第17話 生き残った者 散った者
沖田総次の救出、及びMASTER大師・幸村翼死亡の報告は、二人の決戦終了から一時間後に、本部と都内の全ての支部に入った。
「総ちゃんはどうなったんですっ⁉」
手当てを終えていた夏美はその報告を聞き、居ても立っても居られない様子であきる野市第三支部に連絡を入れていた。
『左肩の傷に左腕の深い傷、腹部の激しい裂傷。その他、全身に深い切り傷と打撲と大量出血がありますが、一命はとりとめました』
女性職員は落ち着かせるように伝える。
「そうですか……」
安心した様子で表情が緩む夏美。
『ですが、意識はありません。負傷と大量出血、そして疲労度も相当に高く、恐らく、一ヶ月以上は目を覚まさないかと……』
「でも、もう無事なんですね? 大丈夫なんですね?」
『それは保証します。夏美組長』
女性職員の落ち着いた声に、夏美は涙を流した。
「……ありがとう、ございます……」
夏美は通話を切り、その場に力を失って崩れ落ちた。
「お姉ちゃん?」
「冬美……」
同じく手当てを終えた冬美が、夏美の様子を不安げな様子で見に来た。
「どうしたの……?」
「総ちゃんが、無事だって……」
「総次君が……そう、よかった……」
冬実もその言葉に涙を浮かべ、そのまま夏美を抱きしめた。
「よかった……本当によかったわ……」
「うん、うん。よかったわ……」
冬美もまた、自身の胸ですすり泣く夏美にそう声を掛けた。そんな様子を、勝枝は廊下の曲がり角で隠れて眺めていた。
「やれやれ、無事で何よりだ……」
静かにそうつぶやき、その場を後にしようとする勝枝。
「勝枝ちゃん」
そこへ、右腕を包帯で釣っている紀子が話しかけてきた。
「総次は無事みたいです」
「そう、それはよかったわ。でも……」
「先生?」
急に暗くなる紀子に、不安げな表情になる勝枝。それは次の紀子の言葉で確信に変わった。
「……助六君の戦死が、確認されたわ。現地からの報告だから、間違いないわ」
「えっ……助六が……?」
愕然とした表情になり、勝枝は全身の力が抜けたようにその場にへたり込んだ。
「嘘、ですよね……。助六が死んだなんて……」
「……私も、嘘だと思いたいわ……」
そう語る紀子の瞳に、大粒の涙が輝く。
「う、ううっ……‼」
そのまま勝枝は嗚咽する。紀子もまた、そんな勝枝を左手で自信に引き寄せて抱きしめ、涙を流した。
⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶
午後六時。新戦組本部に麗華と共に帰還した真は、そこで総次の生存と助六の戦死、そして修一を始めとした隊員達の負傷の報告を聞いた。
「助六が……」
「司令官……」
報告をした情報管理室の男性隊員は、うなだれる真に何をしていいのか分からなくなってしまったようだった。
「済まない。ちょっとね……」
どうしていいのか分からない真。次々と彼らを始めとし、多くの戦友や同級生を失った真は、孤独感と悲壮感に苛まれていた。
「……報告ありがとう。僕は用事があるから、これで……」
重い感情のまま、真は情報管理室を後にした。
「……助六、佐助。どうして君達は、僕達の前からいなくなってしまうんだ……」
そう思っていると、真のスマートフォンが鳴り始めた。
「僕だよ」
『真の兄貴……』
声の主は修一だった。
「どうしたんだい?」
『……もう、助六の兄貴のことは、知ってますか?』
「知っているよ」
『……敵を倒すことは出来ても、仲間を守ることは出来ませんでした。いっつも俺、前の時も、今回も、どうしてこんなことになるんスか?』
「……君は、自分の力不足が原因で、あの二人が死んだと思っているのかい?」
『……俺が持ってしっかりしてれば、少なくとも、命を落とすなんてことにはならなかったんじゃないかって……』
「修一。それは傲慢だよ」
真は冷静にそう指摘する。本来なら真の方が泣き言を言いたい立場だ。そして修一の気持ちも痛いほど理解してる。だが、このまま修一がこれ以上己の力不足の所為で死んだと思うことが、耐えられなかった。
『真さん……』
「二人は、自分達の出来ることを遂行する為に必死で戦った。生き残った僕達は、二未来を生きることを考えるんだ。それが、生きている僕達の、彼ら死んだ者達への責務だと思うんだ」
自分に言い聞かせるように言う真。そうでも言わなければ、自分が持ちそうにないと思っていたのだ。
『……分かってるっス。でも……』
「気持ちの整理がつかないんだね……」
『……面目ないっス』
申し訳なさそうな声になる修一。
「それで、君の方はどうなんだい?」
『何とか生き延びたっスけど、右腕が吹き飛んじまったっス……』
「…大事を取るんだよ」
そう言いながら真は、スマートフォンの通話を切った。
「……僕もしっかりしないと」
そう言いながら、真は第二遊撃部隊司令室へ戻っていった。
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