訂正

「でもきっと違う」

少年は、

静かに、しかし迷うことなくそういった。

「俺は兄貴のために大学に行く。

それは兄貴がすきだし、

兄貴が俺のために働いてくれてるから。

付け加えるなら、

兄貴の叶えられなかった夢だから。」

ゆっくり、噛んで含めるように、

少年は語り出す。

「だから、俺、大学に行きたいんだ。

……でも多分、

早川さんは違うだろ?」

お父さんに言って欲しいんだ。

ピクリ、と少女の肩が揺れた気がした。

「お父さんが笑顔だと嬉しいのも。

お父さんのために頑張りたいのも。

全部。」

少年は、1歩踏み出した。

それを感じて、少女の顔が彼を見た。

「早川さんを娘として。

呼んで、認めて欲しいだけなんだ。」

そうだよね?

少年はまた1歩進む。

「それの何が悪いの?!

同じだよ!鹿島くんとおなじ!!」

「違うよ」

「どこが?!」

少女も立ち上がって1歩踏み出した。

「兄貴は恩を着せてるわけじゃない

俺が大学に行くかどうかは、俺の自由だ」

「っ」

「でも早川さんは違う。

自分がやらなければ、

『父』という恩は貰えない。」

多分、それは俺とは違うよ。

少年は、

少し顔をゆがめてそういった。

「でも!

……でも」

少女はそう繰り返したが、

何も言葉を発さなかった。

その代わり項垂れ、そっと呟いた。

「…そうだよね…」

「……どこかで、分かってたんだよ…

私は、人をころす対価に、

お父さんを買ってるんだなって……さ」

瞬間、わっ!と少女は顔をおおって泣き出した。

「わぁぁぁぁあああん!!!」

それは今までのむなしさへか。

自分の運命を呪ってか。


少年は、それをただ黙って見ていた。

その顔は歪んでいて、

悲痛そうにその姿を写していた。


「……鹿島くん」

ズズ、と音がして、

枯れた声がそう呼んだ。

「私、お父さんを殺して、私も死ぬ」

もうそれしか償うことなんて出来ないよ……

「何人も、殺しちゃった……」

うっ、ひっく、と嗚咽が聞こえる。

「それじゃ何も変わらないじゃん!」

「でも!

そうでもしなきゃ

お父さんから私は逃げられないし!

私の罪は、死ななきゃ償えないよ!」

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