第21話
それでも、逃げ出さずに前を向いているのには理由がある。夢を見てから決めたことだ、死亡フラグを全部へし折って、ゲーム上のアイリーンが不幸にした人を、私は出さないようにする。
「だから、あの人も……」
最初に視て、ずっと思い出せなかったあの暗殺者。彼が今は騎士としているのならば未来はもうすでに、変わっているかもしれないけど、守りたい。私は、あんな目に遭わせない。
「失礼いたします、アイリーン王女殿下。恐れながら、そろそろお休みされたほうがよろしいかと」
「え?」
「もう、就寝される時間を大幅に過ぎておりますゆえ、お声がけを」
「そうだったのですか……。ありがとうございます、もう戻ります」
また音もなくそばに来た例の騎士に、今度は寝る時間だと伝えられて戻る準備をする。実際に寝るのはもう少し後だけれど、この騎士は部屋の中まで入ってこないからわからない。
「あなたは……」
「アイリーン王女殿下……? どうかされましたか?」
「いえ、何でもありません。ここまでありがとうございました、あなたもゆっくり休むように」
「もったいなきお言葉、感謝いたします。おやすみなさいませ、アイリーン王女殿下」
ふと、名前が聞きたくなって聞こうと話しかけたが、やめた。まだこの人は私の味方をしてくれる人だと決まったわけじゃない。名前を聞いたところで何かが変わるわけでもない、今は警戒をするべきだ。
「さて、さすがにそろそろ寝ないと、明日に支障が出かねないわね」
部屋で一時間ほどは自作資料とにらめっこをしていたが、煮詰まってきたので強制的に休む選択を取った。頭がだいぶ疲れていたからなのか、すうっと眠りに入ることができた。
珍しくはっきりとした夢を見た。同じ顔をした私が、何か言っている。まるで鏡に自分を写しているかのような感覚だ。
『***、*******』
「何を、言っているの?何も聞こえないわ」
何かを伝えようとしていることだけはわかる。でも、何を言っているのかまったくわからない。あまりの必死な形相に、きっと大切なことを伝えようとしてくれているのだとは理解できる。それなのに、肝心の内容がわからない。
「ねぇ、あなたは何を言いたいの?」
『***、******』
涙を浮かべて訴えている、向かい合わせの私。頑張って聞こうとしているのに、何も聞こえない。
『******、*******……、*****。****、**********、*************』
「まって!!何を言っているのかだけでも、教えて!!」
その夢はやけに鮮明に見たはずなのに、起きれば何も覚えてはいなかった。ただ覚えているのは、もう一人私がいたことだけ。何をしていたのかすらも思い出せなかった。
「今日の予定は……、たしか公務もないし午後から授業だから……。朝はフリーね」
朝は何もないことを確認し、図書館に出かける用意をする。昨日、途中でやめた本の続きを読みたい。魔法関係の書物は多いから、全部読破するのに時間がかかる。まだ読み終わっていないのが現状だ。
「さて、もう呼ぶのもめんどくさいし、行こうかな」
レイラが着替えさせてくれる手順を覚えているので、自分でそれを真似して着替えた。我ながらよくできていると思う。姿見にはいつもの私が写っていた。そしてそのまま朝食も食べずに外へ出る。
不健康だとはわかっているけれど、一回ごとに呼ばなければならないというその動作がめんどくさい。レイラを呼ぶのに呼び鈴を鳴らすことはあるけれど、今回の侍女ほど呼び鈴を鳴らさなければならないことはない。タイミングを見計らって来てくれるし、こっちが言わなくてもやってくれる。
「うん、まあ、そういうこともあるよね」
侍女によっても違いがあるのはよくあることだ。それに対していちいち、目くじらを立てる必要はない。そんなことをしては私が疲れるだけだし。
「どうでもいいことにとらわれるより先に、あっちのことを考えなくては……」
「アイリーン王女殿下!」
「っはい」
心の中でどうやって解決しようと、考えていると急に大声で呼び止められた。私をそう呼ぶのは護衛であるあの騎士だ。私の専属に割り当てられているのか、毎日のように顔を突き合わせているような気がする。
「お一人での行動は控えてください、王宮内とはいえ危険です」
「ごめんなさい、呼びつけるのもどうかと思ったの」
「呼んでください、私たちはあなた様の護衛騎士なのですから」
「そうね、今度からは気を付けるわ」
少し強い口調で注意され、言うことは間違っていなかったので素直に謝罪をした。王女として一人で出歩くのはいろいろ危険があるという、言いたいことはわかる。
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