第13話 混沌の狼
「報告よりも早すぎる……」
渡真利派メンバーの中に緊張が走った直後、総次は被っていたヘルメットを投げ捨て腰に括り付けた黒帽子を被り、灰色のマントをはためかせて三人の元へ走り出した。
「奴を近づけさせるなっ‼」
渡真利派メンバー五十名が一斉に総次に襲い掛かるが、総次は刀に陽の闘気を纏わせ、一気に加速しながら渡真利派メンバーの群れに突っ込む。
「なっ‼ ぐあっ‼」
彼らの視界から総次の姿が消えた瞬間、メンバーの一人の両腕が斬り飛ばされ、直後に別のメンバーが首を、続けて別のメンバーは足を、また別のメンバーは脳天から一刀両断され、噴水の如き勢いで血飛沫が辺り一面を赤く染めた。その中、返り血を一滴も浴びずに修一達の下へ辿り着いた。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ……」
修一達の前で膝を折って無事を尋ねる総次。当の修一達は眼前の出来事に戸惑いと驚きを見せていた。
「申し訳ありません。道中別の部隊と幾度かぶつかって……」
「いいんだ。真さん達は?」
「あと十分程で来ます」
「真さんが……」
そう言って冬美は安堵のため息をついた。
「総ちゃん、第一遊撃部隊は?」
すると今度は夏美が、総次が一人で来たことを尋ねる。
「まもなく到着します。それにしても……」
そう言いながら総次はゆっくりと立ち上がり、破壊された大通りや家屋を悲しそうな表情で見渡し、渡真利の方を振り向いた。
「随分と派手にやりましたね……」
「ここはMASTERというがん細胞に完全に侵された滅ぼすべき場所だ」
「無関係な人達も犠牲になっていますね。それで翼を誘い出し、返り討ちにするつもりだったんですか?」
「ご名答だ。我々にとって如何なる犠牲を払ってでもやり遂げなければならない使命だ」
そこまで渡真利に言われたが、総次は毅然とした態度でこう尋ねた。
「ここが、僕にとって馴染み深い街だということはご存知ですか?」
「承知している。だが君とて、自分の故郷が悪質ながん細胞によって汚染されていの子を見たくなかろう?」
「……僕の思い出の街を、多くを学んだ場所を好きにはさせません。何より、これ以上罪のない人達が命を奪われるのも……‼」
力強く、真っすぐな眼差しではっきりと答える総次に、渡真利派メンバーは身震いをした。五十名を一瞬にして斬殺した剣腕と、これまでの彼の武勇伝が、身動きを封じ込めていたのだろう
「……リーダー。ここは我々に」
「……好きにしろ」
そう言って渡真利は彼らの突撃を許可した。
「突撃だっ‼」
「「「「「了解‼」」」」」
その瞬間、渡真利派メンバーの内、刀を持った二百名が一斉に総次目掛けて刀に闘気を纏わせながら突撃を開始する。
「はぁ‼」(尖狼・百九十八連‼)
左手で目にも捉えられぬ速さで小太刀を抜き、瞬く間に陽の闘気を纏わせながら腰を深く落とし、刀と小太刀で尖狼と共に、百九十八の陽の闘気の光線を放つ。
「なっ‼」
襲い掛かる陽の闘気のあまりの数に度肝を抜く渡真利派メンバー。
「怯むなっ‼」
何とかそれらを見切ってかわすメンバー達。無論かわしきれずに光線の餌食になったメンバーもいた。
「あれをかわすなんて……‼」
総次の攻撃を的確にかわしたことに驚く修一だが、総次は動揺せず、神速で渡真利派メンバーの群れに急接近する。
「ぐあっ‼」
「うげっ‼」
神速と二刀流が煌めき、四方八方で彼に斬り刻まれた身体の破片が乱れ舞う。鮮血でアスファルトは朱に染まり、襲い掛かった敵が彼の刃にかかって次々と絶命していった。
「このぉ‼」
総次の背後から彼に斬り掛かるメンバーだが、総次は振り返りざまに彼の両手をあっさり両断した。
「こ、黒狼め……‼」
その凄惨な光景に表情を引きつらせ、恐怖の言葉を漏らす渡真利の側近。一方で渡真利自身は動揺することなく総次を観察していた。
「包囲しろっ‼」
別のメンバーが総次の姿を捉え、彼の周囲を八十人のメンバーが一斉に包囲して襲い掛かる。
「遅い……‼」(豪嵐狼‼)
その場での嵐狼の回転斬りによる陽の闘気の竜巻が、八十名の渡真利派メンバーを跡形もなく斬り刻み、そこから総次はその場を離れながら渡真利目掛けて驀進する。
「行かせるかぁ‼」
「リーダーに指一本触れさせんっ‼」
そんな総次を左右から挟み撃ちにして斬り掛かる渡真利派メンバーだが、総次に一瞬で心臓を貫かれ沈黙した。
「発射‼」
それを隙とみて、狙撃部隊二百人が一斉に総次目掛けて闘気を纏わせた弾丸を放つ。
「ふんっ‼」(双飢狼‼)
二人の死体をその場に討ち捨てつつ、強烈な突き・双餓狼で巨大な陽の闘気の光線を放つ総次は、その奔流で無数の弾丸ごと二百人を消滅させた。
そのまま総次は陽の闘気を纏う左手の小太刀を投げナイフの要領で投擲し、延長線上のメンバーを貫いた。
尚も総次は立ち止まることなく、渡真利派メンバーを翻弄しながら次々と彼らを斬り裂いていく。
「スゲェ……」
「あれが総次君の力……」
「あんな総ちゃん、初めて見た……」
先程まで自分達を苦戦させた敵を、たった一人で蹴散らす総次に唖然とする修一達。
「一瞬で戦力の九割近くを……‼」
精鋭と謳われる渡真利派メンバー四百五十人が総次一人の手に掛かっていく姿に、渡真利派メンバー達は震え上がる。
「あの力があれば、がん細胞を殲滅できたはずだが……」
総次の力に嫉妬するような表情になりつつ、渡真利は白木拵えの長刀におびただしい量の闇の闘気を纏わせる。
「惜しいものだ……」
禍々しさを漂わせる長刀が掲げられ、総次目掛けて一気に振り下ろして発生した破界の闇の闘気で形成された巨大な刃。
(そう来たか……)
アスファルトを斬り裂きながら総次に一直線に迫るが、気付いた総次は刀の闘気を陰の闘気に切り替えて闘気の刃を受け止め、漆黒の中に青い閃光を煌めかせながら放った。
「はぁ‼」(狼爪・飛翔‼)
渡真利目掛けて大きく刀を振るい放たれる青い閃光煌めく陰の闘気の刃が、渡真利をかばおうとするメンバー二十名を一気に両断しながら彼に迫る。
「……やはり、私の全力で戦うしかないか」
動じることなく渡真利は陰の闘気の刃を大きく振りかぶった長刀で一刀両断する。直後に総次は猛スピードで渡真利との間合いを詰めて激突する。更に総次は激突した瞬間の瞬時に背後を取り、右手の刀で一気に斬りつける。
それに渡真利は即応し、総次の鞘を長刀で受け止めて斬撃を防ぐ。
「機動力は新戦組の黒狼と謳われる君の真髄。だが……」
地面を強く踏み込んで下半身の力を加えた力押し、総次は弾き飛ばされる。
「それなら……」(尖狼・九十九連‼)
弾き飛ばされながら体勢を立て直し、尖狼で陽の闘気による九十九の光線を渡真利に叩きこむ。
渡真利は長刀を力強く握りしめ、迫りくる闘気の光線目掛けて突きを繰り出し、破界の闇の闘気の光線で全て撃滅した。爆風が辺り一面を覆い、視界が完全に塞がれる。
「どこだ……」
刀を風車のように手元で回転させて土煙を一瞬で拭う総次。その時、先程まで渡真利がいた場所に彼の姿はなかった。
「前に気を取られ過ぎたな」
既に背後に回っていた渡真利が総次の背を鋭く斬りつける。
(狼爪‼)
総次は左手の刀受け止め、更に渡真利の剛力を利用して前方へ飛び出し、更に刀の陽の闘気の量と出力を上げながら振り返りざまに突きを繰り出す。
(飢狼‼)
繰り出された陽の闘気で象られた巨大な狼。閃光の如く渡真利に襲い掛かる。
「まだ力を増すか……‼」
破界の闇の闘気の出力を上げて一気に斬り裂く渡真利。すると総次は既に鞘に刀を納めて渡真利目掛けて一直線に迫る。
(狼牙‼)
超高速を生かした抜刀術・狼牙の勢いと斬撃の鋭さと威力は、受け止めた渡真利をそのまま後ろへ押し込んだ。
「君はここで消滅させる」
押し込まれながらも総次を受け止め、その反動で総次を吹き飛ばす。総次は地面に不時着する直前に身体を半回転させ、着地して直ぐに体勢を整え、次の攻撃に備える。
「総次、前よりも力が増してやがる……」
「あたし達との特訓で学んだ動きを実践してる……」
「それも、私達の予想を遥かに凌駕して……」
離れて見ていた修一達は、渡真利との戦いの中で総次の動きを観察し、自分達との特訓をしっかりと活用していることに気づいた。
「今の君は、既に人間ではない」
「……世迷言を」
毅然として渡真利の言葉を否定する総次だが、渡真利は嘲笑する。
「君がどう思おうと、最早君の居場所はここにはない」
その言葉を聞いた総次の身体を、多量の陰と陽の闘気が覆いつくしていく。
「……僕は誰にも殺されない。死にはしない……‼」
そう言うや否や、総次は再び渡真利目掛けて突き進む。機動力は更に上がり、一瞬で渡真利の眼前に迫って陽の闘気を纏う刀を脳天に振り被る。
「また闘気が増しただと……⁉」
動揺を最小限に留めて力強い太刀筋で刀をいなし、総次の脇腹目掛け蹴りを繰り出す。総次はそれをひょいとかわし、もう片方の刀で渡真利の左胸に突きを繰り出す。
それを長刀の柄で弾き、渡真利は後退して距離を取った。
(距離をとるべきか……)
接近戦で攻め切るのはまだ無理と判断し、遠距離戦を考える総次だが、渡真利が一気に総次との間合いを詰め、総次に力強い斬撃を繰り出す。
多量の破界の闇の闘気を纏った長刀は、軽く振っただけでアスファルトにひびを入れ、地響きを起こす。
それを難なく総次が受け止められたのは、同量以上の闘気を刀に纏わせ、更に特訓の中で磨きをかけた体捌きで力の集約の仕方が巧くなったからだ。
(致し方ない……‼)
力比べが不利なのも自覚し、一の太刀を受け止めて直ぐにそれを利用して渡真利から離れ、両手の刀に纏わす闘気量を更に上げる。
(もっと力強く、もっと速く……)(双飢狼‼)
体勢を整えつつ繰り出された二つの餓狼。纏った陽の闘気は先程より更に巨大な光線となり、渡真利に襲い掛かる。
「なっ……‼」
渡真利は限界知らずの総次の闘気に脅威を覚えつつ、迫りくる二筋の光線を斬り裂かんと長刀で受け止める。
「ぐっ、これ程とは……‼」
増大した闘気だが、何とか一刀両断して難を逃れる。斬り裂かれた二筋の光線が渡真利の背後で爆発し、激しい爆風と閃光が発生した。
(そうする理由は……)(尖狼・百九十八連‼)
息継ぐ間もなく百九十八の光線を超高速の連続突きから放つ総次。
「おのれ……‼」
不利を悟った様子の渡真利は射線上から離れながら接近戦を仕掛ける。
「これでどうだっ‼」
力強く長刀が、ひょう、と音を立てて空間を斬り裂きながら総次に襲い掛かる。
(この街を守りたいっ‼)(蒼狼‼)
更に闘気量を増大させ、渡真利の一太刀を受け止めるや否や、それを受け流して無数の斬撃を凄まじい勢いで畳みかける総次。その瞬間に刀が砕け散ったが、総次の手には、闘気で形成された爪が現れた。
「また闘気を……‼」
足腰に力を入れて地面を踏みしめたことで、その威力は今までよりも上がっており、渡真利を更に追い詰める。渡真利の表情も次第に余裕がなくなっていく。
「あれ。沖田総一の時の……」
「総次君の闘気量が上がってるの……」
闘気の爪に見覚えがある夏美と冬美は静かにつぶやく。
そして総次の攻撃は更に苛烈さを増していく。
「はぁ‼」(豪嵐狼‼)
両腕の闘気の爪で放った蒼狼から繋げるように嵐狼を繰り出し、更に渡真利を押し込む。
「調子に乗るな……‼」
感情的になった渡真利が更に破界の闇の闘気の出力を高め、嵐狼を発動している総次をその勢いのまま吹き飛ばしてしまった。
それでも全く動じない総次は宙で体勢を整えて着地して渡真利の姿を捕らえた。
彼の全身は先程以上に巨大でどす黒い闇の闘気を放出していた。
「この街を守るという思いが、ここまで貴様の力を引き出しているとは……」
冷静さを保ちながらも、微かに表情に動揺を見せる渡真利。同時に総次の全身を覆う二つの闘気が絡み合い、狼のような姿を象っていく。
「……最早我が身がどうなろうとかまわぬ。ゴミ共を滅する為にはな……‼」
渡真利は更に闘気出力を上げると、上半身の服がその勢いではじけ飛び、彼の筋骨隆々の肉体が露になる。
「一気に仕留める」
その直後、渡真利の姿が視界から消える。
(そこか……‼)(狼爪‼)
総次は渡真利の気配を察知し、前後左右から襲い掛かる渡真利の力強く素早い斬撃を次々といなしていくが、素の力では渡真利より劣る総次は徐々に押し込まれる。
「これで、どうだっ!」
思い渡真利の重い斬撃が、総次の守りを打ち砕き、総次を吹き飛ばす。
「総ちゃん‼」
壁に吹き飛ばされた総次に思わず声を出す夏美。だが土煙が晴れたとき、総次は既に体勢を整え、服に埃一つ付けずに立ち上がっていた。
「しつこいな……‼」
総次のしぶとさに苛立つ渡真利。彼の身体を纏う夥しい量の陰と陽の闘気が、彼の体を覆い、純白と漆黒が絡み合う狼の姿を象っていく。
「……化け物め……‼」
総次の力に警戒心をむき出しにする渡真利は、全身を纏う破界の闇の闘気を全て長刀に集約する。その出力で渡真利の全身の筋肉が盛り上がり、血管が浮き出ていく。二人の力は、歩いただけでアスファルトを砕いた。
「ここは我々人間の居場所だ‼ 化け物はこの世から消えされぇ‼」
その叫びと共に強烈な勢いで突きが放たれ、長刀を纏っていた闘気が解放され。禍々しい巨大なレーザー砲として総次に襲い掛かる。
「自分の居場所は自分で決める。そして……」
右手の陽の闘気の爪と左手の陰の闘気の爪を交差させて融合を試みる総次。二つはが反発し、周囲におびただしい量の闘気を拡散させる。
「僕は……人間だぁ‼」
その瞬間、二つの闘気の出力を限界以上に引き出される。
(負けるな。自分を信じろ。必ず成功すると……‼)
二つの闘気が発する磁石の反発にも似た力に負けないと言わんばかりに、両腕に込める力を上げていく。だが襲い掛かる紫の闘気のレーザーは、そこに目掛けて一気にぶつかった。
「総次っ‼」
「総次君っ‼」
そんな総次の姿に叫び声をあげる修一と冬美。
「総ちゃんっ‼」
そして最も大きな声で叫ぶ夏美。
(僕は負けない……‼)
禍々しい紫の闘気のレーザーの勢いに押される総次。その場に踏みとどまり、更に二つの闘気量と出力を上げていく。
(何があろうと……‼)
己を信じ、限界を超えて闘気を受け止める。二つの闘気の境界で禍々しい漆黒と神々しい純白が交差し、交わることなく小さな球を発生させ、そして……。
(何があろうと……‼)
強く願った瞬間、二つの闘気の間で発生した純白と漆黒が絡み合う球体が一気に拡大し、そこにぶつかった渡真利の闘気がまるで浄化していくように消え去っていく。
「なっ……‼」
限界以上の力を振り絞り、全身の筋肉が断絶しながら放った技が、総次の闘気に全て飲み込まれ消えていく光景に、渡真利は我が目を疑った。
「リーダー‼」
するとそれに触発された渡真利派メンバー十名が銃を構えるや否や、各々の闘気を纏わせた弾丸を放つ。
しかしそれらも闘気に飲み込まれたと同時に、本来攻撃以外で闘気では防げない実弾をも飲み込み、消滅してた。
「ば、馬鹿なっ⁉」
その現実を受け止めきれずに戦慄を覚える渡真利派メンバー。
(もっと……‼)
融合させようとコントロール精密さを上げる総次。
「もっとだぁぁぁああ‼」
二つの闘気の交差する境界は大きくなり、拡散する闘気が姉山全体を包み込んでいった。
「おのれぇ‼」
更に出力と量を上げて対抗する渡真利。だが身体は既に耐えられなくなり、全身の血管が張り裂け、夥しい量の血が渡真利の身体を赤く染めていく。
その瞬間、総次が放出する二つの闘気が巨大な狼の顔を象り、凄まじい雄叫びを上げた。
「お、狼……ぐあぁ‼」
渡真利がそれを目の当たりにした瞬間、彼の両腕が爆ぜる。
「ぐあぁぁああああああ‼」
更に全身の筋肉と血管が皮膚とともに一気に破裂し始め、渡真利は自らが流した血だまりにどっと倒れた。
「な、なんだ、あれ……?」
「狼……?」
「凄い……」
修一も花咲姉妹も、その光景に言葉を失いつつあった。
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