最後のピース
@mutukiue
第1話
目覚まし時計の音で目が覚める。
時間は午前7時20分。私はもう少し眠るために布団に入ったまま手を伸ばし、目覚まし時計を止めてから寝返りをうつ。
今日も面倒な1日が始まる……それが憂鬱で仕方ない。このまどろみの時間が心地いい。この時がいつまでも続けばいいのにと願ってやまない。
「夢ー! いつまで寝てるの!? 学校遅刻するわよー!」
けどそんな願いを打ち砕くように、1階のリビングの方からお母さんの声が聞こえた。本当に鬱陶しい……。
私は「う~ん」と呻き声を上げながら、しぶしぶと体を起こした。
ベッドから抜け出しながら、目覚ましい時計が再び鳴らないようスイッチを切る。
気怠い、体が重い。今日も学校に行くのが面倒だ。そう思いながら誰も見てないことをいいことに、私は大きなあくびをした。同時に出てきた涙を拭いながら目を擦る。
窓際に移動しカーテンを開けると、太陽の光が私を照らした。今日は気持ちのいいくらいの青空で、私の心とは対照的に雲1つなかった。
たっぷり5分くらい時間をかけながら学校の制服に着替え歯を磨き、カバンを持って私は階段を下りた。
椅子に腰掛けているのはお母さん1人でパンをかじりながら朝のニュース番組を見ていた。
「おはよう。あんたもそろそろ自分で起きれるようになりなさい」
「お父さんは?」
私はお母さんの言葉を無視して逆に聞いた。
「お父さんなら出張で今日の夜に帰ってくるって、昨日言ったじゃない」
「そうだったっけ?」
最後にお父さんと会ったのはもういつだったか忘れた。何の仕事してるのかもよく分からないけど、帰りはいつも遅くて、私は部屋にいるか寝ているかどっちかだから。この間寝る前にスマホいじってた時にお父さんの声が聞こえたけど、わざわざ顔は見に行かなかったし。
次にお父さんと会った時、どんな顔をしながら、どんなことを話せばいいんだろう?
「そんなことより、あんた進路とかちゃんと決めたの? そろそろ将来のこと考えないと」
出た、将来の話。私がここ最近で1番嫌いな話題だ。
香ばしいパンの味が、途端にまずく感じた。綺麗に盛り付けるサラダも、なぜだか不快に見える。
「だから、ちゃんと考えてるって」
私は顔をしかめながら、強い口調でお母さんに言った。毎日同じようなことを言われるのにイライラしてくる。
「とかなんとかいって、帰ってからいつもスマホばっかりいじってるじゃない。本当に考えてるの? ちょっとは勉強しないと、いい大学にもいけないよ」
「あ~もううるさい! 分かってるよそんなこと!!」
うんざりした私は、半分以上残っているパンをお皿に置いて席を立った。そのままカバンを乱暴に掴んで玄関に向かう。
なんで朝からこんな気分にならないといけないんだろう。
何より1番気に入らないのは、私が将来のことを何も考えていないことをお母さんに見透かされたことだ。自分で自分にイライラする。将来の事を考えないといけないのは分かってる。けど何をしたらいいのか全然分からない。
私の心の中に、黒い何かがずぅーんと落ちてきて、身動きがとても取りづらい。
「ちょっと! 朝ご飯食べないとお腹すくよ!」
お母さんの声が私の背後から聞こえてくる。
玄関のドアを力強く押して外に出る。わざと大きな音が聞こえるように閉めた。
私のイライラが、お母さんに通じてもらえるように。
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