【コミカライズ再開記念】玉玲の手紙

師父へ


師父しふ、お元気ですか? 玉玲ぎょくれいです。

師父や雑技団の皆と別れて半月近く経ちました。

色々あったけど、私は元気に暮らしています。


昨日、雲嵐うんらん師兄しけいから送られてきた手紙を読みました。

私が家から出ていったことを寂しがって、あまり食事を取っていないんだって?

私が宮女になったのは、病を患った自分のせいだと責めているのだとか。


何度も言ったけど、本当に気にしないで。

私は何よりも師父に元気になってもらいたい。

赤子の時、捨てられていた私を拾って大事に育ててくれた。その恩を今、返させてほしいの。


それに、年季が明けたら皆で一緒に雑技団の旅を再開させたい。

これは私が自分で決めたことよ。私のわがままでもあるの。

だから、師兄たち言うことをよく聞いて、薬を飲んで、食事もちゃんと取って早く元気になってね。


あまり心配をかけたくないから言おうかどうか迷ったんだけど

何と私、太子様の妃になってしまったの……!

でもね、あくまでこれは契約で、三年後には離縁してもらえるという約束だから大丈夫だよ。


これから話すことは内密にしてほしいんだけど

皇城には二つの後宮があって、そのうちの北側に『あやかし後宮』と呼ばれる区域があるの。

その名の通り、たくさんのあやかしたちが暮らす場所。


よう帝国の太子は代々、あやかし後宮の管理を任されているみたいでね。

太子様はとてもお忙しい方で、一人ではあやかしたちを監視しきれないから、私に一部の役割を担ってもらいたい、と契約を持ちかけてきたのよ。

仕えていた妃の命令で、あやかし後宮にうっかり入ってしまった時にね。

色々と建前が必要だったみたいで、妃という形にはなってしまったんだけど。


ほら、私ってなぜか物心がついた頃からあやかしがえるじゃない?

そういう存在ってすごく希少らしくてさ。普通は皇族にしか視えないものみたい。


給金は宮女の三倍。契約期間は宮女の年季通り三年。

仕事内容は、主にあやかしの監視。何か問題が起きたら太子様に報告すること。


給金もすごく魅力的だったんだけど、何よりあやかしたちを守りたくて、引き受けてしまったの。

ある事情があって太子様、あやかしを憎んでいるみたいだったから。

誤解を解きたいという気持ちもある。基本的にあやかしはいい子たちばかりだから。

あやかしたちが理不尽な目にあわないように。

そして、少しでも太子様にあやかしのことわかってもらえるように。

私、三年間ここでがんばるつもりだよ。


大丈夫、太子様って冷たそうに見えて本当は優しい人だから。

今日もね、あやかしたちのいたずらから守ってくれたんだ。

ああ、いたずらといっても、本当にちょっとしたことなんだよ。

ここのあやかしたち、少し癖があるというか、心を閉ざしているみたいでね。

何年か前まであやかし後宮を管理していた人、太子様のお兄様がとても冷酷で横暴な人みたいだったから。

彼らが人間を警戒してしまうのは当然のことなの。


でもね、仲よくしてくれそうな子もいるんだよ。

例えば、莉莉りりっていう猫怪びょうかい、黒猫のあやかし。

この子は妃の持ち物を奪って、太子様に処罰されそうになっていたんだけど

私が間に入って助けたんだ。あまりにも処罰が理不尽だったから。

かわいくて優しそうな子だったし、きっとこの先、友達になってくれると思う。


あとはね、漣霞れんかさんっていう弧精こせい、狐のあやかし。

彼女はちょっと攻撃的というか、天邪鬼あまのじゃくなあやかしで、太子様に化けて私をからかってきたりもしたんだけど、悪意はないと思うんだ。

何か事情があって、素直になれないだけなんじゃないかな。

根気よく話し続ければ、きっと心強い味方になってくれると思う。そんな予感がするの。


あと、あやかし後宮の雑事を処理してくれている宦官の文英ぶんえいさん。

彼が本当にいい人で、何でも希望を叶えてくれるんだ。

今書いている手紙や筆も彼が用意してくれたものなんだよ。

この手紙も文英さんに託して師父のもとまで届けてもらうつもり。

彼の協力があれば、きっとあやかしたちとも仲よくなれると思うの。

実はこの後、あやかしたちに料理を振る舞ったり、をやって距離を縮めようと思っていてね。


大変だと思うこともあるけど、毎日がとっても充実しているよ。

だから、私のことは心配しないで、師父は治療に専念してね。

そして、三年後には元気になった師父と雑技団の皆で必ず旅を再開させよう!


無事、あやかしたちと仲よくなれたかどうかは、この後のお楽しみということで。ふふふ。

また手紙を書くからね。

師父も筆が握れるようになったら私に手紙を送ってね。

それじゃあ、お元気で!



師父を誰よりも大切に思う養女 玉玲より

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