解けた結び目

みなづきあまね

第1話 「私」のきもち

終わってしまった。いや、あれだけ解放されるのを待ちわびていたのだから、終わって一安心なのだ。大変骨の折れる仕事で、繁忙期は胃が痛かった。


今年任命された仕事の大半が終わり、残すは来年の担当者が決まったら、引き継ぎするだけ。基本的には、同じ人が続投することはない。大いに嬉しい。


でも、それは、あの人と今まで以上に疎遠になることを意味する。ただでさえこの業務以外では関わりが薄いのに、一層共通点がなくなるのだ。


既に二人でやるべきタスクはない。今は遠くで立ち話しながら笑う姿、真面目に机に向かっている姿、荷物を背負って帰宅する姿・・・何でもいいけれど、ただ彼を遠くから見るしか出来ない。


最初は一緒に働くことに気が進まなかった。だけど、彼の手際の良さや時々見せる優しさ、オフモードの時に無邪気に話す様子を見て、次第に会うことが楽しみになった。


彼はこんな私の気持ちなんて知らない。ただ会えるだけで幸せなのかもしれない。でも人間は欲深いから、遠くに彼を見ているだけじゃ物足りない。近くに行きたい。話したい。そして二人で過ごしたい。たとえ仕事という堅い時間でも。


あの端正な顔、一見冷ややかだけど笑うと柔らかくなる目に見つめられたい。日焼けして引き締まった腕、鍛えられた胸板に抱きしめられたい。


こんなこと、誰にも言えない。思いも伝えられない。


今夜も涙で枕を濡らそうか。

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