世渡り上手な道化師
みなづきあまね
世渡り上手な道化師
同じ職場、同じプロジェクトを担う男性同僚がいる。プロジェクトリーダーは私で、メンバーは全員年上なので、彼も年上となる。
どんなタイプの人とでも、すぐに打ち解け、その日に飲みに行くようなコミュ力お化け。若干変わり者なので、たまに裏ではネタにされる、少し暑苦しいタイプ。かの有名な元テニス選手から、爽やかさを引いた感じ・・・?笑
ちなみに私の恋する相手は、彼ではない!断じてない。しかし、彼は持ち前のコミュニケーション力で、普段なかなか飲み会に行かない私をやすやす誘い出し、数人でプロジェクトについてバーで語り合うこともしたくらい。結構頼りにはしている。
「ちょっとお願い!」
ある日、彼が仕事の相談に来た。私が振った仕事の文面で、細かいニュアンスに悩んでおり、判断を求めに来た。
そのついでに、ちょっと気になることを漏らしてみた。
「あの、そっけない対応をされる場合って、どう接すればいいんですか?」
「はあ?前も似たようなこと言ってたけど、本当ネガティブっすよね。うーん、あまり気にしないのが得策じゃん?」
「そうなのかな〜」
あまり納得しない感じで、次はプロジェクトに必要な資料を会議室の棚に取りに行き、二人でああだこうだ話した。
その帰り、カフェスペースにコーヒーを
買いに寄ると、意中の彼が後輩たちと話していた。ええ、女の子とあんなに楽しそうに話すことあるのか・・・落胆。
そんな様子を横目に見て、私たちは仕事場に戻っていった。
ここからは紛らわしいので、コミュ力お化けは「道化師」と称する。
「ねえ、あの人ってあんなに笑って話すことあるんですね。」
私は道化師に口を尖らしながら言った。
「ん?あ、もしかして、そっけない対応するのって、あいつ?!なにそれ、君さ〜気持ち悪いんだけど!そんな気にするのー?!」
「酷くないですか?!だって、気持ちよく仕事したいのに、話しかけてもそっけないし、怖いし、なに考えてるか分からないし。」
あまりの馬鹿にされ方で、私はムキになった。二人でぶーぶー言い合っていると、噂の彼が近くまでやってきた。資料を整理している。
「お、噂すれば!言っちゃおうかな〜」
ガタッ!思わず私は席を立ってしまった。あー、彼に見られたっ!
「お願い!言わないで!絶対!無理!」
道化師は私が彼を好きなことは知らない。だからこそ、余計な波紋は広げたくない。
「はいはい、落ち着いて〜」
道化師は私の肩を叩くと、自分の席に戻っていった。
ー 後日談 ー
会社の男子会。
「お、お疲れ様でーす!」
既に盛り上がりを見せている宴席に、彼が遅れてやってきた。
道化師は相変わらず、珍妙な話題を振りまいたり、後輩をけしかけたり。
宴が進むに連れて、席は流動的になる。ビール瓶を持った道化師は、彼の隣に腰を下ろした。
「お、飲んでる?」
「はい、いや〜いいっすね、暑い日はビールがやっぱり旨い。」
彼はなかなか酒好きで、アルコールが入っているせいか、いつもよりテンションが高い。
「あ、そうだ。俺のプロジェクトリーダーいるじゃないっすか。ああ見えて馬鹿みたいにコミュ障でさ、人にそっけない対応される度にうじうじしてるわけ。一見強気に見えんのに、結局女子なんだよ。」
「そうなんすか?たしかに隙無さそうっていうか。あー、でも案外凡ミスは多いかな。」
彼は特に思うとこなしって感じでビールを口に運ぶ。
道化師は爆弾を投げた。
「こないだ、カフェスペースでお前が女子と話してるの見て、『あんな風に笑うんだ〜私にはそっけないのに・・』って、涙目で言われたわ!」
彼の腕が止まる。
「え、は?!そっけなくした記憶ないっすよ?てか、え、何それ?」
冷静な彼の目が左右にふれた。
「さあ、好きなんじゃん?知らん!」
道化師はニヤッと笑うと、斜め前の上司と飲み始めた。
(お前が俺のリーダーを好きで緊張して話せないのは知ってるぜ、見たらバレバレ。ま、頑張れよ〜)
翌週、今まで以上にギクシャクした対応をしている彼と、そっけなくはなくなったけど落ち着かない対応になったのを不思議そうに見守る「私」を、側から見て道化師が笑いを堪えていた、とか。
世渡り上手な道化師 みなづきあまね @soranomame
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます