第7話 戦いは始まる
「状況はどうなんです? 葛西さん」
「今の所は特に変わった様子はない。だが油断は禁物だ」
MASTERの青梅支部と目される施設付近の林に到着した真達は、既に現場に到着していた大師討ちの現場指揮を担当する葛西警部補から状況を確認していた。
「ここでじっとしている訳にもいかない。ただ無駄に時間が流れれば増援を送り込まれる可能性もある」
「ですね……」
「椎名君。この状況、どう出る?」
「……出撃する必要があると思います」
「だな……」
「総次君と夏美ちゃん達はここで待ってて。状況を見てから、追撃をしてほしい」
「「「了解」」」
「では皆さん、行きますよ……!」
そう言って真は大師討ちの構成員五十人と共に林の中を通って施設の玄関口に近づいた。その瞬間、突然真達が向かおうとしていた施設の壁から無数の機関砲が飛び出し、一斉射撃を始めた。
「何だ⁉」
「機関砲だと⁉」
「一度退却しましょう!」
状況を鑑みた真は、大師討ちの面々に退却指示を出して再び林の中に入っていった。
「警備システムとして、施設の壁にあれ程の機関砲を内装してるとは……‼」
「内部にいる構成員の人数が少ないのは、あれがあることを理由に安心してるからか……」
施設の警備に驚愕した葛西を横目に、真は施設の壁を見ながらそうつぶやいた。
すると真は突然、冬美にこんな質問を投げかけた。
「冬美。さっきの機関砲だけど、何門出て来たか分かるかい? 大体でいいよ」
「えっと……百はあったかと……」
「OK……」
すると真は単身で弓に矢を一本つがえて施設に向かっていった。
「えっ! いいんですか? 冬美さん」
総次は驚いた様子で冬美に尋ねた。
すると冬美はニコッっとはにかみながら答えた。
「大丈夫よ。総次君、あなたは確か真さんの本領、まだ見てないよね?」
「本領……ですか?」
「ええ。見ててごらん?」
総次は冬美の言う通り、施設の玄関口に向かう真を見つめた。真が近づくと、再び施設の壁から無数の機関砲が一斉射撃せんと飛び出した。それを見た瞬間、真は弓につがえていた矢に風の闘気を纏わせて放った。矢に纏った風の闘気は、放った矢を離れて無数の闘気の矢を象って壁から飛び出した機関砲を全て破壊した。
「す……凄い……‼」
「あれが真さんの技、『貫鉄閃・連』よ」
「はぁ……‼」
総次は感嘆の声を上げた。すると総次達三人と大師討ちの全員が付けていた無線から真の声が聞こえてきた。
『総次君、冬美達と大師討ちの方々に突撃指示を』
「了解。皆さん、椎名さんの向かった方向から突撃を‼」
総次のその言葉を聞き、一同は一斉に林を駆け抜けて施設に向かった。
『総次君、君は僕が破壊したところから突入して! 他は別方向に散開して突撃を!』
「了解!」
真の指示を聞いた総次は、腰に佩いていた刀を抜き、真が破壊した玄関口から単身突入した。その途中、別方向から先程と同じような機関砲の発射音が聞こえたが、再び爆発音が鳴り響き、一瞬にして鳴り止んだ。
『僕は別方向に設置されてると思われる機関砲の破壊を続行しますので、それに続いて各員も施設の左右にある非常口から突入してください!』
真は再び無線越しに指示を出し、それに応えて総次達は次々に施設に突撃を掛けるのだった。
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「Nサイドの警備システム、システムエラー‼」
「Sサイドも同じくシステムエラーです‼」
監視室で監視をしていた構成員達が口々にそう言うのを、山畑は不安な表情で見守っていた。
「……山畑さん。俺は正面玄関から侵入してくる敵を迎撃します。その間に部下達の脱出の指揮をお願いいたします」
そんな山畑達を横目に、翼は腰に佩いていた刀を抜いて監視室を飛び出した。
「了解」
山畑のその言葉を背に、翼は監視室を後にして再び御影と連絡を取った。
「御影、警備システムが奴らに叩き潰され始めた。構成員達の脱出の準備はさせてはいるが」
翼は正面玄関に向かう僅かな時間の間に、本部の御影に無線で報告を行っていた。
『いよいよか、やった奴はやはり……』
「ああ、あの弓使いに間違いない。情報によれば命中率は九十九パーセント。あの驚異的な狙撃技術と闘気コントロールは危険だ」
『となると、このままの脱出は困難だな……』
「まあ、幸い侵入してきた数も少数だ。俺ら三人で迎え撃てば決して難敵ではない」
『翼……分かった。ここから先の指揮はお前に移譲する』
「了解した……!」
無線通信を切った翼は、既に正面玄関前に辿り着いていた。
(……こんな形で、またお前と戦うことになるとはな……)
仮面越しに翼は懐かし気に、そして戸惑いながらそう思った。
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「ここね‼ 真さんが言ってた非常口って‼」
「そうよ、お姉ちゃん‼」
夏美と冬美は大師討ちの半数の面々と共に施設の左側の非常口から侵攻していた。壁には多くのひびが入っており、既に真が警備システムをつぶしていることが分かる。
すると非常口前に、両手に鉤爪を装着し、ライダースーツのファスナーを臍まで下げて着用している女性・五十嵐八坂が立ちはだかった。
「全く……分かってはいたけど此処の警備システムも大したことないのね……まあいいわ。」
その姿を見た夏美と冬美は、それぞれトンファーと鉄扇を両手に構えて戦闘態勢に入った。
「冬美‼ 後ろからの援護頼むわよ‼」
「任せて、お姉ちゃん!」
夏美は両手のトンファーに炎の闘気を纏わせて鉤爪の女に一直線に突撃した。
「勢いは結構! でもね……それじゃあこのあたしを止められないわよ‼」
すると八坂は右手の鉤爪に風の闘気を大量に纏わせ、向かってくる夏美に向かって真横に薙ぎ払って巨大な風の爪を放つ。
「あたしだって、ここで死ぬような女じゃないわよ‼」
寸での所で攻撃をかわした夏美は、そのまま左手のトンファーで八坂に一撃を食らわさんと飛び上がり、落下の勢いを利用して八坂に放つ。
「腕が良くても、一本調子じゃね‼」
八坂はその攻撃を躱し、両手に持った風の鉤爪で夏美の炎の闘気を纏わせたトンファーと鍔迫り合いになった。
「今よ‼」
夏美がそう言うと、既にパラソルに纏わせた水の闘気を固体化させて無数の氷柱にしていた冬美が、八坂に向かって無数の氷柱を放った。
「皆さん‼ 一斉に畳みかけて下さい‼」(氷雨‼)
それに続いて大師討ちの構成員も拳銃を発砲して援護した。すると八坂は夏美のトンファーを巻技でいなし、左手の鉤爪から風の闘気を飛ばして氷柱と弾丸を全て相殺した。一連の動作の迅速さは、夏美達を驚愕させるのに十分だった。
「遠近問わず、いいコンビネーションだねぇ……でも、それじゃあここは通せないわよ」
八坂は挑発するような口調で夏美達に言った。
「お姉ちゃん、落ち着いて対処すれば、必ず倒せるわ」
「分かってるわ、絶対に負けないんだから‼」
そう言って夏美は再び八坂に一直線に向かって行った。
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「周囲の全ての機関砲は破壊しました! これから僕も侵入します‼」
真は無線で総次達や大師討ちに指示しつつ、大師討ちの構成員二十五人と共に施設の右側にある非常口から侵攻した。
すると非常口の前に、偃月刀を持ちスーツを着崩した青年こと、不知火尊が前に立ちはだかった。
「やれやれ……翼も厄介な奴を相手にさせるとはね……」
そう言って尊は右手に持った偃月刀に雷の闘気を纏わせて真達の上空に飛び上がった。
「各員、四方に散開‼」
真は大師討ちに指示しながら尊の一撃を回避し、周囲の構成員達もそれに合わせて四方八方に散った。その瞬間、雷を纏いし偃月刀による尊の唐竹割りが炸裂。それは尊の周囲三メートルに渡るクレーターを、黒い煙と共に作った。
「まずは様子見ってことで……」(貫鉄閃‼)
それを交わしつつ、凄まじい速度で放たれた真の貫鉄閃。かわし切れなかった尊は矢を偃月刀で薙ぎ払ったが、後ろの非常口は光の闘気の爆発によって木端微塵に破壊され、尊は真に向かって鋭い眼光を放った。
「派手にやってくれたな……」
「御託は良い……ここで終わらせるよ」
真は尊の眼光に怯むことなく睨み返しながら三本の矢をつがえ、それぞれに風の闘気を纏わせて放った。
(貫鉄閃・連‼)
尊は雷の偃月刀を回転させつつ突撃する。回転する薙刀によって真が放った矢と、その矢から象られた無数の闘気の矢が次々と打ち消され、真に肉薄してきた。それに応戦すべく、周囲の大師討ちも拳銃を構えて弾丸を立て続けに発射した。
「そんなんで俺を止めらると思うなよ!」
尊は弾丸と矢と闘気の嵐に全く怯むことなく急速に接近し続け、真は懐に接近してきた青年の薙刀を、風の闘気を纏わせた蹴撃で迎え撃った。
「オメエ、そういうことも出来るんだな……」
「接近された時の為の対策ぐらい、立ててるさ」
尊は真から直ぐに離れ、様子見の態勢に入った。
「こいつは予想以上に厄介だな……」
そうつぶやきながら尊は再び偃月刀に雷の闘気を纏わせるのだった。
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