第39話 ミカエル君の疑問

「神仏習合?」


「そう。1000年以上かけて構築されたんだよ。いろいろな考え方が複雑に絡み合っていて一言では説明できないんだけど…」

「日本で、もともと信仰されていた宗教とインド発祥の仏教が長い時間をかけて融合したんだよ」


「だから、お寺のみんなと神社のみんなは仲が良いの?仏教が伝来した時、宗教戦争が起こらなかったの?」

「当時の真実は分からないけど、喧嘩するより、仲が良い方がいいかなー」

「仲の悪い人たちもいたみたいだけどね」


「合わない人っているからね」

「そうそう、絶対に仲良くなれない人っているんだよね」

「そこはもう仕方ないよね」

「その場合は仲良くなる以外の方法で解決しないとね」

「人間は、それができるはずだと僕らは信じているんだよ」

「大聖院は宮島島内で最も古いお寺でね、かつては厳島神社の別当寺として祭祀を司っていたんだよ」


僧侶のみんなと、神主のみんながミカエル君の疑問に、とことん付き合ってくれた。

ミカエル君がワールドニュースを見て落ち込んでいたことに気づいているのだ。宗教対立が原因で起こった紛争についての報道だった。

ミカエル君は宗教の対立も見てきた。

宗教上の対立ではないがモン・サン=ミシェルの修道院はフランス革命時に閉鎖され、監獄として使用された歴史を持つ。ニュースを見て色々なことを思い出したミカエル君。

神道と仏教の共存に興味が湧いたようだ。



スターン!

「焼けたぞ!」


しんみりした雰囲気をものともせずに、不動明王がふすまを開けてズカズカと入ってきた。

最近の不動明王は、お取り寄せだけでは物足りず、自分でスイーツを作り始めた。

お取り寄せはメタボ先輩の担当だが、スイーツ作りに付き合わされているのはオタク神主だ。


「今日はマドレーヌです。インスタ映えを意識した盛り付けとなっておりますので、写真を撮りたいとご希望の方はどうぞ」

説明するオタク神主の後ろで腕組みした不動明王が見下ろしており、ちょっと怖い。


レースペーパーを敷いた上に、粉糖で薄化粧した貝殻型のマドレーヌ。花やリボンで装飾されたプレートと不動明王との組み合わせに違和感が半端ない。

さあ、存分に写真を撮るが良い!という圧も半端ない。撮らないという選択肢はあるのだろうか。


「さーて、その間に僕はお紅茶でも淹れてきましょうね」

オタク神主が逃げた。


「すごいよね!粉と卵がマドレーヌになっちゃうなんて!」

不動明王の圧の中から鳥居ちゃんが飛び出した。


「鳥居ちゃん!」

「鳥居ちゃんもお手伝いしたの?」

安堵の表情を浮かべる僧侶と神主たちから、鳥居ちゃんに質問が集中する。

そばで応援したよ!」

「そ、そう!」

「応援したの!」

「うん!」



緊張のあまり、仏像に戻りそうな不動明王がミカエル君に話しかける。

「な、なあミカエル君…1つどうだ?」

「焼きたてで美味しいよ!」

「ありがとう、いただきます」

「……。」←緊張の不動明王


「美味しいね!」

「そ、そうか!美味いか!フランス発祥の焼き菓子だからな、ミカエル君の評価が気になって仕方なかったわ!」

「フランスの子供たちが一番初めに作り方を習う焼き菓子だよね、焼きたても美味しいけど焼いた次の日はバターが馴染んで、また別な美味しさだよ」

「うむ、さすが本場のアドバイスじゃ。多めに作ったので半分近く厨房に残してある。みんな遠慮なくしょくせ」


「いただきまーす!」

鳥居ちゃんが美味しそうに食べるのにつられて僧侶・神主たちも手を伸ばす。


「ほう」

「これは、なかなか…」

「しっとりして美味いな」

僧侶と神主たちの反応も上々だ。


気を良くした不動明王の口が軽くなる。

「それでな、ワシのブログ、“お取り寄せ不動”なんじゃが、最近手作りも始めて…お取り寄せの枠をはみ出してきたじゃろう?

タイトルを“スイーツ不動”に変えようか悩んでおるのじゃ」



「ブログ、やってたんですか…」


意外とブックマークされている人気ブログだった。

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