第6話 戦友として

 佐助に指示されて助六と殿に刑事部室を出た修一は、そのままエントランスまで下りて隅のところで佐助を待っていた。


「……すいませんでした。兄貴達や、警察に迷惑を掛けちまって……」

「分かっていれば、それがしはいいでごわす。あの二人にも一応の謝意を示せたのもあるでごわすから、これ以上の追及は無しごわすよ」


 努めて優しく言った助六に、修一は瞼が熱くなるのをこらえていた。


「行動の是非はともかくとして、それがしも総次殿に対して、しかも総次殿がいない場所であのようなことを言う輩に対していい感情を抱くことは出来ないでごわすよ」

「助六の兄貴もなんスか?」

「無論でごわす。だから修一殿のように、真っ向から意見を言えるのは羨ましいでごわすよ。それがし達が思っていたことを、代わりに言ってくれたのでごわすから」

「ありがとうっス」

「だが今後は、あのような騒動は起こさないでもらいたいでごわすよ。それによって得をするのは幸村翼たちなのでごわすからな」

「はい」


 修一は俯きながらそう言った。


「俺、悔しかったんス。これまでずっと警察を助けて、俺達と一緒に戦ってきた仲間を、それも総次があんなふうに言われたのが……‼」

「総次殿とは、かなりの時間、修行を一緒にしたでごわしたな」

「流石に、時間的には真さんや夏美ちゃんには及ばないっスけど、俺だってそれを通じてあいつのことをいろいろ知れたっス。あいつがすげぇいい奴だってことも。なのに……‼」


 徐々に先程の警察官達の言いようを思い出したのか、徐々にこぶしを握り締める力が強くなる修一。


「だが、現実というものは時としてそういうことがあるものでごわすよ。特に、異能の力や思想を持ったものは槍玉に挙げられやすい」

「どうして、どうした総次があんなことに……」

「言うまでもなく、陰と陽の闘気という、これまでの闘気とは一線を画する強大な力を持ったことでごわすよ。それ以前からの総次殿の戦歴は知れ渡っている。総次殿の人柄をあまり知らないものからすれば、稀代の大量殺戮兵器としか見ないでごわそうな」

「そうじゃないってことは、話せば分かるはずなのに……‼」

「話そうと思わなければ、分かろうとしなければ全て意味のないことでごわすよ。総次殿が積極的に他人とかかわろうとしない部分があるのもそれを助長しているのでごわそうが、警察や官僚、政治家を始めとする国家上層部が総次殿のことを恐れ、そもそも総次殿と話そうと思わないのでごわそうな」


 助六の言葉に対して反論を繰り返す修一だが、悉く跳ね返されてしまったが為に自信をなくし始めていた。


「それに、これも総次殿は覚悟のことなのは、修一殿も分かるでごわすかな?」

「それは確かに知ってるっスけど、それでも俺の方はどうしても……‼」

「それで一番迷惑を被るのは、総次殿だと思うのでごわすが?」

「総次が、迷惑に……」


 その指摘に修一は衝撃を覚えたかのような表情になる。


「総次殿は自分がそう見られることを分かった上で彼らに振舞っている。それは修一殿も知っていることでごわそう?」

「確かに、総次はそのことを聞いても、別にって感じで受け流してたっス」

「お主はそれを見てどう思ったでごわすか?」

「素直に凄ぇって思ったっス。あんだけ嫌な感じに思われていて、それでも何事もなかったかのように振舞えるなんて……」


 これまでの総次の行動を振り返りながら、修一はそう言った。


「麗華殿曰く、元々一人で何でもかんでも行う人柄で、周りの目を気にしないからどう思われようとも大丈夫だと言っていたでごわす。現に警察官達のあの姿に、一番呆れ返っているのは総次殿でごわす。自分を厄介者扱いしている者達を相手にして憤るのではなく、心配するというスタンスでいるのは難しいことでごわす。それがどれだけ精神的に強くなければできないのかは、お主にもわかるごわそう?」

「……本当に総次は強いっスよ。あんな風にいつも見られてんのに、どこ吹く風って感じなんスから」


 徐々に拳を握る力が弱まり、険しい表情が和らいでいく修一。


「だとしたら、総次殿がどういわれようとも、それがし達も堂々としているでごわす」

「……そうっスね。俺もそうすべきかもっスね。それがあいつの意思を尊重することになるなら尚更っス」


 ようやく納得した様子の修一は、笑顔になって助六にそう言った。


「どうやら、そっちは解決したようだな」


 するとそこへ、刑事部を後にした佐助が2人の元へ寄って来た。


「済まねぇっス、佐助の兄貴」


 まず最初に修一は佐助に謝罪をした。


「いいよ、修一。あの二人にも一応の譴責処分が下ってるよ。事情はどうあれ、問題を起こす火種を作っちまったんだからな。麗華達にも話して、お前への処分も形式上は次はないって形だが、一応譴責で済ませてもらった。ことが大きくなれば、前の二の舞になるからな」

「本当に、すんませんした」

「もういいよ。だが当分の間は、俺もお前も刑事部には立ち入らない方がいいぜ。幸村翼とお前の件で連中は随分とナーバスになってる。また睨まれたら大変だしな」

「はぁ……」

「じゃあ、俺と助六はいったん本部の戻るよ。お前もそろそろ持ち場に戻った方がいいぜ。今回のことは内々に済ませたから、お前の受け持ってる場所には広まってねぇから安心しろ」

「ありがとう、ございました」

「まあ、お前のようにストレートにモノを言えるのは決して悪いことじゃねぇよ。だがこれからは、拳よりも言葉を先に出せるようにしとけよ。そんで、言葉も選べるようにな」

「心掛けるっス」

「宜しい」


 納得した様子の修一に、佐助は笑顔でそう言った。


「じゃあ助六、行こうか。部隊の連中にはしっかりと声掛けしてるか?」

「問題ないでごわす。佐助殿は?」

「俺も問題ない。互いにバス二十台で来たからな。万一敵が来ても、差し当たっての迎撃は可能だってことだよ」

「うむ。修一殿は?」

「迎撃途中で負傷者が何名か出たっスけど、準備は整ってるっス。油断する隙は出来る限り潰してるっス」

「宜しい。では佐助殿、行くでごわすよ」

「兄貴達ッ‼」


 そう言って立ち去ろうとする二人を、修一は呼び止めた。


「……本当にご迷惑をおかけしましたっス」

「いいってことよ。まあ、今度生きてたら飯でもおごってくれ」


 そう言って佐助は助六と主に警視庁を後にした。

 すると修一のジーンズのポケットに入っているスマートフォンがバイブ音を鳴らし始める。着信相手は未菜だった。


『修、大丈夫?』

「未菜か、どうしたんだ? 急に」

『どうしたって、修達が助けた警察官と、修の部隊の隊員達が警視庁の近くの病院に連れてこられて、今あたしもそこに助っ人としているの。それに、修のこと心配だし……』

「心配って、俺が弱いみたいじゃねぇか」


 少々苦笑いしながら微かな反論をする修一。


『そんなことないのはあたしが一番知ってるわよ。でもさ、それでも無事かどうか気になるものよ』


 そう言う未菜の声は軽快だったが、それが今の修一には重く感じられた。自分が感情に流されてしてしまったことを、それによって迷惑をかけたことを気にしていたからだ。


「……未菜、今からそっちに行っていいか?」

『いいわよ。あたしも会いたいって思ってたし。でも、修の方は?』

「こっちの用は済んだから、それに、お前にだけは言っておきたいこともあるし……」

『……分かった。待ってる』

「ああ、待ってろよ」


 そう言って修一は通話を切り、その足で未菜がいる病院へと駆け足で急いだ。


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