衝撃のカミングアウト



 和が新居探しに出ていた頃、天那は学校へ登校していた。

 12月が近付いて寒さはいっそう厳しくなったが、今の天那にとっては些事でしかない。

 

 何せ、大好きなおにーさんである和が自分の家で住むことになったのだから。

 これまでは住んでいる場所が異なっていたため、言いたくても言えなかった『いってらっしゃい』が言える。

 たったそれだけでも、天那にとっては幸せなことなのだ。


「おはよー!」


 そんな幸せから胸を躍らせつつ、教室に着いた天那は大きな声で挨拶をする。

 先に教室に来ていたクラスメイト達と挨拶を交わしながら自分の席に着くと、程なくして友達である蓮水達が駆け寄って来た。


「はよっす、あまっち」

「おはようあまなちゃん」

「お、おはよー……」

「おはよーみんな!」


 3人からの挨拶に元気よく返す。


「あまっち、なにかいいことでもあったっすか?」


 すると、そのあからさまに明るい表情から何かあったと察した蓮水が質問する。

 それは彼女だけでなく、智由里と嘉奈も同様であった。


 普段から明るい天那だが、ここ数日は特に輪をかけて明るい。

 その正体を探るべく投げ掛けられた問いに、天那は笑みを崩さないまま口を開いて告げる。


「うん! あのね、じつは……おにーさんがあまなのいえですむことになったの!」

「「「──え?」」」


 ことも無さげに明かされた内容に、3人は一瞬呆けた後……。


「「「ええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!??」」」


 隣の教室どころか、校舎全体にまで届くかと思う程の驚愕の声を上げた。

 当然、一番近くにいた天那がびっくりして、耳を塞ぐだけでなく目も閉じてしまうのも無理もない。


 やがて絶叫は止まったものの、教室や廊下は先の喧騒が嘘のように静まり返った。


 だが蓮水達は周囲の反応に構うことなく、驚きの事実を告げた天那に詰め寄る。


「つ、ついになのね!? ついにあまなちゃんのママとおにーさんがけっこんしたのね!?」

「す、スゲーっす! た、たしか、ふーふになったらおいわいしないといけないんっすよね!?」

「はわわわ、それ、おせきはんのことだよ? かなたち、おりょーりしないといけないのかな……?」

「みんな、なにいってるの?」


 思いもよらなかった理由に興奮冷め止まないまま矢継ぎ早に話す3人。

 それに反するように、天那はどうしてそこまで驚かれるのか分からず首を傾げるだけだった。 

 

 加えてその事実にもう一人の人物が食い付く。


「にいちゃんがみなみのいえにすんでるって、マジかよ!?」

「あ、だいちくん! おはよー!」


 4人の会話に割って入ったのは、同年代の男子と比較して恵まれた体格を持ち、天那に好意を寄せる尾野倉大地だった。

 運動会の練習を経て、好きな子から下の名前で呼ばれるようになったという、何とも微笑ましい進展があったのだ。


 彼にとって和は年の離れた兄のような存在だが、同時にそういった恋愛的な関係は無いと聞いたことがあった。

 にも関わらず、自分の恋路がまさに児戯レベルに思える進展を見せつけられたため、愕然としたのである。


「オレもまけてられねぇな……!」

「それはどうでもいいのよ! だいじなのはあまなちゃんのママとおにーさんのかんけいよ!」

「どうでもいい!?」


 改めてアプローチを強める決意をした大地の宣言を、智由里がにべもなく一蹴する。

 傷付きはしたものの、彼女の言う通り自分達が良く知る大人2人の進展が気になるのも確かだった。


「えっと、おにーさんとママはふーふじゃないよ?」

「ええーっ!? それじゃなんでいっしょにすんでるのよ?」


 そんな4人の問いに、天那はキョトンとした面持ちのまま答える。

 特に少女漫画を嗜むようになって、恋愛面でませるようになった智由里が一段とショックを受けていた。


 大本を質せば、和が南家に居候することになったのは彼が住んでいたアパートが火事に遭ったためだ。

 だが天梨から彼が南家にいる理由は不用意に話してはいけないと口留めされている。

 天那としては母との約束を破る気は無い。


 かといって嘘をつくのも苦手なため、とにかく和が一緒に住むことになったとしか言えないのである。


「でもこれは大きな一歩よ! きっと一つやねの下でくらしているうちに、おたがいのそんざいが大切になっていくにきまっているわ!」

「う、う~ん……そんなマンガみたいにうまくいくかなぁ……?」


 だがすぐに立ち直った智由里は期待の眼差しを浮かべる。

 嘉奈は苦笑を浮かべながらそう疑問を口にするが、そこは和と天梨次第だろう。 


「まだふーふじゃないなら、きょーのほーかごに、みんなであまっちのいえにいくしかないっす!」

「それよ! おにーさんがあまなちゃんのいえで、どんな風にくらしているのかみたいわね!」

「え、えぇ~? でも、あまなちゃんがダメっていったら──」

「いーよー」

「い、いいんだ……」


 そんな中、蓮水が頭に電球が浮かぶような表情で、天那の家に行く提案をする。

 その案に智由里も全力で乗っかり出し、咄嗟に嘉奈が制止を試みるも家主の娘があっさりと許可を出した。


 続けて天那は大地に顔を向けて尋ねる。


「だいちくんもくるー?」

「お、オレもいっていいのか?」

「うん。だってだいちくんもあまなのともだちだもん!」

「え、あ、うん、そうだよな、うん、ありがとう……」


 好きな子の家に行けるとあって一瞬天に昇るものの、友達発言で一気に地に落ちた。

 その様子を蓮水達は同情しながら見守る

  

 かくして、4人は放課後に南家へお邪魔することなった……。

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