第11話 落胆

「セキュリティの解除方法は……」


 情報戦略室の構成員が、腰のポシェットからノートパソコンを取り出し、電子ロックにプラグを差し込んだ。


「意地でも防げっ‼」

「何てもんを……‼」

「私達の技術力も、案外馬鹿にならないでしょ?」


 表情こそポーカーフェイスだが、その言葉からは自信が滲み出ていた祐美。


「まさか技術力でも先行されてるとはな……」

「これでもう、あなた達は手が出せないわ……‼」


そう言いつつ、祐美は鋭子と距離を取った。


「んなことっ‼ お前らっ‼ まだやれるなっ‼」

「「「「「オウッ‼」」」」」


 生き残った隊員達が、一気呵成に構成員達に迫る。


「おのれっ‼」


 何とか迎撃しようとする構成員。


「間合いを詰めろっ‼」


 迫る銃弾の嵐にめげず、隊員達は各々の属性の闘気を纏う刀を振るい、闘気の刃を放つ。

 闘気の刃と弾丸が激突する。

 その間を、隊員達が一気に詰め寄る。


「このっ……‼」

「このままでは……‼」


 二人の構成員が引き金を引かんとする。


「させねぇよっ‼」


 その直前で、隊員の一人が横薙ぎを放ち、二人の構成員の首を撥ねた。


「このぉ‼」


死体の切り口から噴水の如く血飛沫が飛び散る中、情報戦略室の構成員はハッキングを必死の形相で続けた。


「何としても護り抜くんだっ‼」

「当たり前だっ‼」


 残った構成員達は、次々と隊員達への銃撃を行う。


「ぐあっ‼」

「ぐえっ‼」


 二人の隊員が斃れ、更に背後から次々と隊員達が襲い掛かる。


「これ以上はきりがないっ‼ まだ開かないのかっ‼」


 焦る構成員。だがその瞬間、ロックが解除された音が鳴り響いた。


「開きましたっ‼」

「よしっ‼ 俺達でこいつを援護するっ‼」


 そう言って二人の構成員が、情報戦略室の構成員と共に中に入っていった。


「しまったっ‼」

「もう遅いわ……‼」


 最後勧告と言わんばかりの祐美の言葉が、鋭子の耳に轟いた。


隊員達の猛攻を振り切り、重要情報室の内部への侵入へ成功した3人は、本部へ繋がるサーバーを有するパソコンへのアクセスを開始した。


「まずはパスワードを……」


 そう言いながら情報戦略室の構成員は小型端末を取り出し、ジャックを取り出して端末とコンピュータの差込口をつないだ。


「どれくらいかかるんだ?」

「これも新しいタイプではないので、すぐに処理できます」


 焦る構成員を宥めつつ、情報戦略室の構成員は冷静にパスワードの解析を進め、そして解除に成功した。


「よし。成功しました」

「これで遂にか」

「ですが、どうも連中の本部へは、また別のパスワードを入力しないとデータの取り出しが出来ないようです。なのであとは連中の本部へアクセスできれば……」


 立ち上げに成功し、続けて新戦組本部のデータバンクへ繋げ始めた。


「こいつは……‼」

「どうした?」

「データバンクへの接続には、二十五重のパスワードが必要みたいです」

「となると、短時間での解析は不可能か……‼」


 落胆する構成員達。


「では、予備計画の方へ移ります」


そう言いつつ取り出したUSBメモリをコンピュータに接続し、和図が五秒でデータを読み込ませた。


「後はここからの脱出ですね」

「どうなっているのか分からないけど……」


そう言いつつ、護衛の構成員の一人が扉の前まで来た。


「俺達が先に出る。その後に続け」

「了解」


 構成員の指示を聞き、情報戦略室の構成員はそれに従って二人の後ろに移った。一人が電子扉の前で止まって片手に拳銃を構え、もう片方の手で取っ手に手を掛けた。


「じゃあ、出るぞ」


構成員の合図と共に、扉が開かれた。外では双方の勢力の亡骸が、血の海と化した廊下に転がっていた。だが彼らはそんなことに目もくれず、一気に廊下を駆け抜ける。


「隊長っ‼」


 構成員の一人が、未だ鋭子と戦闘中の祐美に叫びながら走る。


「撤退よっ‼」


鋭子の攻撃をいなし、そのまま彼に背後を向けてきた道を戻り始める祐実。


「逃がすかっ‼」


 このままに出来ないと、鋭子が追撃を始めるが、直後に別の構成員が小さな球体の機械を投げる。 その瞬間、強烈な光が、廊下全体に輝きを放つ。


「何っ⁉」


 突然の光に、眼をつむってしまった鋭子。


「この程度でっ‼」


 光の中を、眼をつむりがら走り出す鋭子。 光はやがて静かに消え去ったが、そこには既に祐美達の姿はなかった。


「……このっ‼」


 己の失態に苛立ちながらも、鋭子はポケットからスマホを取り出し、戦闘中故に密かに避難させていた情報担当者を呼び出した。データが無事かどうかを確かめさせ始めた。



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依然、慶介との戦闘を続けていた佐助・清輝・哀那。だが未だに弾が尽きることなく、圧倒的な斉射を続ける慶介達のしぶとさに辟易し始めていた。


「畜生っ‼ こいつ、いつまで乱射できるんだよぉ‼」


 冬美や真のように遠距離攻撃に特化している訳でもなく、麗華や総次のように全てをそつなくこなせるという訳でもない清輝は限界であった。


「清輝さんっ‼」


 それを十分に分かっている哀那も、近接戦闘で清輝の疲労をカバーしようとしているが、近接戦闘を専門としてる二人の剣士が遮り、援護しようにも出来ない状態でいた。


「ったく、ここがもう少し広けりゃ、もっと派手にやれんだがなぁ……」


 当の慶介は思う存分討ち尽くせていないことに欲求不満を募らせていた。


『皆っ! 服部由美よ』


 その時、慶介達の無線に鋭子の声が入ってきた。


「何かあったのか?」


 鋭子の声を聞いて安堵の声を漏らした哀那。


『任務完了よ。情報の抜き取りは不可能だったけど、もう一方は出来たわ』

「了解!」


 慶介は攻撃を中断し、哀那達の猛攻の一瞬の隙を突いて離脱に入った。


「全員、撤退‼」

「「「「「了解‼」」」」」


 慶介の号令を聞き、退却を始めた。


「二人共っ‼ 最後に追撃だっ‼」


 大型剣を振るい、慶介達に迫る佐助。


「逃がすかよぉ‼」(雷刃連牙‼)

「私もよっ‼」(暗夜ノ舞‼)


 すかさず清輝は大鎌を振るって二十発の雷の闘気の刃を飛ばし、哀那もまた、特技を発動して追撃した。


「させないっ‼」

「守り抜くっ‼」


 だがそれらの攻撃は、ことごとく二人の剣士に防がれ、撤退を許してしまった。


「何とか追っ払えたぜ……」


 そう言った佐助だが、直後に彼らの無線から鋭子の声が入って来た。


『佐助、聞こえるかしら?』

「鋭子?」


 少々暗い鋭子の声、彼はそのまま話を続ける。


「……まさか」


 暗い声の佐助に、心配そうな声を出す鋭子。


『連中の重要情報室への侵入を許してしまった。既に敵は撤退したが……』


 その報告を聞き、佐助は驚きと戸惑いで目を見開く。


「賊は?」


『忍刀のくノ一だ』

「なっ……‼」


 再び自分達の前に現れ、翻弄して言った祐美の存在に、佐助は苦々しい表情になった。特に佐助にとっては、正木大臣護衛任務の時に痛い目に遭っていたからだ。


「情報は?」

『確認してる。何かあったら、必ずあなた達と本部に連絡する』

「なら、本部を優先してくれ」


 そう言い、佐助は通信を切った。


「鋭子さんが……」

「とにかく、報告を待つしかねぇ」


 戸惑う清輝に、佐助は冷静にそう言った。



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 構成員達と共に脱出した祐美は、即座に施設を脱出し、何とか敵の目をかいくぐって車に乗っていた。


「まさか、味方の大半がやられるとは思わなかったわ」

「やはり修羅場を乗り越えてきただけのことはありますね……」


 祐美の話にそうつぶやいた情報戦略室の構成員。


「今回の任務は成功したわ」

「ですが、連中の本部の所在地が分かれば、もっと良かったと思いまして……」


 落胆する情報戦略室の構成員。


「いええ。私も甘く見てたわ」


 祐美としても、彼らのセキュリティがここまで厳しいというのは予想外だったようだ。


「それに味方の損害も予想以上に大きかったわ。大師様に始末書を書かないといけないわ」

 そう語る祐美の表情は涼やかだった。



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 戦闘終了後、鋭子は情報担当者を呼び、データバンクに異常がないかを調べさせていた。


「抜き取られたり、破壊されたということはありません」

「通信の方は?」

「今、確認してます」


 手元のノートパソコンで情報確認を再開する隊員。


「失態でごわしたな」


 鋭子達の背後から、聞きなれた独特な口調の男の声が入ってくる。


「助六……」


 重要情報室へ入って来たのは、佐助を伴ってきた助六だった。


「私としたことが……」


 力不足からくる虚しさと、罪悪感を滲ませる鋭子。


「データバンクは?」


 冷淡な声の佐助。その声には悔しさが滲み出ていた。


「確認させてる」


 そう言いながら作業を続ける情報担当の隊員の方を振り向く鋭子。


「本部へのデータ通信は、どうなっているでごわすか?」


 続けて、助六が腕を組みながら尋ねた。


「そっちも今、確認を取らせてる。ある程度分かったら、麗華達に連絡を取るわ」

「ならこっちはお前らに任せる」


 そう言いながら、佐助は助六共に部屋を出ようとする。


「あなた達はどうするの?」

「負傷した味方の手当てを手伝う。お前の部下もな」

「それがし達は、清輝殿と哀那殿の部隊に行ってもらっておる。だが、いつまでも任せきりでは、ご両人の負担も大きくなるばかり」


 そう言いながら、助六達は重要情報室を後にした。


「霧島組長」


 そこで、情報担当の隊員が鋭子に話しかけた。


「どうした?」

「全データ、無事です」

「そう。本部との通信は?」

「あと十分で完了します」

「お願いね」


 そう言いながら鋭子は、彼らの作業を見守り続けた。


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