夜七時に私は火星丼を作った
隅田 天美
料理の素人(一般人)が架空の料理を再現してみた実話 その4
来年の六月に公開され、完結する『新エヴァンゲリオン』。
私はこの作品がテレビシリーズだったころから見ているが、まさか、当時高校生だった私が四十代になっても『エヴァ』の文字を見るとは思えなかった。
テレビシリーズの『残酷な天使のテーゼ』で「女神にもなれないまま私は生きる」なんて歌詞があったが、とんでもない話で女神どころか最高神にさえなりそうな勢いだ。
思えば、『エヴァ』のあと、アニメ業界はかつてないほど注目を集める。
大人たちが『子供のもの』としていたアニメが下手なドラマや文学にも負けない表現や哲学がある事をエヴァが証明したためだ。
ただ、アニメオタクの中でもエヴァに対する見方は様々で熱心なファンもいれば私のように距離を置くきっかけになった人間もいる。
さて、『エヴァ』以降複雑な設定がもてはやされ、何の特技もない平凡(自称)な主人公(男)が何故か特別な力を持っていて異様にモテるというアニメが文字通り
特に綾波レイをモチーフにした無感情少女はクローン綾波だ。
その中で『機動戦艦ナデシコ』(漫画版は「遊撃戦隊ナデシコ」)が生まれた。
角川出版が両作品に関わっているのも注目したい点だ。
さて、ようやく本題の『機動戦艦ナデシコ』は基本的に「何が面白いんだろう?」な作品であった。
別に声優や絵や音楽に何の問題もない。
エヴァに劣らず、いい。
だが、肝心の
思わせぶりの用語や残酷なシーン、アニメオタクを馬鹿にする演出に私は辟易とした。
ある人が、「キャバクラアニメ」というのも頷ける。
まあ、あの当時のアニメの大半は「キャバクラアニメ」だったからナデシコだけに責任を押し付けるのはどうかと思う。
その中で『ホシノ・ルリ』に人気が集中する。
「馬鹿ばっか」
この台詞に世のオタク(男性)はメロメロになった。
劇場版にもなったが、あまりに毛色が違った作品になったため賛否が分かれた。
その後、アニメブームは終焉し、『機動戦艦ナデシコ』はどういう道をたどったか?
ナデシコは『スーパーロボット大戦』シリーズに出てパチンコになった。
その作中で何度か登場するのが『火星丼』なるもの。
『ナデシコ』艦内で食べられる料理である。
以前、古本屋で「何かの資料にできないかな?」と百円で買ったナデシコのフィルムブックに『火星丼』の作り方が書いてあった。
要約すると以下の手順になる。
・まず牛肉と玉ねぎを炒める
・人参と水を加えて煮る
・ネルガル(作中に登場する総合商社)食品のブランソースを加えてたこさんウィンナーを乗せて完成
ネルガルがない二千十九年現在。
私は、色々考えて勝手に「これってハヤシライスじゃね?」と推察した。
幸い、私の家にはハヤシライスの固形ルーがあるのでそれを「ネルガル食品のブラウンソース」とした。
あとはスーパーで牛肉と玉ねぎと人参、ウィンナーを買う。
まずは炊飯器でご飯と作る。
その間に半月薄切りにした玉ねぎと牛肉を鍋で炒める。
しんなりしたら水といちょう切りにした人参を加えて十五分ほど煮込む。
最後にルーを加えてハヤシライスは出来た。
後は小さいフライパンに十字の切り込みを入れたウィンナーを入れて中火で炒める。
ウィンナーはたこというよりチューリップ(作中に出てくるワープ装置)のようになった。
私は女子力を求められる料理は苦手なようだ。
炊き立てのご飯を盛り、ハヤシライスをかけ炒めたウィンナーを乗せて『火星丼』が出来た。
アニメのように人参を星形にくりぬいていないせいか、妙に殺伐とした料理になった。
食べてみる。
普通にハヤシライスだ。
それ以下でもそれ以上でもない。
ハヤシライスにウィンナーを乗せた味。
今、あなたが思い描いた味。
そのままである。
そういえば、主人公は最終回で自分の好きだったアニメと決別する台詞を言う。
「酷い最終回だった」
エヴァンゲリオンの庵野監督はアニメの現状をこう嘆いていた。
「今のアニメはオタクたちの慰めものである」
私は、子供たちや一般市民の娯楽や生活手段を間借りするのが『オタク』という存在であり、『オタク』メインの作品には近づけない。
(あくまでも個人的な意見です。面白い作品もあるのでしょうけど)
ーー変に激辛でもない、通ぶる必要もない普通のハヤシライス。
『機動戦艦ナデシコ』のスタッフは、本当はそんな作品を作りたかったのではないか?
そんな身勝手な想像をしつつ私は食事を終えた。
夜七時に私は火星丼を作った 隅田 天美 @sumida-amami
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます