奪われていく心
それからロコと
「――チッ、アイツ来やがったわねぇ……」
だけれど、その平穏を壊すかのように最悪のタイミングでヤツがやってくる。それに気づいたロコは露骨なほどにわかりやすい舌打ちをして、見るからに不機嫌そうな顔をしてそう言った。
「アイツって?」
対して察しが悪い真華はその正体にはまだ気づいておらず、ロコにそんな単純な質問をする。
「追っ手よ」
「ハァッ!? でも、ここには結界が――」
「ええ。でも、一度あなたを入れるために結界を開けたでしょ? おそらくその時に場所を特定されたのよ」
とは言っても、結界が解除されたのはほんの数秒のこと。それだけで特定できてしまうということは、おそらく敵たちはセンサーを世界中ありとあらゆるところに張り巡らせ、毛先の先の先まで意識を集中させてその時が来るのを今か今かと待機していたのであろう。そのねちっこさに、さらに苛立ちを加速させていくロコ。今すぐにでも魔法で殺したいほどに、憎しみが湧いていた。
「そうだったのか……ごめん」
「いいのっ、それよりも今はヤツを倒すことが先決。待ってて、すぐ殺してくるからっ!」
そんなバツが悪そうな真華を励ますように明るい顔をして、そして次にとてもその顔に似つかない残酷なことを言っていく。その態度はどこからどうみても余裕そうなそれで、リビングから駆け出してそのまま勢いよく家を飛び出していく。だが――
「――ンッ!? しまった!」
家を出てすぐのところで、地面から儀式の時に見たような円状の光が放たれてロコを内包していってしまった。そしてロコはやらかしたと言わんばかりに、どこか悔しそうな表情を見せながらも、その場で徐々に足を曲げて行き、最終的にはうずくまってしまう。
「なんだ、どうしたんだっ!?」
そんな状況を目の当たりにした真華は明らかにロコに何か危機的状況に
「ヒーヒッヒッヒッ! かかったわね、
それと同時にどこからともなく、先程2人を追って攻撃をしかけてきた魔女が2人の前に現れる。薄気味悪い笑いをしながら、悪魔にも似たような凶悪な顔を
「くっ……こんな
それは体を
「これであなたは動けない。もう死んだも同然ね、なぶり殺しにしてくれるわッ!」
ロコに対して殺意丸出しの魔女がもはや勝ったと言わんばかりの余裕綽々っぷりを見せ、煽っていく。そして右手を広げ、指の第一関節を曲げてまるで何か球体のようなものを持つように手の形を変えて魔力を溜めていく。魔力が溜まっていくと共に、右手から電気がビリビリと音を立てて火花のように周辺に飛び散り始めていた。そして――
「
と大声を上げて、前回よりも上級な雷魔法を発動させる。それは見るからに凄まじく、その電気はもはや右手ではなく全身で帯電し、オーラのように身にまとっていた。そして右手をロコへとボールを投げるように振りかざしていく。すると、その手のひらからどデカイ電気を帯びたビームようなものを発射していく。
「危ないッ――」
このままではロコがやられてしまう。そう本能的に悟った真華は居ても立ってもいられず、すぐさま走ってそのビームの軌道上へと向かっていく。そして両腕を広げてロコを庇うように、その雷撃をまともに喰らった。
「えっ? あなた……」
そんな思ってもみない行動を人間にされたロコは呆然と彼の姿を見つめていた。いくら不老不死の呪いにかかっているとはいえ、まだそれが本当に不老不死なのかも確かめていないのにも関わらず、すぐさま人を守るためにそんな行動に出る。それはとてつもなくバカな行動だけど、でも同時にカッコいいとロコは胸打たれていた。
「な、何ッ!? 人間が魔女を
呪いのことなんて
「ご生憎様。俺は不老不死なんでね」
「あなた、どうして?」
ロコは未だにその真華の行動原理に理解できずにいた。真華とはまだ出会って1日も経っていない仲。その僅かな時間でも特に仲を深めるようなこともしていないのに。それに普通の人間なら恐怖に打ち勝つことができずに、ただただ恐れおののいて怯えているだけなのに。何もかもがロコの想像の
「へっ、人を守るのに理由がいるか?」
そんなロコに対して、わざとらしくカッコつけて人差し指と中指を銃のようにロコに突きつけて、そう理由にならない理由を述べていく真華であった。
「で、でもっ!」
「じゃあ、お前に助けてもらったその恩返し。これで十分か?」
「あなたって人は……」
ロコにとって、ここまで自分のためにしくれる者は人生で初めてだった。そして、その言葉でどんどんと心を彼に奪われているのがわかった。自分のために、命を燃やして守ってくれる。そんなの、惚れてしまうに決まってる。
「くそ、クソッ! このやろぉおおおおお!」
一方で、『死なない』という事実がわかってしまった魔女はもはやヤケクソ状態になっていく。ドスの利いた低い声を荒らげながらも先程の電撃魔法と同じように右手を広げ、今度は真華の方に手の甲を見せて魔力を溜めていく。
「
喉が枯れてしまうのではないかと思えるほどに大声で魔法名を叫び、発動させていく魔女。発動と同時に、右手からは青い炎がメラメラと発生していき、右手を丸ごと覆ってしまった。そしてそれを素早く自身の足元に、地面に手をつけるように持っていく。地面に手のひらがついたと同時に、その青い炎はまるで生き物のように右手から伸びていき、まるでコンロに火を点けた時のように一気に真華の周りを囲むように点火した。
「アッチッ!?」
その熱さはとても日常生活では味わうことのないほどの高熱で、その熱さで溶けてしまいそうなほどだった。しかもその青い炎は真華を追い込むように徐々に徐々に距離を詰めていく。そうなると当然その中の温度も上がっていき、もはや灼熱地獄のような状態となっていた。
「ふんっ! 死なないまでも傷はつくだろう! 業火で焼き尽くし、死よりも辛いものを味わせてやろう!」
魔女は『死なない』ということを逆手に取り、苦痛の状態で閉じ込めることにより、『死んだほうがマシ』というレベルの痛みを味わせるというなんとも三下のような
「……うっ、ウォォオオオアアッ!
そんな危険な状態になった真華を見て、ロコは痺れてろくに動かない体を必死に奮い立たせ、雄叫びを上げて魔力を高めていく。そしてある魔法を発動させていく。
『聞こえる?』
『えっ、頭の中に直接……!?』
頭の中、もしくは心の中というべきだろうか、とにかくその魔法のおかげで言葉を声に出さなくとも、会話が出来るようになっていた。
『テレパシーで繋いでるの。相手に策を聞かれないためにね』
『で、どうするんだ?』
『ごめんなさい。少しの間、耐えててもらえる? 辛いだろうけど、準備が出来たらすぐにでも助けてあげるから!』
麻痺という制約があるために、いつもならすぐにまるでマシンガンのようにポンポンと魔法を発動できるが、今は1つ発動させるのがやっとぐらいにまで落ちていた。ロコはその次の発動可能となった状態の時に、この最悪の状態から脱却し、一気に攻めるつもりであった。
『おう、任せとけ!』
そのロコの頼みに、自信満々そうに言っていく真華であった。
「これならどうだッ!」
そんなテレパシーでの会話の最中、次に発動するための魔力を溜めた敵の魔女は先程の青い炎を消し去り、
「
「うぅ……さっム! 今度は氷かよっ! うわっ、しかも足が凍っていくッ!」
今度はさっきとは正反対に氷系の魔法を発動してきた。まるで吹雪のように真華の周りには雪が舞っていく。それは今度は凍死してしまうほどに寒く、真華の足元が凍っていくほどであった。このままでは体が凍ってしまい、身動きが取れなくなってしまう。実は、それこそが魔女の狙いであった。庇ったり、阻止されてしまうのであれば、その元をそもそも動けなくしてしまえばいいのである。いくら死なないとは言っても、動けなければ盾にもならない。真華への攻略法が出来てしまい、いよいよピンチになったところで、
「よしっ!」
ロコが麻痺状態でも意識を集中させて魔力を溜めて、真華を助けるために準備を進め、それを完了させる。そして、
「
と宣言して、震える手で地面に貼られている結界に、なんとかして触れていく。するとガラスが割れるような音と共に、その結界がいとも簡単に粉々に砕け散って崩壊してしまった。これでロコを縛る要因もなくなり、さあ反撃とロコは立ち上がって、次の魔法に移ろうとしたその瞬間、
「そうはさせるか!
敵の魔女が移動魔法を使用し、その場から消えてしまう。相変わらず真華は足が凍ってしまって動くことができず、どうにもロコを守ることが出来なかった。敵の魔女は上級の魔法を発動させるまでに魔力を溜める必要があるので、そうすぐには攻撃できまいと、ロコはマナから場所を特定しようと探索を始める。だが、
「……そして、死ね」
移動魔法で転移してきた場所はなんと、ロコの後ろで背後を取られてしまう。探索に労力を回したことにより、次の攻撃への対策が
「
「うっ……グハァッ!?」
魔女の右手から光の刃がゆっくりと伸びていき、それでロコの背中から腹部を貫かれてしまった。
「ふふ、フフフッ! こぉれぇでぇー? きぃさぁまぁはァー? シヌゥッ!」
もはや既に魔女には笑みが堪えきれず、とてつもなく幸福な時間が訪れていた。本来の敵は真華ではなく、ロコなのである。彼女は不老不死ではない。だからこそ、殺すことができる。この魔女にとっては、裏切り者である彼女さえ殺せればそれでよいのだ。魔女は勝利を確信し、これからの、ロコがいなくなった最高峰に幸せな楽園の世界がやってくることに、究極の喜びを感じていた。
「……ふっ、そいつはどうかしら?」
だが、ロコは全くもって平気そうな声色で、魔女にそう疑問を問いかける。
「な、何ッ!?」
まるでゾンビのようにタフで、簡単に死なないロコに驚愕する魔女。今も現在進行系で、ロコは体を刃が貫いているのである。だのにひとつも苦しそうな声色もなく、痛そうな感じでもなく、むしろ余裕と言ったその言葉は敵の魔女はもはやわけがわからず、困惑するしかなかった。
「残念だったわね。私にかけられた呪いもまた、不老不死だったみたいっ!」
ロコは魔女の方へと顔を向け、満面の笑みでその最悪の事実を告げていく。
「なん……だと……?」
その事実に、絶望する他なかった。ただでさえ、右に出るものはいないと言われるほど最強の魔女なのに、それが不老不死の能力を得てしまったら、もはや完全に『無敵』となってしまう。つまり誰も
「
そんな最中にも、先程使用した魔法をロコは再び使用し、その光の刃に触れていく。すると光の刃は粒子となって徐々に徐々に、空へと昇って消滅していくのであった。そして同時に貫いて空いてしまった肉体はまるで何もない空間を侵食していくかのごとく、じっくりと着実に再生されていく。しかも着ていた服も再生するというおまけつきで。どうやらロコにかけられた呪いには肉体再生も含まれていたようだ。
「さて、よくもやってくれたわねっ! 私の好きな人を傷つけるなんてっ、絶対に許さないッ!」
さて、反撃の時間である。好きな人を散々いたぶってくれた魔女なのだから、お返しはたんまりとするべきであろう。ロコは魔女の方へ振り返り、睨みつけるような目つきでそう言葉にする。
「ヒッ!?」
自分の死というものを直感的に悟った魔女は恐怖で震え上がり、腰を抜かしてしまう。だけれども、その状態でもどうにか逃げようと必死に後ずさりをして、その場から離れていく。その最中にも、恐怖というパラメーターはどんどんと上がっていき、突き抜けて壊れてしまいそうな勢いだった。
「逃さないわよッ!」
だがロコは逃げることを許さなかった。せっかくできた遊びの
「
なので、逃げられないように魔法をかけていく。
「あ、ああっ、足がぁ……イヤァッ!」
それは自分自身の影から黒い手が伸びて、逃げないように足をしっかりと掴んで離さない、というものであった。その効果で魔女の足も黒い手に拘束され、ただ手で掴まれているだけなのにどんなに動かそうとしても、まるで動く気配がなかった。そのせいで、さらに魔女は恐怖で恐れおののき、もはや発狂しそうなほどに壊れてしまっていた。
「ねえ、『
そんな状態になっている魔女なんてお構いなしに、ロコは彼女にそんな質問を投げかけていく。魔女、というより魔法を扱うものなら誰もが知っている基本的なこと。それを今更、この状況下で訊いていく。
「真の、効果……? ハッ、ま、まま、まさかっ!?」
ロコの言葉で自分の頭の知識を探り、その答えを導き出してしまう。そしてロコの思惑に気づいてしまった彼女は、またしても絶望させられ、さらに恐怖を無理矢理に植え付けられていく。
「そう、打ち消した魔法の力をエネルギーとして溜め、次回以降の攻撃魔法に加算して発動させることができるの」
わざとらしく説明口調でロコは『
「いや……イヤァッ!」
「ふふっ――」
そんな命乞いにも似た叫びを上げる魔女を見つめながら、ロコはいつか見せた不敵な笑みをこぼし、その特徴的な藤色の瞳をまるで夜の猫の目のように光らせていく。そして、
「
殺すための魔法を発動すると、直ちにその敵の魔女は足先から石化が始まっていく。そのスピードは驚異的なもので、石化に恐怖する間もなくほぼ一瞬にして頭の頂点へと辿り着いてしまった。何も知らない者が見たら、よく出来た石像と見間違うほどに完全に灰色に全身が染まってしまったのだ。
「さようならっ!」
そしてもはや彼女には届かない言葉を、届かないと知りつつ投げかけて、自分の指先を彼女のちょうどおでこ辺りに持っていく。そして、
「
指先からごく微量な雷撃を放ち、石像と化した魔女にヒットさせる。するとその当たった部分からヒビ割れのように破壊が始まり、窓ガラスが割れるように全体に伝わって全てが粉々に砕け散って崩壊してしまった。それらは全て地面へと落ちていき、
もはやそれが元々は生物であったとは思えない程に、ただの石の破片の山となったのであった。
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