向き合う。あの子たちを見ていたら、私も頑張らなければと思う。価値を示し続けなければ、私に待っているのは死亡フラグ一択、努力しないで搭載済みフラグに殺されるのは冗談じゃない。


「失礼いたします、アイリーン王女殿下」


「……、なんでしょうか」


「これ以上はお身体に障ります、お戻りください」


「もう、そんな時間ですか。わかりました」


 夜に図書館へと出かけ、寝る時間になるまで資料を読み込んでいると、またお迎えが来た。あの護衛騎士だろうと思って振り向くと、そこにいたのはロイドさんだった。少しの違和感があったけれど、とりあえずは移動しようと梯子に上って本を返し、また下りた時だった。


「危ない!」


「っ」


食事が不規則だったのが原因かはわからないけれど、立ち眩みを起こしたらしく身体が傾いていく。頭は一瞬にして真っ白だ。


「アイリーン王女殿下! 大丈夫ですか!? お怪我はありませんか!?」


「だいじょうぶ、です。少し、立ち眩みを起こしただけのようなので」


「ですが……」


「そんなことよりも、あなたは誰ですか。あなたはロイド様ではないですね」


抱きかかえられた時に気づいた、この人は本物のロイドさんじゃないと。自分に起こった立ち眩みよりもそっちの別人疑惑のほうが大変まずい。よもや、誘拐か。それとも暗殺か。


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