夢想夢幻少女

ひかげ

夢想少女

例えば。

この路地裏は秘密の場所に繋がってる。


例えば。

川で拾ったこの石は特別な力を持っている。


例えば。

あの人は他人の心を読める力を持っている。



考えだすと止まらない。

私の空想。



あぁ、今は夏だ。

神様が宴を催しているかもしれない。


あぁ、今は夏だ。

人に混じって、ナニカがいるかもしれない。



「なーんて、ね。」



人様の家から生えている木々で、心地よい日陰が出来ている小道を塀伝いに歩く。


神様。妖怪。幽霊。特別な力。魔法。


全部に憧れてる。

全部に恋い焦がれている。


私は恋をしているのだ。


幻に。


現実ここにありもしないことに。



夢想夢幻それらを思うと胸が苦しくなり、同時に熱くなる。


あぁでも、恋というよりかは、やっぱり『憧れ』の方があってるかもしれない。



うーん、でもやっぱり、これは『恋』だ。



夢想夢幻それらを想うたびに、口の中も、胸の中も、甘酸っぱくなる。


頭の中も、ソーダみたいにシュワシュワして


しあわせになるんだ。





現実ここは嫌いだ。


辛いことばかり。

何も楽しくなんてない。


ここにいる意味が見出せない。



ただ、辛い、苦しい、痛い。


ただ、それだけ。



何の色もない。モノクロ。





あーあ。






「《夢想夢幻そっち》に行きたいなぁ」





















学校は嫌い。


笑っていなくてはならないし。

訳の分からないことを見聞きしなければならないし。















家は嫌い。

すごくすごくイライラする。

でも、夢に浸れるのもここだから、わがままは言えない。

















私は私が嫌い。

いつもわがままばっかり言って。

弱いくせに強がって。

他者を見下して。

いつも逃げてばっかりで。


そんな私が、私は嫌い。






















全部



















全部、壊れちゃえば良いのに。




何かこう、黒い龍みたいなのが出てきて、全部壊してくれないかなぁ、



「なーんて」



可笑しな空想だわ。


















例えば。

あの石にものを願えば、何でも叶う。


例えば。

神社に集まってるあの子たちは、実は裏ではオカルト的事件を解決してる。


例えば。


例えば。


例えば。


例えば。




「あ」












黒い龍だ。






黒い、黒い、黒い、真っ黒い龍だ。














「だーめだよ」

「ぇ?」



突然出てきた黒い龍に魅入られていると、目を塞がれた。


その直後に聞こえたのは、青年の声。



「…誰」

「お医者さん」

「嘘つけ」

「嘘じゃないよん」



よっ、という声とともに、私の目から手を離し、私の後ろにあった台から飛び降りた。



「はーじめまして!現幻げんげん医者の宇都野魔幌うつのまほろです!よろしくね、少女ちゃん」

「はぁ…」



突然現れたのは、黒い手袋をはめ、白いシャツと黒い半ズボン、白い猫耳パーカーを着ている黒髪の青年。

私と同い年か少し上くらいだと思う。



「何がダメなの…」



私はその、魔幌という医者?に質問する。


そうだ。何がダメなんだ。

私はいつも通り、空想の海に浸っていただけなのに。



「ん〜。あの黒い龍に力を与えることが」

「はぁ?」

「君が不思議なことを考えれば考えるほど、あの龍は大きくなる。君の“全てを壊してほしい”という願いを叶えるために」



全てを…?


いや、たしかに思ったりはしたけど



「それが現実になるなんて…馬鹿じゃないの」

「いくらでも言ってなよ。それより、君に診断名を告げるね」

「え」



なになに、診断名って何。何なの。



「君の病名は【夢想少女】。夢を想うあまり、それを現実にしてしまった子だね」

「意味分かんない…帰る」

「どこに?」



は?



「どこにって、家に決まってるでしょ」

「何で?家は嫌いなんでしょ?」

「何言って」



あれ。



私の家ってどこだっけ。



「帰り道。分かんないんじゃないの?」

「っんな、わけ…無い」

「症状。自身の記憶の消失。」

「っさい、黙れ!」



待って、何で分かんないの?



もしかして



「お前の、せい?」



黒い龍を見て、そうつぶやく。


黒い龍は驚いたように固まり、悲しそうに瞳を揺らす。



「可哀想だなぁ。せっかく創造主のために働いたのに。ねぇ?」



黒い龍の頭を撫でながら、魔幌はニヤニヤとしている。



「私頼んで無い」

「頼んだ。頼んだからこの子が生まれた」

「でも」

「でもはきかない。今君に残された選択肢は二つ。一つ、このまま空想し続け、龍に力を分け与え、自身の記憶を、存在を全て忘れるか。一つ、僕と一緒に来るか。この二つだ」



はっ…急すぎる。何だそれは。

まるで、それは、私が憧れて、焦がれて止まない



「非現実…」

「そうだよ。君が恋い焦がれて止まない、非現実だ!僕と来れば、それが体験できる!」



ニコッと満面の笑みを浮かべる魔幌。

黒い龍も隣でコクコクと頷いている。



家に帰れない。

このままだと消える。


ついていけば、体験できる。

普通に暮らしていれば、触れることすらもできない非現実的なことを。



ならば



「行く。ついて行く」

「待ってましたー!僕の患者第一号!少女ちゃん!ネームプレート作んなきゃね!」



ん?待って



「患者“第一号”!?」

「え?うん。僕、ポンコツ医者で有名だから」

「ざけんなこの医者ぁぁぁぁぁ!!!!」

「僕のことは魔幌先生、と呼ぶように。良いね?少女ちゃん」

「チッ」
















あぁ、今は顔すらも思い出せないお父さん、お母さん、兄弟、友達。

私は大変なやつと知り合ってしまったようです。























【少女】

白いセーラー服に、赤いリボンをつけた女の子。特技は空想。


宇都野魔幌うつのまほろ

黒い手袋、白いシャツ、白い猫耳パーカー、黒い半ズボンの青年。歳は少女と同じか少し上くらいらしい。


【黒い龍】

少女によって生み出された龍。夢想少女の具現化バージョンみたいなもの。名前考えてない。



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