永遠の未来

 沖田総次の身体の闘気化と不老不死化。この二点の事実を知らされた新戦組一同は唖然としていた。


「……確かに、総次は死なない。でも、人として死ぬことが出来ないなんて……」

「強大過ぎる力を保有したまま、いや、それ以降も増大させながら永遠に生きる。あの子の背負うことになったものが、こんなに重いなんて……」


 総次を近くで見てきた修一・未菜の両者も、その衝撃に未だに怯み、そして総次のこれからに対して恐怖と不安を抱いていた。


「……ねぇ、麗華……」


 当の薫も、淡々と語っているが、その両手は細かく震えていた。かつて総次の力に注目し、半ば強制的に新戦組に入れたことそのものに対しての後悔は既に振り切っている。だがそれでも、総次の急速な成長に伴って発生した肉体的な弊害に強い衝撃を受けていた。


「……あの子のこれからのことは、私達には到底想像できないものになるわ。あの闘気によって、水瀬名誉教授の言っていた研究の失敗によって、あの子の人生は……」

「麗華……」


 両手を組んで額に当てながら嘯く麗華。だがそれに続き、麗華はこう言った。


「でも、あの子のことだから、きっとこう言うわ。これもまた、自分の選んだ選択の積み重ねの果ての結果だと。あの子はそう思える子だから……」


 面を上げ、確信したようにそう言った麗華に、薫達は納得した様子だった。


「……あの子の今後については、私と薫を含めて考えることになるわ。あの子ならどんな道を選んでも生きていけるけど、何をしたいのかと言うことに関してはしっかりと示す必要があるわ」

「示すって、あいつのこれからって、俺達が死んでからも続くんスよね? そんな遠すぎる未来なんて……」

「その時はあの子も、自分の意思と判断で将来を考えられているとも思うから心配はないわ。今大事なのは、この間にどうすべきかってことよ。今のところ、沖田君がこの日本の留まれるのは、今年中と言うことになるわ」


 修一に懸念に薫はそう答える。薫としても不安がない訳ではないが、総次を信じるしかないと思っていた。


「失礼します」


 するとそこへ、権蔵との対談を終えた総次が入室した。


「総次……」

「総次君……」


 総次の姿を見て、心配そうな表情になる修一と未菜。


「例の資料の通り、あなたの身体の細胞は闘気によって支えられることになり、最終的には全身の闘気化が進むことになった。そして、それによる不老不死となってしまった……」


 自信のデスクの前に歩み寄る総次を見ながらそう話しかける麗華。


「自分の責任です。ですが、これからどうすべきかは、正直困っています」


 毅然とした態度を見せつつも、現実を鑑みて厳しい状況であることは、総次も自覚しているようだった。


「でこれからのことを考えるは、最終的にはあなたになる。あなたに限らず、全ての人々に共通することよ。でもあなたの場合、それがあまりにも長い長い時間の中で行わなければならないというネックがあるわ」

「問題はこれからのことですね。自分の能力に合う仕事を探すにしても……」

「私達も一緒に考えるわ。それに、能力の面でのあなたの向いている仕事は、かなりの数がある。そして、どんな道を選んでも困ることはないと信じているわ」


 総次の懸念に対し、麗華は努めて微笑みながらそう語った。先程までの辛い感情を押し殺しているかのような表情だったが、総次にもその辺りが分かっているようだった。


「……総次。お前、辛くないのか?」


 そんなやり取りを傍から眺めていた修一が、不安げな表情のまま尋ねる。


「……辛いですよ。当たり前じゃないですか……‼」


 眉を顰め、そして両拳を強く握りしめて答える総次。この時修一と未菜は、来に不安を抱き、恐怖心に駆られている総次の姿に一種の珍しさを抱いたようだった。常にどんな状況においても恐れを見せることなく突き進んだ総次を見てきた彼らにとっては、それは新鮮であり、それ以上に辛かった。


「……それに、夏美にもこのことをしっかりと伝えます。今僕のことで一番心配をかけているのは、夏美なんです……」


 総次の発言に少々驚きながらも、頷いた一同。


「……なら尚のこと、しっかりと彼女に話しなさい。そして、心配を解いてあげるのよ。それが、あなたのことを気にかけ、支えてくれている人への礼儀ある返礼よ」

「はい」

「じゃあ、今日の二十一時から話を始めるわ。ある程度の時間は掛かるけど、今年中にはあなたはこの国を出ていくことになるわ」

「今年中ですか……」

「不服なのは分かるわ。これでも警備局長は閣僚達と話し合って、かなり情報してもらった方だけど、そうよね……」


 総次の立場に寄り添いながらそう言った薫。二時間前、八坂達との交渉の前に連絡を入れてきた権蔵から一連の話を聞いていた薫と麗華だが、ただでさえ現行法でどうすることも出来ない存在となった総次の扱いが難儀なものになったのは二人も認めざるをえなかった。


「……では、僕はこれで失礼します。しっかりと、夏美の不安を取り除く必要もありますし、僕としても、言っておきたいことがあるので……」

「分かったわ。ご苦労さま」


 麗華にそう言われ、総次は敬礼して局長室を後にしようとする。すると総次は一度反転し、四人に顔を向ける。


「大丈夫です。僕は、しっかりと夏美に言えます。今の僕なら……」


 微笑みながらそう言った総次に、四人は些か面を伏せる。それは総次が彼らに見せた、そして麗華に久々に見せた笑顔だった。


「……気付いた?」

「ああ。総次の奴、夏美ちゃんを呼び捨てにしてたな……誰に対しても律儀だったあいつが、夏美ちゃんとそこまで進展してたんだな……」


 先程の驚きの正体に気付いていた未菜と修一。


「総ちゃんにとって、それだけ夏美ちゃんと一緒に居たかった。そして、一番心を許せる相手になったのね……」

「でも、これからあの二人はどう生きていくのかしら? 私はそれが気がかりなの」

「大丈夫よ、薫。夏美ちゃんの性格はあなたも知ってるでしょ?」

「……そうね」


 麗華と薫の言葉に、修一と未菜は深く頷いた。それこそ、二人が抱いていた総次へ抱いた感情だったからだ。


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