第7話 再臨する女神

 修一達が警視庁を訪れていたのと同時刻。新宿区の大通りで新戦組・警察の連合軍を蹂躙した幸村翼率いる直属の精鋭部隊が本部に帰還した。翼は部下達に休息をとるように指示を出し、その足で大師司令室に戻ろうとしていた。


「お疲れさん、大師様」


 司令室に向かう廊下の中で、書類を手にした御影が話しかけてきた。


「とりあえず、多少出鼻を挫くぐらいのことは出来ただろう。あとは連中の出方を見てどのメンバーに率いてもらうかを検討したいが……」

「そっちは当てがあるから安心しろ。それと報告だが、お前が戦っていた時に別の場所に沖田総次もいたらしい」

「奴が来ていたのか?」

「お前が戦っていたのと同時刻に、目黒区にいたらしい。んで、うちのチームを悉く斬り捨ててあっさり見方を撤退させて退散したよ」

「となると、その時総次が助けた連中の一部があの弓使いの部隊に合流した可能性があるな。ある程度の戦力を割いて他の援護に回るという選択肢も考えられる」


 冷静に総次の力を分析する翼。その表情は今まで以上に真剣だった。


「……対策はあるのか?」

「あまり人目に付くところでは戦えんだろう。俺達が全力でなりふり構わず戦ったらどうなるか、お前なら想像がつくだろ」

「二十三区は焼け野原になる。 だからこそ戦場を選定する必要があるんだろ?」

「最も、その場所をどうするかだな……」

「お前のことだから、ある程度の見込みはあるんだろ?」

「だが、誘き寄せる方法がまだ思いつかん」


 困り果てた様子の翼に、御影はこう言って元気づけた。


「俺達に任せろ。だが厄介なのは他の敵も同じだ。弓使いに長刀使い、それに破界を使うロリータファッションの女と、切り抜けるのは簡単ではない」

「赤狼七星の力でもか?」

「誰が相手であろうと油断すれば足元を掬われる」

「お前でもか?」

「だからこそアリーナの時、総次を討ち漏らした。まあ、不本意な作戦だったってのもあるが」

「同じ轍を踏む訳にはいかないってことか」


 御影は首を縦にうんうんと振りながら納得した。


「さっきの話だが、次に出す戦力はどうする?」

「その草案を簡単にまとめたヤツだ」


 そう言いながら御影は手にしていた資料の束から、一枚のプリントを取り出して翼に渡した。


「……赤狼七星からは慶介に将也の率いる部隊を出すか。この二人は当然タッグか?」

「の方針で固めてる」

「なら問題はない」

「じゃあ、次に出す戦力は決定していいってことか?」

「正式なことは夕方の上層部会議で決める」

「合点招致」


 そう話しながら二人は赤狼司令室に入った。


「お帰りなさいませ。大師様」

「ただいまです、加山さん」


 出迎えた加山に、仮面を取ってお辞儀をする翼。それに続いて御影もお辞儀をした。


「赤狼七星から次に前線に出す連中を決めました。こちらを」


 そう言いながら翼は先程御影から受け取ったプリントを加山に手渡した。


「加山さんから何か付け加えるものか、あるいは別の案はありますか?」

「おおよそそれで構いません。その上で、第一、第二師団から戦力を投入する必要はありますか?」

「両師団の力、か……」


 それを聞いて考え込む翼。組織内でも主戦力である師団をここで投入するのは良いとして、どのような部隊編成にするかをずっと考えていたからである。


「それに関しては、師団長が直々にではなく、分隊長単位で率いる数である程度裂いていこうと考えています。師団長方の力をここで失うのは惜しいです」

「その旨を伝えますか?」

「お願いします」

「その上でお二人からの提案も受け入れる方針です。総戦力としては、おおよそ二千を想定しています」


 それに続けて御影が発案した。


「我が部隊の全体の五パーセントを投入ですか」


 御影の提示した投入戦力が予想の範疇であり、加山は冷静にそれを捕らえて確認した。


「赤狼からどれほど出しますか?」

「千人投入します。実働部隊に劣らない力を持っているなら、それくらいの人数で事足りるでしょう。最終的な決定は、幹部会議で調整と修正を行います」


 滞りなく翼は提案を述べた。


「幹部会議に関しては情報戦略室に伝え、全体放送で流してもらうようにします」

「お願いします」


 そう言いながら翼は御影と同じタイミングで自席に着席した。


「敵の戦力はおおよそ六万。こちらは三万だ。だがやはり想像通り、個々人の錬度はこっちの方が上だな。今のところは……」

「しかしこれから徐々に力を増していくかもしれない。だからこそ……」

「油断大敵、だろ?」


 確認するようにそう言った御影に、翼は首を静かに縦の振ってこたえた。




⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶


 午後四時三十分になり、翼は両師団の団長をMASTER本部・小会議室に召集して会議を始めた。最初の議題が、先に御影が考案した次に出撃する部隊の人員についてである。


「随分と士気は上がっているようですね」


 最初に資料を見て少々驚きながらつぶやいたのは安正だった。


「午前中の戦いで翼が出撃したことで、彼らの自信につながっています」

「だが、あの程度なら安正だって造作もないことだがな」


 少々イヤミを込めて翼を見つめる剛太郎。最も翼は自分の容姿に対して何ら興味を抱いておらず、涼しい顔でその言葉をスルーした。すると御影はコホンと一つ咳をした。


「同感ですが、今回の戦いでこちら側が精神的にも有利になったとみてもいいでしょう」

「ですが、沖田総次の出撃もあったと聞いています。彼の闘気量は既に大師様と肩を張るレベルだとの声もあります」

「新見師団長の仰る通り、奴の力が本物なのは疑いの余地はありません。それが俺達の本隊と当たった時の脅威は計り知れません」

「現に、今回の戦いでも沖田総次は先遣隊の片割れを壊滅寸前まで追い込み、味方の窮地を救ったとの報告があります。しかも一方的に我が方の部隊を蹂躙したらしいです」

「やはりあいつが四人が俺達にとっての最大の障壁になるか……」


 御影と安正のやり取りを聞きながら、翼は小さくつぶやいた。


「だが、情報管理室からの報告じゃあ警察もかなりやると聞いている。今日の戦いだけ見ても、小僧が来るまでの間はこっちが押されていたらしいな」

「その通りです、狭山さん。曲がりなりにも奴らは警察官。自分達の正義を守る為にという感情が力を更に高めているとしたら、やはり馬鹿にできないものがありますね」


 そう言って御影は現場の警察官達の力に警戒心を抱いているのを見せた。


「いずれにしても、士気が上がっている今こそ、こちらから仕掛けるべきでしょう」

「同感ですね」


 翼の発言に対して安正は同意し、続けてこんなことを提案した。


「そこでですが、一人、個人的に気になる方がいるのですが」

「誰ですか?」

「……服部由美です」

地獄の女神ヘルゴッデスの部隊か」


 その提案に翼は冷静だった。当の翼自身も、彼女の部隊をそろそろ前線に投入してもいいのではと思っていたからだ。


「前線において絶妙なタイミングでの実力者の投入は戦いの基礎です。あの戦闘力は新選組モドキの幹部にも引けを取らない。部隊指揮官としてのテストでも、問題なく戦えるレベルだと聞いていますが?」

「確かに、テストでも先日の実戦でも成果を上げていたので、そろそろとは思っていました」


 御影も彼女の実力を買ってその意見に賛成した。


「では、彼女の部隊にも出撃準備を掛けることにします。会議終了後に直ちに準備を行い、今夜八時に出撃を掛けることにします」


 翼はそう言って安正の意見を飲んだ。その後1時間に及んで会議が行われたが、翼の意見に対して異論はなく、そのまま終了した。



⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶


「……と言うことで、慶介、将也。頼むぜ」

「おうよっ!」

「任せてよ」


 会議終了からしばらくした午後六時。赤狼七星室に戻った御影は二人に会議結果を告げた。


「大役を任されたな。ヘマすんなよ」


 口にくわえたハイライトをくゆらせながらエールを送る尊。


「当たり前だ。俺達の力ならどんなことだってできる。そうだろ?」


 手にしたマシンガンを力強く構えて宣誓する慶介。


「うん。ボク達の力を見せつけるよ」


 それに続いて将也も食べていた肉まんを全て食べ終得ながらそう言った。


「期待してるわっ!」


 明るく激励するアザミの姿に、二人は微笑んだ。


「だが慶介以外で銃器を扱える連中は限られてるから、迎撃するとなると近接戦闘用の武器で闘気を放つしかないと思うが」

「私も八坂の意見に同感だけど、その辺りはどうするの? 御影」


 八坂の質問を一部受け継いで訪ねる瀬里奈。


「本格的な戦いに備えて、既に準備してある。扱いやすさもさらに向上させたから、問題ないだろう」


 そう言って御影は二人を納得させた。


「今朝の戦いで、我々の方の士気も上がっている。俺達の大師様の力をアピールすることが出来たという意味でも、この機を逃す手はない」

「だからこそ、俺達が出向く意義があるんだろ?」

「ボクは翼の創る未来を支えたい。それに、慶介ともこれから一緒に戦っていきたい」


 自信満々な慶介。それには珍しく将也も力強く同意していた。


「とは言え、今まで以上に警戒しないと命取りになるぞ」


 戦意が上がってい他の赤狼七星とは違い、現状を冷静に鑑みて気を引き締めるように彼らに注意を促すが、慶介はそれに対してサムズアップをした。


「……分かってるよ、心配すんなよ」


 と言って御影の危機感に満ち満ちた心を解きほぐそうとした。


「……将也はどう思ってんだ?」

「慶介のあるところ、ボクもいる。どんなことがあっても、みんなと一緒だから大丈夫」

「……そうか、だがくれぐれも無茶はするなよ。一人たりとも欠けるようなことはあってはならないことを忘れるなよ。出撃は一時間後だ」

「おうっ!」

「分かったよ」


 そう言って慶介と将也は己の部隊を率いる為にそれぞれに部隊室へと向かっていった。


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