第10話
うまくなった、こちらを悟らせない笑顔を浮かべてレイラを誤魔化せた私は、予定通りに今日一日を過ごすために部屋を出た。
「レイラ、わたくしはこのまま王城図書館で調べたいことがあるので、そちらへ行きます。急な用事などは遠慮なく言ってください。時間になったらお迎えをお願いします」
「かしこまりました」
レオンハルト皇太子殿下がこの国に到着するまであと数時間。私は王女としての自分に思考を切り替えて王城図書館を目指す。視ることが多くなった未来の映像らしきものを、調べたいのだ。この未来視のようなものは、まだ確証を得ていないことから誰にも伝えてはいない。
「……、やっぱり未来視なんて壮大なものではないような気もするわね……」
王城図書館では文官たちもいるので、王女としての姿は崩せない。そのまま叩き込まれたマナーを最大限に出して図書館の中でお目当ての本を探す。レオンハルト皇太子殿下が王城に到着すれば出迎えなどの公務が分単位で刻まれるので急がなければならない。
「それに、これ以上に記録が古いものがない……」
棚に置かれている比較的新しい本から古書と呼ばれるものまで、魔法関係のものをローラー作戦してみたが、記録などが書かれた古書も数百年に一度、未来視を持つ人間が生まれると書かれているだけで詳細は全く載っていない。しかもそれ以上の古書も記録もない。
「困ったわね……。学院に入学するまでに調べたかったのだけれど……」
もしも、仮の話だけど、未来視という魔法とは言えない、異能に分類される力が本当に私に備わっているのだとすれば。それはこの国の最大の武器になる、それも諸刃の剣。
利用価値は、計り知れない。その分だけ不必要な争いも生んでしまう可能性が高い。父に報告するべきなのだろうことはわかっている。少しでも知っているかもしれない父やその側近たちに言えば、何かは変わる。でもそれは大変リスキーだ。父の側近にはセルフォンス派閥以外の派閥を汲む人間だって、当然いる。その派閥に利用されないとも限らない。
いや、未来視という力が確定した時点で利用されるのがオチだろうけど。
「うー……」
考えこみすぎて頭が痛い。少しだけ休憩しようと図書館内にある椅子に座る。文官たちは忙しそうに仕事をしていた。私のことを気にかけてはくれるが、邪魔をするつもりはないのか、私にむやみに話しかけてこない。それをいいことに私は頭の中で考えの道をたくさん作る。
「……」
私には誰にも言えない秘密がある、前世という秘密が。その内容、というか記憶に引きずられてデジャヴを覚えているだけなのではないのか、それが現時点での私の予想だ。この身体は一度だってよくみるようになった謎の光景を、経験した記憶が存在しない。この身体にとってその光景たちは完全にデジャヴなのだ。
「うん、不確定要素が多すぎる。あまり鵜呑みにしないほうが良さそうね」
持っている限りの情報をかき集めて、本を元に調べてはみた。結果は予想通り厳しいものになった。確定できるだけの情報も記録も、何もない。それならば未確定状態の話を父にしたところで何の意味もない。
これはもう一度、精査するべきだ。そう結論付けた私は、レイラにちょうど呼ばれたため、昼食に向かった。
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