異世界転生?された方はたまったもんじゃありません
糺乃 樹来
プロローグ 或る農民の独白
猫も尺杓子も異世界転移の時代である。
引きこもりも社畜も女子高生も。まるで商店街の閉店セール並みに、年がら年中転移だの転生だのしていやがる。どうやら昨今の愛世界心はガバガバのようだ。
だがあえて言おう。
俺は異世界から来た勇者とか大っ嫌いだ。
世界を救う使命が大変?
巨乳の女神からチート能力をもらった時点で文句言うな。
ハズレスキル?
どうせ化けるんだよ。最強のなんたらに。
俺はなにももらっていないって?
銃だの化学だのプログラミングだの、数世紀進んだ文明の知識があるじゃねえか。
それから、巻き込まれただけとか言ってる奴。
それ2度と言うな。
わかる?わかんないだろうな。
おまえらは女神だの魔王だの王族だのドラゴンだの、要するにそういうイカれた世界の特殊なお友達に次々と出会うもんな。だから通りいっぺんの農民のことなんて、目に入らないんだよな。
君らは自分のことを大怪獣と思いたまえ。
歩いただけでのつもりでも、家と一緒に常識と平穏な日常を踏み潰してしまうんだ。
例えばそう、気軽に作った新発明。
ここに人生を発明に捧げた男がいる。そいつは頭でっかちで生きるのに不器用な発明オタクだ。
だからみんなにバカにされている。でも人々を救う新発明の種に、小さな頃に気がついちまった。
実現できれば世間様を見返してやれる。オマケに自分のようなおつむりの弱い人間でも人様の役に立てる。
根は真っ直ぐないい奴なんだ。
それから男は必死で研究に取り組み始める。ムリだバカだと嘲笑されても、歯を食いしばって耐え抜くこと5年。
そんな男を支えたのは、唯一の理解者である幼馴染。ちょいと口は悪いがチャーミングで、ブーブー言いながらも隣でせっついてくれる。
だけど世間様をアッと言わせる発明なんてのは、一朝一夕にできるもんじゃねえ。それでも身を細らせながら10年。
仕事が上手くいかない時に限って、焼けボックリに火がついちまう。しっかり者の女房を貰い、玉のようなガキが生まれたのが15年。
姐さん女房のおかげで貧しいながらも研究は進む。
時にはテメエのガキが泣いて帰ってきやがるような切ない日もあるだろう。「父ちゃんは無職なの?」なんて聞かれた日には、眠れない夜を過ごすんだ。
それでも気張って30年。いよいよそいつは完成する。隣じゃあ苦楽を共にした女房が、「明日から父ちゃんは、国で一番有名な学者さんになるんだよ」なんて鼻を啜ってやがる。
はい、異世界転生。
「あったら良いなぁ」くらいのテンションでキミが生み出したその新発明は、一つの家庭を壊しました。
世紀の大発明は一夜にして二番煎じのパクリ商品に生まれ変わり、男の子供は明日から友達に「嘘つき」呼ばわりだ。なんたって母親の言葉を信じて、近所中に言いふらしちまってるからね。
「父ちゃんの発明が世界を救うんだ!」
所詮この世は弱肉強食。なんでもかでもやったもん勝ちてえ理屈はご承知。
それでも泣くのが人情よ。
だからほんの少しでいい。よそ様の家に来る時はほんの少しだけ行儀作法を気にしておくれ。
要するに本当に巻き込まれてんのは、ね。
アンタらの言う異世界の庶民なんだよ!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます