第5話 狂気の作戦
大師討ちが渡真利派と正道派とに分裂して以降、彼らの拠点も二つに増えていた。その拠点は大師討ち本部の隣に新たに作られた隠し扉の奥にある。渡真利に呼び出された賛同者達千名が集まったのは、翌日の午前四時三十分であった。
「ここに集まった者。そして各地の警察署で私の意に賛同してくれた者達よ。再び問う。本当にこれでよいのだな?」
リーダー・渡真利司は腰に刀を佩き、白金を右に、黒谷を左に配して拠点内の渡真利派のメンバーと各警察署で彼に賛同したメンバーに対して問いかけた。そのメンバーを含めた渡真利派の総数は三千人に上っていた。
「「「「「「我々はリーダーの意と共にあります。いかなる手段を用いようとも、人の皮を被った悪魔の討伐を至上とします‼」」」」」」
全メンバーは彼に敬礼しながら宣言した。それを聞いて渡真利はそれまで申し訳なさそうだった表情を少しずつ険しくしていく。
「……リーダー。彼らはあなたと命運を共にします。ご命令を」
「俺達は悪魔と、悪魔を生み出した連中を討つんです。こいつらの決心は変わりませんよ」
黒谷や白金に後押しされた渡真利は、完全に表情を険しくさせて面を上げた。
「……これより我々は、都内で判明している全てのMASTERの拠点と、戸籍が判明している者の親類縁者を含めての討伐を行う。連中は悪魔を生み出しておきながら何ら罰を受けずにのうのうと生きている。我々や多くの者が家族や思い人、友人を手に掛けられているにも関わらずだ。それらに力の裁きを与え、我々の手によって築かれる平和の生贄とするのだっ‼ そしてこの行為に激怒した幸村翼も返り討ちにするっ‼ 一切の容赦するな‼」
「「「「「「オォォオ‼」」」」」」
渡真利の号令に喚起するメンバー達の雄叫びが木霊する中、渡真利は刀を抜いて天に掲げる。
「本日午前五時二十分を以て作戦を開始する‼ 東京都内に分散し、一気に力を以て滅ぼすのだっ‼」
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午前五時に起床した総次は、稽古の為にまだ誰もいない訓練場に赴いて闘気の修行を積んでいた。
「はぁ!」
両腕に力を入れて掌に陰と陽の闘気を小さく球体上に発生させる。二つの闘気の大きさはほぼ同じで、全くぶれることなく完璧な球体だった。この闘気を扱うには一つの気持ちに全ての集中力を注ぎ込む。それを訓練の中で物にし始めていたのだ。
(同時発動でようやく同じ量を出すことはできたんだ……)
そのまま両掌の闘気をゆっくりと近づけるが、紙一枚ほどの距離までになると、総次の両腕に磁石の同じ極を近づけたときのように弾かれそうな間隔が走る。
「ぐっ……‼」
顔を険しくさせながらも強引に近づける総次。だが徐々に両腕がぴくぴくと痙攣したかのように震え始める。
だが近づけた距離がゼロになった途端、またもや四方八方に二つの闘気が絡み合うように拡散し、五秒後に弾け飛んだ。
「うあっ‼」
凄まじい勢いで左右に弾かれた両腕に走った痛みに思わず声を漏らす総次。
(比率的にも問題のないはずなのに、まだ何かが足りないのか……?)
今の自分にとって足りないものが何なのかが分かないでいた。だがここで焦っても仕方ないとも思い、あえて冷静になる。
「……いずれにしても、また皆さんとの訓練の中で見つけられるなら……」
そう言いながら何となく天井を見上げる総次。
「朝早くから随分と頑張ってるわね」
訓練場の入り口から聞こえてきた女性の声に振り向く総次。女性の正体は薫だった。
「……上原さんこそ、どうしてこんな早朝に?」
「情報管理室でデータの確認の報告書を受け取りに行ってたのよ。何しろ全てのデータが無事かどうか、まだ不安が大きかったからね」
情報管理室の面々に無茶をさせてしまったことに対して申し訳なさそうな表情になる薫。
「あなたの方はどうなの?」
「一度に放出できる闘気量は、沖田総一の時の三十五パーセントまで戻りました。出力は完璧です」
「闘気の融合は?」
「まだ何とも……やはり、水瀬名誉教授の仰ってた、未完成って言うのが響いているのですかね……?」
「それがはっきりするには、まだ時間が掛かりそうなのね?」
「椎名さん達との稽古の中でもう一度見つけ出せればと考えています」
「頑張ってね」
微笑みながらエールを送る薫に、総次は軽くお辞儀をして応えた。
『緊急指令、緊急指令 遊撃部隊以外の面々は大至急、局長室へ向かうように』
すると場内全体にサイレンと共に、麗華の声で放送が流れた。
「……上原さん」
「聞いての通りよ。あなたと真の部隊は待機よ」
そう言い残して薫は駆け足で訓練場を後にした。
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薫が局長室へ到着した時には、既に遊撃部隊以外の面々が集合していた。
「遅れてごめんなさい、皆」
「大丈夫よ。それより、これを確認して」
慌てて麗華の隣に侍した薫は、彼女から情報管理室からFAXで送られた資料を手渡した。
「……これは……⁉」
「見ての通り、大師討ちが都内各所でMASTER構成員の一斉排除を始めた。民間人を巻き添えにしてね」
資料を受け取った薫は愕然とした。それは彼女よりも前に資料を受け取った各組長の面々や陽炎のメンバーも同様だった。
「……どうしてこんなことを……」
「あいつら、無関係の人間を巻き込みやがって……‼」
愕然とする冬実に対し、修一は彼らの蛮行に怒りを露にしていた。
「具体的にどうなってるのかも、今の時点では分かってねぇのか?」
修一と同じように怒りを隠しきれない様子の佐助は、麗華に対していささかきつい口調で尋ねた。
「現時点では情報管理室も掴んでないわ。しいて言えば、今回の作戦に関わっているのは、大師討ちの中でも渡真利警視長のシンパよ。大師討ち内部でも、今回の件で相当に混乱してる」
冷静な表情で説明をする麗華だが、その目は険しかった。そんな麗華に対して今度は助六が尋ねた。
「警備局長殿は事前に掴んでなかったのでごわすか?」
「それらしい行動を掴んで調査を始めた途端のことなの」
「また先手を取られたって訳か……」
呆れながら麗華の報告を聞いてつぶやいた翔。だが彼の左隣に並んでいた他の3名の表情はまだ現実を受け止めきれていない様子だった。
「渡真利警視長派以外の大師討ちの対応は?」
次に訪ねたのは壁に背を持たれていた鋭子だった。
「動揺しているメンバーを落ち着かせているわ。現地での部隊編成はしてるけど、同士討ちになるからそっちでの動揺も避けられないでしょうね」
それを聞いて納得する一同。敵がMASTERであればその手の精神的な不安を抱くことがないが、警察同士の武力衝突となれば話が異なってくる。新戦組においてもそれは微かに見られていた。
「早期に鎮圧してもらうわ。頼むわよ」
「「「「「了解‼」」」」」
麗華の号令に敬礼しながら応える一同。それを見渡しながら麗華はこう言った。
「では皆、大至急部隊と武器の準備を整えて現地へ向かうように。既に手元のスマホにはあなた達が最初に向かうべき場所と部隊編成が記してあるから安心して」
麗華の指示を聞き入れた一同は即座に局長室を出て出撃した。
「麗華……」
「分ってるわ、薫。今回の件に関しては報道制限を掛けるように働きかけてるけど……」
「事後報告という形になるでしょうね。現場に足を運んでまで報道しようってマスコミは、これまでも居なかったわ。まして今回のこれとなると尚更……」
「だからこそ、被害を出来る限り最小限に留める必要があるわ。薫。このことを遊撃部隊に伝えるのはもう少し待ってもらえるかしら? 様子を見て出す必要があるかを判断したいから」
「分かったわ。私は情報管理室で都内の監視カメラから状況を出来る限りの把握をするわ」
麗華に言い残し、薫は再び情報管理室へ赴いた。
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