第58話 どうするんですか!?

「オタク君!」

状況を理解出来ていない鳥居ちゃんとミカエル君が駆け寄る。ハハハ2人はいつも通り可愛いな、ハハハ。


「2人とも今日はどうしたの?」

「ソフトクリーム!姫さまたちが買ってくれるって!」

「ソフトクリームは溶けちゃうのでお土産にできないから、一緒に食べに行こうって!」


―― ピュアな2人が眩しいな。イケメンぶりを自慢したい、どこかの重要文化財とは大違いだ。


「僕も初めて食べるんだ。さあて注文しようかな〜」


がし!

肩を掴まれた。


―― 逃げられないやつだ。


諦めて振り返ると市杵島姫命いちきしまひめのみこと様と田心姫命たごりひめのみこと様と目が合った。


市杵島姫命いちきしまひめのみこと様と田心姫命たごりひめのみこと様もソフトクリームですか?僕は“バニラのせ もみまんソフト”にするつもりです」

「私もおんなじ!」

「僕も!」

「じゃあ、一緒に注文するね」


「注文は鳥居とミカエルの分だけで良い」

「オタクは我らと話があるじゃろう?」

「……はい」


嬉しそうにもみまんソフトを食べる2人に、いいなあ。あの2人の仲間に入りたいなあ。と目で語るオタク神主。


不動明王と湍津姫命たぎつひめのみこと様の方は見ない。見ないったら見ない。



「どういう成り行きじゃ?」

「……。」

「オタクよ…」

困り果てたような市杵島姫命いちきしまひめのみこと様と田心姫命たごりひめのみこと様の声に負けて、死んだ目のオタク神主が秘密の会議から先ほどの不動明王との約束までの成り行きを説明した。


「そのような約束の直後にあれか……」

「これ以上、僕らにできる事はありません」

「うむ。迷惑を掛けたな」


「……。」

市杵島姫命いちきしまひめのみこと様と田心姫命たごりひめのみこと様がおかしい。理解があり過ぎる。いつもは、もっとワガママなのに。


「ワシは直ぐに湍津たぎつを連れて帰る」

「ワシは遅れて鳥居とミカエル君を連れて帰る」

「じゃ、僕は最後にお不動さんを回収しますね」




呆けて無言の不動明王を連れ帰った後、僧侶と神主たちだけの会議が始まった。


「と、いう訳で……」

「僕たちの努力は何だったのか……」

「こうならないように対策したのに…」


「先輩たち…、姫さまたちを引き留めるって言ったのに……」

「すまん…お役目について打ち合わせするからって約束していたのに、“あとでじゃー”と言って振り切られた」

「僕ら、生身の人間では太刀打ち出来なくて…」

「まさか同じ場所に行っていたとは…」

神主と僧侶たちが揃って項垂れる。


「……とはいえ、僕たちは出来るだけのことしましたよね?」

「自分もそう思う」

「これは2人の問題だよね」

「……。」


人間たちは、もう首を突っ込まないことにした。



「オタク〜」

「メタボ〜」


もう首を突っ込まないことにしたのに、翌日には市杵島姫命いちきしまひめのみこと様と田心姫命たごりひめのみこと様が泣きついてきた。


「こういうことは当人同士の問題ですから」

「周りが口出しすると、余計にこじれますよ」


「オタクとメタボが冷たいのじゃ〜」

姫さまたちがかわいい。


でも心を鬼にして断る。

「当人同士の気持ちの問題ですよ」

「それに姫さまたちが、どうにも出来ないのであれば僕らに何かできる訳ないですよ」


「ワシら一緒にいる時間が長いじゃろ…」

「ウザいのじゃ……」


「姫さまたちでダメなら僕らに出来ることはないですよ」

「それに、付き合っている訳じゃないですし……」


「好き合っているのは明らかなので、湍津姫命たぎつひめのみこと様が、お不動さんに『好き合っているんだから他の人に良い顔しないで』と伝えれば解決ですよね?」

「もう堂々とイチャイチャしてもらったら良いですよね」

「よそ見することは無くなるでしょうから解決ですよね」


「……湍津たぎつが不動明王に、それほど強気になれるかのう…」


「そういえば…湍津姫命たぎつひめのみこと様がウジウジされていることは分かりましたが、お不動さんはどうなさっているのでしょうか」


「……。」

「お不動さんのご様子を確かめてみましょうか?」

「そうじゃな」



―― 不動明王は愛犬のメイちゃんを相手にウジウジしていた。


「メイちゃん……。ワシは世間に誤解されてしまったようじゃ。生まれながらにイケメンなのはワシを製造した仏師のさじ加減で決まったのじゃがな」


―― ウジウジしているのかイケメン自慢なのか分からない愚痴ですね。


―― 湍津たぎつは、此奴の何処に惚れているのだ?


―― イラッとくるのう。


―― メイちゃんがポカンとした顔でお不動さんを見上げていますね。


市杵島姫命いちきしまひめのみこと様と田心姫命たごりひめのみこと様とオタク神主とメタボ先輩が不動明王の様子をうかがいながらコソコソと話していると、鳥居ちゃんとミカエル君がやってきた。メイちゃんの散歩の時間のようだ。


「不動明王様!」

「おお、鳥居ちゃんとミカエル君か」

「どうしたの?」


「ちょっと落ち込んでおってな…。昨日、ワシは世間から誤解されてしもうた。ワシは製造当時からイケメン設定で…現代風にアップデートしたら現代のイケメンになってしもうたので通りすがりの人間からも視線を集めてしまうのじゃ」


「もとの不動明王様の方が目立っててジロジロ見られると思う!今の不動明王様は結構普通だし、そんなに目立っていないと思う!」


―― お不動さんが言葉を失っていますね。


―― さすが鳥居じゃ。スカッとしたわ。


「世間から誤解じゃなくて、通りすがりの島民の皆さんからモテようとポーズを取っていた場面を湍津姫命たぎつひめのみこと様に見られて気まずいと言いたいのでしょう?

なぜ気まずいの?恋人同士でもないのに?」


―― さすがL'amour《アムール》の国のミカエル君。ウジウジは恋に含めないと切って捨てた!


―― いいぞミカエル君、遠慮が無くて最高じゃ!


「な!…こっ……あ…」

一言も言い返せない不動明王。


「ですから不動明王様は湍津姫命たぎつひめのみこと様の機嫌を気にする必要はないと思うよ」


―― ミカエル君が正しいと思います。


―― うむ。


「もし、これから恋人同士になるとしても、

過去のことは2人の未来に関係ないし。

恋人同士にならないのなら、なおさら関係ないし。関係ない者同士がお互いを気にしてウジウジして、周りに迷惑を掛けるのはいけないと思う」


―― ミカエル君、大人〜!



ぼふっ!

湍津姫命たぎつひめのみこと様!」


少し離れた場所で不動明王の様子を探っていた湍津姫命たぎつひめのみことに鳥居ちゃんが抱きついた。


誰にとっても不意打ちだった。

ミカエル君に気を取られ、鳥居ちゃん以外、誰も湍津姫命たぎつひめのみこと様に気づいていなかったのだ。


―― げっ!


―― どうするのじゃ!



「ねえ、湍津姫命たぎつひめのみこと様は不動明王様のことが好きなの?」


―― 鳥居ちゃん、直球過ぎるよ!


「な!なななな!」

真っ赤になってしまった。


湍津姫命たぎつひめのみこと様は不動明王様のことが好きなので、気になって仕方がなくてここに来たのでしょう?」


「な!」


「不動明王様は湍津姫命たぎつひめのみこと様のことが好きなので、姫さま以外の女性に良いかっこして見せたことを後悔しているのでしょう?」


「そ!ぬあ!」


―― ミカエル君はズバズバ過ぎぬか?


「ええー!お互いに好きなのにくちもきかないの?」

「僕も変だと思う」


「……。」

「……。」


鳥居ちゃんとミカエル君が不思議そうに2人を見上げる。


「……。」

「……。」

「…ワシは!湍津たぎつのことが!好きだ!だから!毎日!会いたい!」

「……。」


「嫌か?」

「嫌ではない…」

湍津姫命たぎつひめのみことが鳥居ちゃんの耳をモミモミしながら答える。


「嬉しいんでしょう?」

こくり。

ミカエル君の問いかけに肯いた。



「メイちゃんお待たせ」

「お散歩だよ!」


鳥居ちゃんとミカエル君はドライだった。

話が纏まるや、振り向きもせずメイちゃんと共に去った。

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