第47話 モン・サン=ミッシェルのご飯

「こんにちはー!」

「遊びに来ましたー!」


今日も「鳥居のようなもの」を通って鳥居ちゃんとミカエル君がモン・サン=ミッシェルにやってきた。

「いらっしゃーい」

いつもの3人組が2人を出迎える。


「この間テレビで見たお料理を再現して食べたんだよ」

「日本のお料理番組?」

「お寿司かな?」


「カフェ・オ・レ パスタ!」


鳥居ちゃんの答えに凍りつく3人組。

苦笑するミカエル君。

「食べられるものだったよ」

ゲテモノでは無かったらしい。


「面白い味だった!」

鳥居ちゃんは楽しそうだ。美味しい料理を食べたというよりも、楽しく遊んで、ついでに食べた。という感覚なのだろう。


いつものようにドアの陰で話を聞いていたスーツ男は、もう黙っていられなかった。


バターン!

「本当の料理というものを食べさせてやるぞ!」


驚いた3人組の視線を受け、冷静さを取り戻したが後の祭りだった。

喜ぶ鳥居ちゃんにまとわりつかれ、浮かれながら今日ある材料でできるのはガレットだな。とか言ってしまったのだ。



冷静さを取り戻した状態で厨房に移動し、エプロンを掛けた。後悔しかない。


―― スッ。

「ガレット・コンプレットの材料ですよ」

3人組がスーツ男をサポートする。

「君たち…」

「さあ、どうぞ。」

3人組が優しくて泣きそうだ。


「そば粉と薄力粉、塩少々をしっかり混ぜて、あらかじめ混ぜておいた卵と水を合わせたものを注いで混ぜる。

しっかりと混ぜたら、油をひいたフライパンで焼く。弱火でじっくりだ。

生地の表面が乾いたら、ハムとチーズを乗せて卵を割り入れる。蓋をして卵が半熟になったら、端を折って正方形にする。

胡椒を振って、盛り付けて出来上がりだ」


手際よく人数分のガレットを焼いて全員でテーブルについた。

「とっても美味しそう!ねえ食べても良い?」

「もちろんだ」

ぐるぐる回る鳥居ちゃんの尻尾に悶絶したい気持ちを抑えて冷静に答える。


「いただきまーす!」

鳥居ちゃんはナイフとフォークの使い方が上手だ。

もぐもぐもぐ……。


「美味しいね!」

鳥居ちゃんが大喜びだ。


「チーズやハムの塩気と卵のまろやかさが合うよね。生地も美味しい」


「おお、神よ!」

petit(プチ)ミカエル様からの高評価に目頭が熱くなるスーツ男。


「ソバ粉のガレットはフランス北西部に位置するブルターニュの郷土料理なんだよ」

「ブルターニュ地方は雨が多くて小麦の育成には不向きな土壌でね…、中国原産のソバがイスラム諸国を経由して十字軍によってもたらされたんだ。

ソバは痩せた土地でも充分に育つから貧しい農民や労働者の主食になったんだよ」


感動で喋れないスーツ男に変わって3人組が会話を引き受ける。


これより、お出迎えとお茶は3人組の担当。軽食や料理はスーツ男が担当と、ざっくりと棲み分けられるようになった。


スーツ男と3人組の距離が縮まるきっかけとなる出来事だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る