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ためひまし
第1話 花火のような色どり
高校一年の夏。ぼくは初めて人の死を目のあたりにした。
その惨劇はとても人の見るべきものではない。
けれど、頰に散ったあの赤い血はあたたかくてキレイでただそれ以上に美しかった。
「十六歳がまた快挙!」
その売り文句にテレビの前で居座った皮肉口が大きく開く
「十六歳ですって……あんたも人様に誇れるような人になりなさいよ」
『他所は他所、自分は自分』とつい先週言っていた母親の口からは一番聞きたくない言葉であったが、いつも通りの光景にため息も忘れて「うん」とだけ置き土産の印に捨てていくように放った。しかし、言葉が軽かったことに母親がいつもの説教へとモードを切り替えてツノを尖らせた。
「あんたはいつもそうやって……」
から始まり約十分間は息継ぎなし、そんな感じで話し続けた。
呪縛から解き放たれたように急いで部屋にこもりに来たはいいが、これといってやることも無いように感じる。実際にやることは何もない。毎日が同じことの繰り返しで、楽しくはないし、生きていてつまらないが、死ぬつもりもない。面倒なこの性格を裏腹に秒針は一周を繰り返す。長針さえも動き出すこの空間は地獄の沙汰。
小学生。サッカーで都大会に出た時のボールの感触はもうない。
中学生。初めてできた彼女の柔らかい手の感触はもうない。
高校生。必死に勉強して手に入れたこの学力もいまや尽きようとしている。
今手に残っているものといえば有り余った時間と使い所に困る諭吉の束だ。欲しいものも趣味もなく、貢ぎ先だった彼女もいない。友達も部活だの彼女だの旅行だのと忙しそうに全国各地を飛び回っていた。特にこれといってすることも無い人にはその長期休暇がただタラタラとするだけになっている。この面倒な時間なんて誰かにあげられればいいのにと強く思う。家にいても親の面倒な仕事に翻弄することになるだけだし、かといって外に出る気力もない、一度出てみれば汗で服が台無しになることになる。そんなことを考えていたらたちまち部屋に入ってくる。あの悪魔が。
「何してるの? 遊びにも行かないなら勉強したらどう」
語尾を強めた疑問形で聞いてくる。言いたいことがあるならそういって欲しいものだ。「勉強をしろ」とそういってくれた方がまだマシだ。回りくどいのは昔から嫌いで言いたいことがあるならはっきり言って欲しい。
[近所のスリーエフ]
何かがあると決まってこのコンビニで集まって作戦会議をする。忘れられない中学の頃の想い出だ。最近では友達もいないから、ただの想い出を吹かす場所となって嫌なことがあればいつでもここに来ていた。今もそう。母親といつも通りの喧嘩をした。ついつい強い口調で言いすぎたとは思うものの、こんなことを考えずにゆったりと過ごしたいと強く思った。いっそのこと親のいない遠くに行ってしまいたい。親は遠くへの外出を強く反対する。だから今までのぼくの活動範囲は小学生から変わっていない。こんな広い街で毎日変わらないスリーエフの前にたむろすることになる。そんな人が人様に誇れる人になれるのだろうか。ふと昔の友達を思い浮かべる。4人で集まってワイワイした思い出とその情景が目の前の駐車場に広がる。
「けんちゃん何やってるのかな?」
離れ離れにはなったけど、なんだかんだ情報は入ってくるものだ。何部に入ったとか、彼女ができただとかしょうもないことだけなら。けど、けんちゃんは高校に入ってから実家に戻るとかで広島に行ってしまったきりなんの情報も出てはいない。年賀状のためにと紙に書いてくれた住所も今ではスマホの中に埋め込まれていて開くことを忘れていた。広島県福山市、埋め込まれた情報を元に新しい空気を吸いにけんちゃんの家に向かうことを決めた。夏休みが始まってうんざりしてきた一週間が経った頃のことだった。
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