第6話 出撃

「君にとっては初めての拠点攻撃ってことだから、緊張してるだろ?」

「ええ、結構……」


 翌日の午前八時五八分、本部玄関で真達を待っていた総次に、この日休日の勝枝が話しかけた。


「気負う必要はないよ。現場指揮官としての真も優秀だ。それに夏美達もいるんだろ?」

「確かにそうなんですが、大師討ちの方々とは、永田町と霞が関の時以来なので、それもあって……」

「みんなを信じて職務に励めばいい。先輩からのありがた~いアドバイスだ!」


 勝枝は右手人差し指を突き出してウインクしながら言った。


「ありがとうございます」

「今回は真と君と夏美と冬美の四人が派遣されるのか……ま、気張り過ぎずに先輩達を頼りにすればいいさ」

「かしこまりました、笠原さん」


 すると、奥から真達三人が得物を引っ提げて出てきた。


「総次君、準備はいいね?」

「はい、手荷物の確認や武器の手入れも万全です」

「うん。では少し早いけど、出撃だ」


 そう言って真達三人は玄関を出て真が運転する車に向かった。


「では笠原さん、行ってきます」

「ああ。行ってらっしゃい、総次」


総次も勝枝に挨拶した後、三人の後ろを追って駆け出して行った。


「現地まではあと二十分で着くんですね?」

「うん! そこから大師打ちと合流する時間を入れても、大体二十五分ぐらいだよ」


 車の中で今後の手順の確認を夏美に確認したのは総次だった。作戦に支障をきたさないように万全を喫する為だろう。


「今は大師討ちが先行して、既に現地近くで待機しながら状況を確認してるから、到着次第、彼らからの情報も必要になるよ」

「それに、まだ拠点の情報も、待機してる構成員がやや少ないという以外はまだはっきりしてないから、油断はできないわ」


 真と冬美も、夏美に続いて手順の確認と敵の戦力の確認を行った。


「そうですか……」


 総次はやや不安そうな表情でつぶやいた。



⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶


 午後十二時四十五分。支部の情報室では突然の出来事にてんてこ舞いとなっていた。特に副支部長の山畑はその対応に追われて目にクマが出来ていた。


「山畑さん」

「幸村司令官」


 騒ぎを聞きつけた翼は、八坂と尊を引き連れて支部の情報室を尋ねた。


「竹中支部長は?」

「それが、支部長室で酒浸りで……」

「一体なんでだ?」


 不機嫌そうに尋ねる八坂。未だに例のベッドの件を根に持っていた。


「昨日、司令官に言われたことと、現実逃避が重なったようで……」

「呆れたもんだ……」


 山畑の報告を聞いて顔に手を当てながらため息をつく尊。すると三人の無線に通信が入った。


『御影だ。最悪の事態になったらしいな』

「ああ。準備が済んでないどころか、逃亡前に襲撃を許してしまった。データのバックアップ自体は取れたが、削除までは……」

『仕方ない。最悪の場合、施設の情報機器は破壊しろ』

「だな……」


 御影の乱暴とも言える指示に苦笑いしながらも了承する翼。


「御影、そっちの方では確認は取れるか?」

『ああ、今うちの光学迷彩付きの超長距離飛行ドローンが、支部の上空から映像を送ってくれている……いや、ちょっと待て』

「どうした?」

『……敵が来た』

「遂にか……」


 翼のこの言葉を聞いた青梅支部の面々はどよめき始めた。


「どこにいるんだ?」

『そっちの監視カメラの監視範囲外、半径四百メートル地点。方角は支部の玄関から見て南西に、組織関係者ではない人間が集結している』

「警察か? 数は?」

『約五十人程だ、警察の可能性は十分にある。気を付けろ』

「了解した」

『ここからの連絡は無線に切り替えた方がいい、その方がリアルタイムで指示が出来る。それにしても、最悪の状況になったな』

「いたし方あるまい。とにかく尊、八坂、直ぐに無線を付けろ」

「あいよ」

「了解したぜ」


 そう言って翼は電話を切りつつ、ズボンの左ポケットに入っていた無線を取り出して耳に掛けた。尊達も翼の命令を受けて同じように無線を付けた。無線を付け終えた翼は竹中の方を見た。彼は驚いた表情で周囲を見回している。傍から見ても動揺してるのは明白だ。


「どうやら来るべき時が来たようですね」

「ここの防衛システムでは、やはり無謀でしょうか?」

「恐らくですね……」


 すると翼達の無線に、御影から改めて通信が入った。


『みんな、たった今警察連中の所にもう一台、車が来た……新選組モドキだ』

「人数と特徴は?」

『四人だ。その中でも特に要注意な奴だけ言うぞ。一人はあの弓使いだ』

「マジかよ⁉ 一番厄介じゃねえか⁉」

「ああ、うちの支部の連中がことごとくあいつの率いる部隊にやられたからな」


 御影の報告を聞いた尊と八坂はそれぞれ驚いた様子を見せた。


『それと、例の黒い奴もいる』

「何?」


 翼は少々声が引き攣った。


「例の奴も来たか……こいつは結構厳しい戦いになりそうだな……」


 尊はスーツの裾を腕まくりしながら言った。


「苦戦を強いられる可能性は確かに高い……八坂、尊。お前達は直ぐに部屋に戻って武器の準備をして、支部の左右にある非常口近くで待機しろ!」

「「了解!」」


 尊達はそう言って監視室を後にした。すると再び御影から通信が入った。


『翼、これ以上ドローンを飛ばしてると怪しまれるから、引っ込ませておくぞ』

「そうか……」


 そう言って翼は改めてモニターに目を向けた。すると……。


「あいつは……‼」


 翼はモニターに映った黒い羽織を着た少年の姿を確認し、身体を一瞬振るわせた。そして脳内で、永田町・霞が関襲撃事件直後に御影が言った言葉を思い出していた。


――背丈はかなり低かったらしい。下手すりゃ中学生位かもしれないぜ? おまけにすばしっこくて、姿を捉えるのもやっとだったとさ――


「……まさかと思っていたが、やはりお前だったのか、総次……!」


 翼は黒いコートを着た少年の姿に向かって静かにつぶやくのだった。

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