私がさがしたネコ

一色 胴元

第1話

馬鹿みたいに暑い夏の日だった。わたしは東池袋にある自分の事務所に自転車で向かっていた。時代遅れのブルーバードは先週中古屋に売ってしまった。そうしなければ今月の事務所の家賃さえ払うことができなかったのだ。時代は探偵に厳しく、私のような個人で開いている事務所はなおさらだった。自転車をこぐ私の頭は太陽の熱で温まり、滝のような汗が流れている。事務所の一階には中国人の夫婦が経営しているカレー屋があり、女性が店の前に水を撒いているところだった。

「今日は暑いね」と私は声をかけた。

彼女はにこやかに返事を返してくれたが、長いこと私はその意味を理解できなかった。中国は遠く、私の言語能力もどこか遠くで居眠りをし続けている。

私は自転車をカレー屋のわきに止め、郵便ボックスを軽くのぞき、二階にある事務所に向かった。


階段を登りながら、いつも期待している。

撃たれたやくざや母親の写真を持った少年や、赤いドレスを着て両切たばこをくわえた女性が私の事務所の前に所在なげにたっている姿を。

しかしいつも期待は裏切られ誰もいないガランとしたほこりっぽい廊下が私を迎えてくれる。仕方がないことなのだ。私が望んでいた世界は何十年も前のハリウッドでしかありえない世界だったのだ。私はここで現実的な世界と勇敢に対峙しなければならないのだ。


私は事務所のカギを開け、拷問にかけられて許しを乞うているような観葉植物に水をやるとデスクの前の椅子に座った。

「おっけー、グーグル今日の予定は?」

「…ぴ、今日の予定は迷子ペットの調査が一件です」

誰しも孤独には勝てない。私はスマートフォンでevernoteを開き今日、追跡する猫の情報を読み返した。茶トラ、6歳雌。3日前家人が夏の暑さに負けて、2階の窓をあけたところ、するりと抜け出したまま帰宅せず。居なくなった夜中に鳴き声が聞こえた気がしたが、その後は聞こえておらず。庭に出した餌は朝方減っている。

私は茶トラの顔をよく見た。そして夜が来るのを待った。猫を探すには夜がよいのだ。















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