第6話 告白

「総ちゃん、ちょっといい?」 


 午後十時。夏美はこの時間まで訓練場で稽古をしていた総次の下を訪ねていた。


「夏美さん、いいですよ」

「ありがとう」


 総次の誘いを受け、夏美は彼と共に訓練場の隅の長椅子に二人で腰を下ろした。


「陰と陽の闘気の調子はどう?」

「まぁまぁですね」

「そう……それならよかったわ」


 謙虚にそう言った総次に、夏美は優しく微笑んだ。どんな状況でも、自分のやるべき責任や義務から目を背けず、真正面から向き合おうとする彼の姿勢を尊敬しているからだ。


「この戦いで、新戦組とMASTERとの戦いに終止符が打たれる。それは間違いありません」

「そうね……」

「翼は本気です。あいつなら、今の警察や新戦組を単独で圧倒することも出来るでしょう」

「去年、総ちゃんが言ってたことが現実になったってこと?」

「あいつがMASTERのトップになることまでは予測できませんでした。でも、それが現実のものとなった以上、あいつには油断も隙もありません。心して掛からなければなりません」

「ちょっとやそっとの覚悟だと、こっちが負けちゃうってこと?」

「はい」


 自分の方を向きながら首を縦に振って力強く答えた総次の言葉に、夏美は改めて幸村翼の脅威を感じ取った。


「……総ちゃん」

「なんですか?」

「総ちゃんはこの戦いが終わったら、やり直すんでしょ?」

「ええ、その為にも負ける訳にはいかないんです。愛美姉ちゃんや麗華姉ちゃん。そして僕を助けてくださった新戦組の皆さんへの恩返しもあります。もう一度自分の人生をやり直す。それが、この戦いが終わった後に僕が歩む道です」

「そっか……」


 総次の選んだ道は茨の道かも知れない。それでも進もうとする総次の姿勢に、夏美の心の中に生まれた思いは大きくなっていた。そしてそれは、彼女のある決断をさせた。


「総ちゃん」


 そう言いながら夏美は総次の前に立った。


「夏美さん?」

「あたしね……ずっと総ちゃんに対して、思ってたことがあるの」

「僕に対し、思ってたこと?」

「それを今日、ここで言おうと思うの。ううん。ここで言わないと後で絶対に後悔すると思ってる」

「どういうことなんですか?」


 首を傾げ、夏美の言わんとしていることを理解できていない様子の総次。そんな彼に、夏美は一度大きく深呼吸をして……。


「総ちゃん」

「はい」

「あたし、花咲夏美は、一人の女の子として、総ちゃんのことが、大好きです」

「……えっ?」


 突然の夏美の告白に、総次はぽかんとした。


「女の子として、僕を……?」

「突然言われて、戸惑ってるかもしれないけど、あたしは本気よ。この世界で一番、総ちゃんのことが大好きなの……‼」


 力強く言い切った夏美、自然と彼女の身体は、足元から顔まで一気に体温が上がった。それが、自分が抱えていた総次への思いを、勇気を振り絞って伝えたことからくるものなのは、彼女にははっきりと分かった。


「……そういう、ことだったのか……」

「えっ?」

「僕が夏美さんに色んな事を打ち明けられるのも、最近になって夏美さんと一緒に居る時に、胸がドキドキするのも……」


 戸惑いながら言葉を紡いでいく総次。そして彼の言葉の意味するところが何なのかを、夏美は直ぐに理解した。


「総ちゃん……」

「夏美さん」


 そう言いながら立ち上がり、夏美の目を見つめる総次。


「僕は今まで、色恋沙汰というものを全く理解できていませんでした。でも、夏美さんに抱いたこの思いが何なのか、今なら分かります」

「それって……」


 目頭が熱くなる夏美。涙で揺らぐ視界に移るのは、今まで見たことのない、頬を赤らめ、もじもじする総次の姿だった。


「僕も、夏美さんが大好きです」

「総ちゃん……」


 嬉しさのあまり、夏美は総次に思いっきり抱き着き、総次はその衝撃で長椅子に腰を下ろした。


「絶対に生きて帰ってきて。この戦いで二人とも生き残ったら、あたし、ずっと総ちゃんと一緒に居たい」

「僕も、です。こんな色々と分からないことだらけの僕ですが、一緒に居たいです」

「うん、うん」


 初めて抱いた思いに戸惑う様子を見せる総次だが、それでも自分と同じ気持ちを抱いていたことを、夏美は心の底から喜び、そして大いに歓喜の涙を流した。

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