一難去ってまた一難!!
「ムッフフフフ……キュートなガール達とプールだなんて、見かけに寄らず肉食系なのねぇん?」
ブーメランパンツスタイルでやたらとムキムキな筋肉を見せつけるIK〇O風メイクのオネェが突如絡んで来た。
どうしてよりにもよって筋肉とオネェを掛け算しちゃったのだろう。
彼(?)がどれだけ異質なのかと言うと、他の人達が彼女(?)を中心に半径5mくらい距離を置く程だ。
ぶっちゃけ俺も同じくらい離れたい。
だが、そうはいかない事情が出来る。
「──オッサンは、なんでおとこのひとなのにけしょうして──」
「ギャアアアアアアアアア!? すみません、この子に悪気は無いんです! 許してください!!」
はすみちゃんのドストレート過ぎる質問を半ば悲鳴にも聞こえる大声で遮って謝罪する。
手遅れかもしれないがこのまま怒らせて小学生達を泣かせるわけにはいかない。
とにかく悪気はないと主張して謝る。
「フフフ、あなたも立派なレディになればわかるわぁん」
あ、この人めっちゃ大人だわ。
謎のマッスルオネェは何ら気に障った様子もなく、はすみちゃんの問いに丁寧に答えて見せた。
「黛さん! 奇遇ですね!」
「えっ!? 天梨の知り合いなのか!?」
「あ、はい。職場の先輩です」
「先輩!?」
こんなオネェが先輩ってどんな仕事なんだよ!?
今さらだけど、天梨がどの職場で働いているのか全然知らないんだよなぁ……。
少なくとも、ウチのようなブラックな勤務や企業ではないだろうってことしか把握してない。
「『ハイネルテック・システムズ』って聞いたことなぁいん?」
「え!? 業界でもトップクラスのIT企業がどうしたんですか?」
「アタイと天梨ちゃんが働いている職場がそこよぉん」
「そういえば、早川さんには私の職場の話をしたことがありませんでしたね。黛さんとは同じ営業部なんです」
「うそぉっ!?」
それってヘタしたら天梨の年収って俺より多いんじゃねぇの!?
なるほどぉ……そりゃ、あのマンションに住めて子育ても出来るわけだ。
あまなちゃんのためだって思うと、年下に年収で負けてることは気にならない……ないったらない!
「ママとおんなじおしごとって、おねーさんもたいへん?」
「あ゛ら~。心配してくれているのかしらぁん? でもノープロブレム! 伊達に10年は続けてないわぁん」
「すごーい!」
男扱いしてはいけないと敏感に察したあまなちゃんの質問に、黛さんは余裕のある態度で返した。
そして話も程々にプールサイドに上がると、やたらと俺と天梨を交互に見つめて来る。
その表情はやけにニヤニヤとしていた。
「そ・れ・に・し・て・も……天梨ちゃんが子供も一緒とはいえ、男の子と出かけているだなんて思わなかったわぁん」
「え!?」
「──っ!」
何気にビックリする感想を言われ、咄嗟に天梨の方へ顔を向けると目がばっちり合った。
瑠璃色の瞳は丸く見開かれているものの、頬は鮮やかな朱に染まっており、ウォータースライダーのゴール時に水を被ったために濡れた髪や肌から『水も滴るいい女』という言葉は、まさに彼女を表すようだと思える。
というか何を考えてんだ!?
相手は既婚者だということを忘れて見惚れていた自分に活を入れて、視線を外して邪念を払う。
しかし、一度意識してしまうと記憶に焼き付いた天梨の顔が中々頭から離れない。
心臓が高鳴って鬱陶しいはずなのに悪くないと思ってしまう自分がいた。
天梨の方はどんな顔をしているのか分からないが、変に思われていないだろうか?
「ふぅ~ん。なるほどねぇん……」
「な、なんですか?」
じっとりと観察してくる黛さんの意味深な反応に、ビビる自分を抑えながらも尋ねる。
「……あなた、なんて名前かしらぁん?」
「……早川和です」
「わかったわぁ、和きゅん」
きゅん!?
その呼び方やめてくれません!?
「ちょっとこっちに来てもらえるかしらぁん?」
やだ待って怖い、思わずお尻を手で守るくらい怖いんですけど!?
割とシャレにならない悍ましい何かに怯えてしまって、言われるがままホイホイ連れられてしまう。
だけれど、向かい合った黛さんは大人らしい柔らか笑みを浮かべだした。
「天梨ちゃん、ずぅっと娘ちゃんのことで一杯一杯だったから、こうして誰かとお出掛けをするなんて、本当に予想しなかったのよぉん」
「え? あー……」
それは同感でしかない。
初めて会った頃の天梨は、あまなちゃんに近付く俺を本気で嫌っていた。
授業参観以降は柔らかくなったけれど、俺より彼女を見てきた黛さんからすればその変化は劇的なものに違いない。
「あの子はあの若さで子育てをしてるでしょぉん? だから、いざという時は和きゅんが力になってあげてねぇん」
「……そんなの、言われるまでもありませんよ」
あまなちゃんに笑っていてほしいように、天梨にも同じように笑っていてほしい。
そのために俺が出来ることがあるなら、手伝ってやろうと思っている。
今更黛さんに言われるまでもないことだ。
「そぉん……あなた、アタイが若かったらうっかり惚れちゃうくらいいい男ねぇん」
「ヒェ……」
その気持ちが伝わったのか黛さんは納得の行った素振りを見せるが、続け様に告げられた称賛は素直に受け取れそうになかった。
ともかく、黛さんとの話を終えて一足先に黒音のところへ戻った天梨達と合流しようと、彼(?)と別れる。
別れ際に天梨に『頑張れ』と伝えるように言われた。
子育てへの鼓舞も欠かさないとはいい先輩に恵まれたんだなぁ。
俺も先輩のおかげであまなちゃんと出会えたようなもんだし、それに関してはお互い様ってところか。
そう感慨深い気持ちを感じていると、天梨達の姿を見つけた。
待たせたと声を掛けようと口を開いた瞬間──。
「あ、カズ君!」
「早川さん!」
「──はい?」
先に2人の女性から発せられた怒声によって遮られた。
片方は天梨で、なにやら不機嫌な表情だ。
そしてもう1人は……えぇ~、このパターン、前にもなかったかぁ?
そんなデジャヴを抱いてしまう程の呆れが思考の大半占める。
赤茶の髪を短く束ねて、体形を隠すキャミソールのようなトップスとショートパンツのようなボトムの水着姿の茉央がいたのだ。
しかし、その表情は不満を隠さずに露わになっている。
状況から察するに天梨と口論になっていたようだ。
いや、でもなんでここにいるんだよ。
さっきの黛さんといい、どんな確率なわけ?
そしてなんで喧嘩してるんだとか疑問は尽きないが、とりあえず今はこれだけ言っておこうと思った。
「もう疲れた……」
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