即興の体力テスト的なヤツ



 靴のお礼を兼ねて昼食休憩を取ってからアウトレットモール内を茉央と散策していく。

 服屋やアクセサリーショップに化粧品店があるものの、どれも決め手に欠けるのか足早にテナント店を見て回る。


「まだ決まらないのか?」

「う~ん……買い物自体は前の休みに粗方済ませてるから、正直に間に合ってるのよね。加えていざお礼をされるってなると尚更決めきれないというか……」

「まぁ言わんとすることは判るけど……」


 茉央としては靴選びを手伝って終わりだと思っていたのか、礼を受けると決めたがそこからは考えてなかったらしい。

 俺も礼をするとは言っても選択権は彼女に委ねたわけだし文句はないけど……特に欲しい物がない状況で何か奢ると言われても確かに悩む。

 例えるなら『サンタクロースに欲しい物を聞かれても答えられない』……そんな感じに近いだろう。


「でしょ? でもあんまり先延ばしにするのも申し訳ないし──ぁ」

「お? 何か良さ気なのでも見つかったのか?」


 話をする最中、茉央の視界がある一点を認識した途端歩みをピタリと止めた。

 その反応につられて同じくその眼差しを先へ目を向ける。


 そこは、最新技術を用いて様々なスポーツをゲーム感覚で遊べる施設だった。

 入場料を支払えば中のスポーツゲームを時間が許す限り遊び放題という何とも贅沢な設計で、先に遊んでいる人達の喧騒がこちらにまで聞こえて来る。

 

「カズ君。あそこでちょっと鍛えてみない?」

「見た感じサッカーとか野球をやってるから、リレーとは関係ないんじゃ?」

「カズ君は多少でも体力が付く。ついでに私も楽しめるでウィンウィンじゃない」

「さいですか……」


 どうやら茉央の中ではあそこで遊ぶのは決まりのようだ。

 彼女に付き合うと言った手前、俺に拒否権は無いのである。


 となれば早速と言わんばかりに俺達は入場料を払って中へと入って行く。

 ゲームセンター同然のけたたましい騒音に、かつてあまなちゃんが両耳だけでなく目も閉じていたなと思い返す。

 今度休みが重なれば一緒に遊ぶのも良いかもしれない。


 っと、それは後にするとして今は茉央とどのゲームから遊ぶか選ばないと。

 逸れていた思考を慌てて戻し、係員に手渡されたパンフレットへ目を向ける。


「さてと。まずはトランポリンからやるわよ」

「足腰の強化を狙ってるなぁ~……えぇっと、トランポリンを跳んで制限時間以内にどれだけ高く跳べるかを競う、と」


 素人がやったところでいきなり出来るのかというと疑問に思うが、ここの目的はゲーム感覚でスポーツを楽しむこと。

 トランポリンがコントローラー代わりとなり、プレイヤーが跳ぶたびにゲーム内のキャラクターが高く跳んで行くみたいだ。

 

 が、そのキャラクターがどう見ても空中ジャンプをしてるように見える。

 ゲームだからツッコむのは野暮だろうが、明らかに同競技に夢を持たせ過ぎだ。

 

 ……俺も小さい頃は人間は空中ジャンプ出来るんだと信じてたが。


 そんな一抹の黒歴史が不意に浮かんで来たダメージを隠しつつ、セットされているトランポリンの上に乗る。

 

「と、と……」


 予想外に足が沈んで転ぶまではいかないでもバランスを崩す。

 経験者じゃない俺でも立てる時点で、ゲーム用に調整されているのは明白だ。

 本来ならこうやって立つところから練習が必要な気がする。 


「それじゃ目標は7500mよ! 超えるまで何度もリトライするからそのつもりで!」

「ちょっと待てノルマがあるなんて聞いてねぇぞ!?」

「ただクリアするだけじゃ体力が付かないでしょ? ほらもうスタートボタン押しちゃった」

「あーもうやれるだけやってやる!」


 ゲーム開始直前に鬼コーチみたいなことを言い放つ茉央に反論する間もなく、ゲームスタートのアナウンスが響き渡る。

 本場のトランポリンのように技を決める必要はないが、ただジャンプするだけでもかなり足腰の力を使う。

 ましてやそれが1分の時間制限付き……タイムアップまで延々と跳び続けないといけない。

 

 率直に言うとキツイ。

 最初は余裕と思って高く跳んでいたが、だんだんと腰が痛くなって来て次のジャンプに力が入らなくなっていく。

 太ももが千切れそう……ふくらはぎとか血が通ってるのか怪しいくらい感覚がない。 


 特に謎のフィーバータイムがヤバイ。

 ジャンプをする度に溜まるゲージがカンストすると、キャラクターの背中に背負っているリュックからロケットエンジンが展開され、そのエネルギーチャージとしてただでさえしんどい連続ジャンプを強要して来るのだ。

 

 ふざけんな、何その意味不明な設定!

 こっちはビ〇ーズブートキャンプをしに来てるわけじゃねぇんだぞ!?


 中学の授業で1回やったけど、次々と無茶ぶりをしてくるビ〇ーが本気で怖かった。

 もう泣きたくなるような気持ちを必死に支えながらも、ノルマを越えるチャンスを活かすべく死力を尽くして跳び続けた。


 そして……。

  

『ピピーッ! タイムア~ップ!』

「ぜぇ……ぜぇ……」


 や、やっと終わった……。

 終了のアラームと同時に疲れ果てた俺はトランポリンの上にも拘わらず四つん這いになる。

 

 なげぇ……1分ってあんなに長かったんだ……。

 予想外に消費した体力と腰の痛みがその事実を突き付けてきやがる。

 二度とやりたくねぇ……。 


「お疲れ様。記録は8432mでノルマ達成よ」

「そ、そうか……ならクリアだな……」


 壁を支えに茉央の戻ると、実に満足げな面持ちで称賛してくれた。

 それだけにノルマを越えられなかったらと思うと、得も言われぬ恐怖を感じてしまうのだが。


 とにかく一発クリアで済んで良かった。

 そう安堵したのも束の間。


「それじゃ!」

「──え?」


 何とも無慈悲な言葉が耳に入って来たではないか。

 当の彼女は至って平静な顔で、嘘や冗談を言っているわけではないと分かる。


 分かるからこそ、続けられた言葉には絶望する他なかった。


「トランポリンだけじゃ入場料分取り返せないに決まってるわ。せめてその分はやり切らないと損よ」

「あ、はい」


 ──明日は筋肉痛になる。


 そう確信するには十分だった。

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