第三章 XXの本懐

秘密(3章プロローグ)


 消灯時間も過ぎ、漆黒と静寂に包まれる破虹軍の寮の、とある一室。その部屋だけはパソコンのディスプレイが煌々と光り、少女が文字を打ち込むささやかな音で満ちていた。


「……これで、よし」


 最後にエンターキーを弾くと、画面には「送信完了」という文字列が浮かぶ。週に一度の定期報告を期日内に終えることが出来た少女は、安堵から大きく伸び、同時にあくびをした。もう深夜2時を回ったところだ。自分に明日の業務がつかえていることを思い出す。


「寝ないと、な」


 少女は夜が怖かった。眠るということは、意識を切るということ。人は一生のうち3匹はゴキブリを食べているというが、それは眠っている間の出来事なのだ。

 自分が寝ている間、体は無防備になる。いや、体だけならまだいい。このパソコンを見られたら──


 少女は跳ねるように立ち上がると、パソコンを閉じ、ベッドの下に入れてあるスーツケースの中に慌ただしくしまい込む。その上に二重の南京錠をかけ、再びベッドの下に戻して、……ばたりと、床に膝をついた。急に重いものを運んだ手は赤くなり、ぶるぶると震えている。

 キーボードを打っていない時、部屋には時計の秒針の音がよく響く。重く苦しい夜は、それでも一歩一歩進んでいくのだ。……こんなところで腐っている、自分を置き去りにして。


「……私は、わた、しは……なんで」


 何でこんなことをしているのだろう。

 その疑問に答えてくれる存在は、この破虹軍には一人もいないように思えて、……少女は今日も、震えながら浅い眠りについた。

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