第19話 愚痴聞き地蔵
「はあ、平社員ならぬ平地蔵は辛いなあ。
上長の愚痴が朝までコースでも残業手当はつかないんだよなあ」
ポテポテと歩いて参拝者の愚痴ノートを読みに行く。
御朱印の受付に置いてあるノートには、生々しく切実な悩みが多い。
「嫁姑問題は定番だな。浮気にリストラに借金…。たまにあるアホな小学生の書き込みが癒しだよ」
……参拝者の愚痴を供養して戻る途中で狸僧に捕まった。
「狸僧はタレ目を活かして、可愛い系弟キャラのイケメンに進化したのだろう?」
「それなんだよね……」
狸僧が、はあーとため息をつく。
「キャラクター・メイキングのやり直しは自由だろう?」
実際にキャラが定まらず、何度もやり直す仏像もいる。
「そうなんだけどさ…」
「?」
「俺、このキャラも嫌いじゃないんだけどさ…。なんていうか、ベースとなる
「それは、そうですね」
「俺、元が狸だからタレ目じゃん?進化先もあんま選べなくてさ…」
「ご不満なのですか?」
「いや、このキャラも嫌いじゃないんだ」
「……。」
狸僧が自分から話すのを待つ愚痴聞き地蔵。
「愚痴聞き地蔵はさ、あれ観た?」
「あれとは?」
「007 カジノ・ロワイヤル」
「観ておりませんが」
「そっか…」
「有名なスパイアクション映画ですよね?」
「そう。それで…すっげえ格好良かったんだ」
「ボンドが?」
「ル・シッフルが」
「……。」
ル・シッフルが分からない愚痴聞き地蔵。
「つまり、ル・シッフルにキャラを寄せていきたいのですか?」
「ル・シッフルじゃなくて、ル・シッフルを演じたマッツ・ミケルセンな」
どんぐり眼の狸僧をじっと見つめる愚痴聞き地蔵。…手元のスマホでマッツ・ミケルセンを検索した。
……無理!似せるの無理!絶対に無理!
「ちょっと検索してみたんですが…胃腸が弱そうな方ですね」
似せるのは無理とはっきり伝えずに会話を終わらせようと無難な返事をしたのに、めっちゃキレられた。
理不尽!
しかし愚痴聞き地蔵は業務内容に見合う超高給取りだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます