第20話
静かに出て行った代わりの侍女。言ってはいけないのだろうけど、その、私……、王女扱いされてないみたいなんですけど!
何をするにも呼び鈴を鳴らさなければ来ないし、掃除もベッドメイキングもしない。レイラならやってくれるのに、なんて比べてはダメだと分かっているのに比べてしまう。もしかしたらこれが普通なのかもしれないのだから。
「むしろちょうどいいと捉えるべきね。何にもとらわれずにいろいろできそう」
この状況を好機ととらえ、今のうちにレイラにも知られたくない調べたいことを調べつくそう。多少の身の回りのことは自分でできる。何せ、私の前世は一般人。人に世話をされるほうが緊張する、だいぶ慣れたけど。
「どちらへ行かれるのですか、アイリーン王女殿下」
「っ! ちょっと、図書館へ。しばらくしたら戻ります」
「お供いたします。いくら王城内とはいえ、お一人での行動は危険です」
「……、そうですね。お願いします」
夕食も終わり、まだ眠る時間までは余裕があったため、図書館に向かおうと部屋を出た時だった。あの騎士がお供すると言い出した。正直、気まずいけれどたしかに一人で出歩くのは何かあった時に怖いので着いてきてもらうしかない。
「しばらく、この図書館内にいます。何かあったら声をかけていただけますか」
「かしこまりました」
図書館まで無言で歩き、何かあれば声をかけるように伝えてから離れる。これでゆっくりと考え事ができる。いつも通りに、勉強のために読んでいる魔法関係の書物を複数冊選び出し、持ち込んだ万年筆と用紙に項目を書き出す。
「もっと、詳しいことが書かれていれば……、わかるのに……」
未来視というのはどれだけ書物を探し出してもわからないことが多い。何せ迫害された歴史があるくらいだ、研究が進んだのはここ百年ほどのこと。それまではひっそりと語られていたものを集めたものしかない。
「いや、逆に自分で記録を取るべきなの……?その分析したパターンからわかることはあるはず……。きっと、何かがわかるはず」
データさえそろえば……、比較対象はなくともパターンは割り出せる。そう思えば、少しは糸口が見えそうだ。
「まって……、同じ方法であの子たちの状況を知れるのでは……?」
そこで思いついてしまった。報告書の内容から自分の行動と一緒に王妃の行動を書き出して、行動に何かしらのきっかけがあるのであればそのきっかけを出さないようにすればいい。そうすればあの子たちを守ることができるかもしれない。
「私の記録と、照らし合わせたら……、たぶん……」
自分の行動はすべて記録してある。公務や授業に差し障るような行動を少しでも減らすためだ。そしてその中で時間を作っている。
「あとは、夢の内容ね……」
夢の内容に関しては、バラツキも多かったし急に視ることも多いから、特に何かを書き出すことはしていなかった。
「失礼いたします、アイリーン王女殿下。報告書をお渡ししたいと侍女が訪ねてきておりますが、どうされますか」
「通してください」
「はい」
ナイスタイミングで新しい報告書が届き、それを受け取ってぱらりとめくる。直近二日ほどの自分の行動を振り返り、事細かに思い出す。
「やっぱり、これ……」
持っていた新しい用紙にサラサラと書き始めて気が付いた。王妃がそういった過激な行動をとるのは、私が何か大きなことを完璧に成し遂げた日が多いことに。大きなことと言っても、教師に手放しで褒められるなんてことも含まれる。
「私が目立てば目立つほど、そういうことよね……」
大体の理由はわかったけど、それでも説明がつかないところはある。
「決めつけるのは、ダメね……」
やはりこれも決めつけるのは危険すぎる。確実な証拠がなければそれを父に報告しても意味はない。この勉強もマナー講習も公務も詰まっている状況でこれ以上、何かを抱えるのはキツイ。本当は投げ出したいことがたくさんある。やりたくないことだって、逃げ出したいことだって、たくさん。
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