純愛
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一
嗚呼、綺麗だ。
目の前のうら若い乙女の裸体を視線で舐め、松井英吉は心からの快楽と満足感を得た。
甘ったるい。腹部でパックリと口を開けた傷口、そこから花の如く溢れ出る真赤な水、絹のように艶やかな髪。感情を失った瞳は硝子玉の様に美しく、陶器のような肌は冷たくしなやかに、松井の心を魅了した。
美しい。生きている女からは決して感じ得ないこの儚さと麗しさは、それだけでも松井の呼吸を荒ぶらせるのに全く十分な材料であった。
「すまない。すまない。」
黒く沈む闇の中で、松井の声だけが虚しく響く。
「おれには、貴女が可愛くて仕方が無いのだ。愛しくて愛しくて、どうしようも、ないのだ。」
そうして松井はドキドキと光る刃渡り二寸ばかりの包丁を手に取り、それを既に死人と化している彼女の心へ突き立てた。
ぐちやりと心地よい音が耳を擽る。
と同時に、ゾクゾクと背中を伝って襲い来る快感。冷たく美しい肌を、その真白な肌を、おれの手で犯してやったのだという自己満足にも似た感情が、何よりも松井を悦ばせた。
身体が熱い。冷えた彼女の体温が心地良い。赤く甘ったるい蜜の匂いに、頭が変になりそうだ。
包丁をその妖麗な躰に突き立てる度、なんとも言い難い快感が腹の底から、背中から、脳みそにまで登りつめる。呼吸がまた荒くなり、ついには思考がおぼつかなくなる。
「…本当に、愛しているのだ、何よりも。」
そう言って、彼は最後の一刺しを終えた。
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