第8話 そして事態は収束へ……
「どうやら間に合ったようだな……」
「賊はヘリコプターを使っての脱出を選択しましたか……」
サイバー戦略室に赴いてヘリコプターからの映像を確認していた翼と財部は、警視庁を襲った賊が、脱出の為に使うヘリコプターが現場から離れようとしているのを捕捉していた。
「流石に首都東京の治安を守る警視庁が襲撃されたとあって、報道のヘリコプターもざっと見て六機以上か。ぱっと見ではそれと混同してしまいそうだが……」
「貴重な闘気感知が出来るメンバーを同伴させましたが……」
「ただし出来る限り距離は限られています。今ヘリコプターに乗っている同志の闘気感知の範囲は半径三千メートル。安全を考え、二千八百メートルほどの距離を取りつつ後を追いましょう。次の指示は追って出します」
「分かりました」
そう言って財部はヘリコプターに乗っている同志達に、翼の指示をそのまま伝えた。指示を受けた同志達は即座に闘気感知によって賊のヘリコプターを識別して捉えた。
「通信です。賊のヘリコプターは、あの白地に赤と青の横ラインが入ったものだと分かりました」
「出来る限り、気取られないように後を追ってくれと伝えろ」
「了解しました」
再び翼の指示を受けた同志達の乗るヘリコプターは、賊のヘリコプターから約二千三百メートルほど離れた距離を保って県境まで後を追い始めた。
「よぅし……そのまま距離を保ってくれよ……」
翼は祈るような声を出しながらモニターに映る同志達のヘリコプターを眺めていた。するとそこへ様子を見に来た御影が入って来た。
「状況はどうなんだ?」
「今の所、問題は無いよ」
御影の質問に対して翼はそう答えた。それから追跡をし続けた結果、賊のヘリコプターは二十三区から北部。つまり栃木県への道中にある埼玉東部方面へと向かっていた。
「随分と離れたな。埼玉県の県境まで……」
そう翼が言いかけた瞬間、サイバー戦略室の構成員達が叫んだ。
「ジャミングです‼ 闘気ジャミング機を利用しての、賊のヘリコプターからの闘気が感知できなくなりました‼」
なんと賊が乗っているヘリコプターから霧が発生し、闘気感知が出来なくなり、更にヘリコプターは猛スピードでその場から離れていってしまった。
「闘気感知を阻害する、特殊処理がされた闘気を封入したメカだな。まさかあんなものを持ち出してたとは……」
予想外の敵の科学力に、財部は脱帽していた。
「同志達からの連絡は?」
翼は動じることなく構成員の1人に尋ねる。
「駄目です……」
「だがここまでは一応指示通り……」
翼は構成員の一人にそう指示を出した。
「では、次はどうなさいましょうか?」
次の一手をどうするかを翼に尋ねた財部。すると翼がこんな提案をした。
「奴らが向かった方角にある全ての支部に、上空を監視するように指示を出してください」
「は?」
突然の指示に財部は首を傾げた。そんな財部に対し、翼の指示を理解した御影が説明を始めた。
「奴らはヘリコプターを使っての脱出をしたじゃないですか?着陸する場所をある程度でも断定できれば、そこから先の調査も楽になるし、必要以上の広域捜索をする必要もなくなる。それにこれ以上ヘリで追跡しようとすれば、撃ち落とされるでしょう」
「なるほど。分かりました」
そう言って財部は各地に点在するMASTER支部に拡散無線で翼と御影の提案を説明し、指示を出した。
「追跡は方角を変えずに着陸態勢に入るまで続けてください。では俺らは一旦司令室に戻ります。場所が確定したら、後で報告を」
「分かりました。翼様。御影様」
「お願いします。行くぞ」
「ああ」
そう言って二人はサイバー戦略室を後にした。
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「双子……その少年は総次君を指してそう言ったんだね?」
「ええ。俺もビックリしたんスけど、総次も知らなかったようで……」
警察庁に辿り着いた修一達八番隊は、警備局長室のある七階で保護した警視庁幹部達を匿っていた真達二番隊と太師討ちのメンバーと合流した。真っ先に修一は抱きかかえていた総次を廊下にある椅子に座らせ、その場で修一は真に先程の顛末の説明を始めた。
「その件は僕から本部に伝えるよ。今日は遅いし、総次君もこれだからね……」
「了解っス。でも、これから警視庁はどうなるんスかね……?」
「さあね。上原警備局長に尋ねたけど、それに関してはこれから長官や警視総監達と協議するって。まあ、現状ではあまりあてにならないから期待はしない方がいいとも言われたけどね」
「そうっスか……」
そう言って二人は途方に暮れた。結果的に警視庁幹部から死者を三人も出してしまい、最悪の事態を防げなかったこともあったが、賊が総次の双子だったという事実もそれを後押ししたからだ。
そうこうしていると、警備局長室から出てきた権蔵が真達に労いの言葉を掛けに来た。
「真君。澤村君。今日はご苦労だった」
「いえ、上原警備局長も、本日はいろいろありがとうございました。」
「ありがとうございましたっス‼」
「うむ。おや? その子は……」
そう言って権蔵は二人の後ろの椅子に座らされて眠っていた総次に視線を向けた。
「そうか……この子が薫の言っていた一番隊の新組長の……」
「ええ。沖田総次君です」
真はそう言って権蔵に補足をした。
「ところで、先程君達の声で双子がどうとか言っていたようだが……」
そう言われた二人は一瞬怯んだ。聞かれていたとは思わなかったのと、どう説明すべきかの整理がついていなかったからだ。
しかし、警備局長として太師討ちの管理を担当し、薫の父として少なからず新戦組設立に貢献した権蔵に尋ねられた以上答えない訳にもいかなかった為、真はなるべく周囲に聞こえない声で説明した。
「……警視庁を襲った賊が、この子の双子。まさか……‼」
真からの説明を受けた権蔵は、目を右往左往させながらそうつぶやいた。
「あの……どうしたんスか?」
「……いや、とにかく、今日は本当にご苦労だった」
「「は、はぁ……」」
権蔵にそう言われた二人はそれ以上の追及を諦めた。その気になればできることであったが、相手が相手である上に事件が完全に終息していなかったのが理由だ。
「……何だったんスかね……」
「さあ……」
椅子に座らせた総次の寝顔に視線を移しながら、二人はそうつぶやくのだった。
「追ってきたヘリは、これで撒けたと思います」
「よし。とりあえず成功ってことだな……よくやったな」
「ありがとうございます! ボス」
警視庁からヘリコプターで脱出した総次の双子と名乗った少年は、そう言って部下を労いの言葉を掛けた。
『随分と派手にやったな……』
すると少年が耳にしていた無線から、警視庁突撃前に届いた声と同じ人物から通信が入ってきた。
「物足りねぇよ。途中で邪魔が入って幹部連中は三人しか殺せなかった」
『だがこれで奴らもお前や俺達に対して迂闊に行動を起こせないだろうな』
「油断は禁物だぜ。あいつらだっていつかは猫を噛む鼠になるかもしれねぇからな」
『ほぉ、お前にしては随分と慎重な意見だな……』
「純粋に力で制圧するんだったら問題ないが、俺達の計画はそれだけじゃ上手くはいかねぇもんだ。だが連中の目はこれで俺達に向けられた。これからは俺達の真の力をひけらかすいい機会に恵まれるだろうな」
『やれやれ……だがそうなると御三家の出番も多くなるな。今日の一件で、他の連中も俺達相手に迂闊に近づこうとは思わなくなるだろうし、多少なりとも御三家との戦力確認や一斉蜂起へ向けての準備時間は稼げるだろう。あとは御三家最後の一人の到着を待つだけだ』
「他にもこれからやるべきことは山積みだが、今日は身体を休めることにしよう……」
『珍しく疲れたのか?』
「そういうわけじゃねぇよ。次にフルパワーで敵を叩き潰す為に妥協したくねぇだけだ……」
『そっか……まあ、お疲れさまだ』
「ああ」
そう言って少年は無線を切った。
「済まねぇが、俺は少し寝る。着いたら起こしてくれ……」
少年は自身の隣に座っていた部下にそう言って瞳を閉じ、寝息を立てて寝始めるのだった。
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