2日目の終わり
黒音が夕食として作ったハンバーグを美味しく頂いたあと、2人が風呂に入っている間に天梨に今日1日の報告をするために電話をする。
『はい、南です』
「こんばんは、天梨。出張2日目もご苦労さん」
『早川さんこそ、今日も天那をみて頂いてありがとうございます』
「あ~、そのことなんだがな……」
挨拶も程々に、ショッピングモールでの出来事を簡潔に伝える。
ゲームセンターのくだりでは微笑ましそうに相槌を打っていた天梨だったが、流石に迷子にさせてしまった部分では大いに焦らせてしまった。
だが黒音をナンパした男達が悪いと理解を示してくれた上に、妹を気遣う言葉を掛けてくれたことに胸を撫で下ろす。
そして茉央にあまなちゃんを助けてもらったことについては、機会があれば自分もお礼をしたいと言ってくれた。
部署は違えど同じ職場なので、直接会うのは難しい。
なので俺からそれとなく伝えておくことでとりあえず手打ちとなった。
なお、手作りクッキーに関しては黒音から秘密にしておいてほしいと言われている。
こういうのはサプライズの方が良いという持論らしいが、変に明かして不安にさせるよりは良いだろうと俺も乗っかることにした。
『重ね重ね、天那を良くしてもらってありがとうございます。早川さんの妹さんにも随分と助けられましたね。あの子は1人っ子なので、姉が出来たように喜んでいると思いますよ』
「アイツもあまなちゃんを気に入ってるから全然気にしてないって。それに姉妹みたいに仲が良いから、見てるこっちも安心だったよ」
『ふふ、揃って子供に好かれやすいだなんて、改めて兄妹らしいと思えますね』
「意識したことはなかったけど、案外そうなのかもな」
そんな他愛のない話をした後に、天梨との通話を切って今日の報告を終える。
それが合図だったかのように尿意を感じ、トイレに向かって用を足した。
一息ついた瞬間……。
『わっ、おねーちゃんのおむねがおふろにういてる!』
「──っ!!?」
無邪気な天使の声が壁越しに聞こえて、思わず壁に顔を向ける。
そうだ、トイレのすぐ隣が浴室なんだった……そのせいで声が丸聞こえなんだよなぁ……。
というか、え?
女の子の胸ってマジで浮くの?
童貞にはちょっとどころかかなり興味を惹かれる会話に、無心で聞き耳を立てる。
『ねぇねぇ、さわってみてもいーい?』
『ん~? いいよ。べつに減るもんでもないしね』
この場合幼女と一緒に風呂に入ってる黒音を羨むのか、あの巨乳に触れるあまなちゃんを羨むのどっちが正解なんだろうか。
いや、何バカなことを考えてんだ俺は……。
『ふわぁ、おねーちゃんのおむね、ふわふわする!』
『あまなちゃんの肌だってすっごくスベスベだよ~』
「……」
……。
……あかん。
これ以上ここにいたら変な気分になりそうだ。
とりあえずおねロリごちそうさまでした。
そう神に感謝しつつトイレを出るのだった……。
=====
「にゅ~……むにゃ……」
「あまなちゃん、そろそろ寝ようか」
「うん……」
入浴を終えた後はテレビを観ていたのだが、午後10時を前にしてあまなちゃんが船を漕ぎだした。
就寝を進めれば頷いてくれるのだが、何故か俺の寝間着の裾を掴んで離さない。
その仕草は大変可愛らしいが、生憎と俺はまだ眠くなかったりする。
「あまなちゃん、どうかしたのか?」
「えっとね……そのね……」
行動の真意が見えず問い掛けると、あまなちゃんは眠気で思考が鈍っている頭を懸命に働かせて、理由を口に出す。
「おにーさんと、いっしょのおふとんでねちゃダメ……?」
「は……」
なにそれ超ウェルカムなんだけど?
いやいや待て待て。
思わず喜んでと口に出そうになったが、そんなつもりはないとはいえ流石に大きな友達(文字通り)と同じ布団で寝るのはTPO的にダメだろう。
せっかくの要望だがここは大人として節度を保たないといけない。
「えっとな、流石にそれは……」
「そうだよ。アタシが一緒に寝てあげるからさ?」
「や……おにーさんといっしょがいい……」
「──ぐぅっ!?」
なんだこのくっっそ可愛い天使は!?
断ろうとした瞬間に抱き着いて密着度を上げるだけに留まらず、なおも要求を崩さないとは……。
そんなに俺と一緒が良いのか?
さり気なく好感度で負けていると明かされた黒音が恨めしそうに睨んでるんだけど?
お前はあまなちゃんと一緒に風呂入ったりしただろうが。
あいこだよあいこ。
しかし、確かに甘えて良いとは言ったがこれはどうもおかしい。
ここまで露骨なのは初めてじゃないか?
そこまで考えてふとあることに気付いた瞬間、今さっきの疑問を抱いた自分をぶん殴りたくなった。
俺に抱き着くあまなちゃんは小さく震えていたからだ。
短時間とはいえ、この子は広いショッピングモールで迷子になった。
いくら賢くて冷静でいたとしても、まだ小学1年生の女の子だ。
寂しさを感じていたに決まってる。
茉央や俺達に心配を掛けないように何でもない風を装っていたが、疲労と眠気に加えて無事に帰って来たことで緊張の糸が切れたんだろう。
栓を外したことで思い出した寂しさを少しでも紛らわそうと、あまなちゃんは俺と添い寝したいと思ったんだ。
……それなら、断るなんて選択肢は放り投げるしかないだろ。
ひとまず、あまなちゃんを安心させるためにその小さな頭を撫でる。
風呂上り故の柔らかい髪の感触が手の平を通して伝わり、同じシャンプーを使ったとは思えない良い香りが漂う。
不意に撫でられたことにビックリしたのか、眠気が吹き飛んだ瑠璃色の瞳と目が合った。
「おにーさん?」
「……そうだな。せっかくのお泊りなんだし、一緒に寝ようか」
「──うん!」
同意を口にすると、あまなちゃんは満面の笑みを浮かべて頷いた。
これでちょっとは寂しさがマシになればと思う。
「アニキずるい! アタシもあまなちゃんと一緒に寝たいんだけど!?」
「おにーさん、おねーちゃんもいっしょでいーい?」
「あぁ。あまなちゃんがそうしたいなら良いよ」
「にへへ、じゃーおねがいします」
「はい、承りました」
ごねる黒音も交えて、あまなちゃんを挟む形で川の字に並んで布団に入る。
茉央に家族だと誤解されても仕方がないような気がして、無性に微笑ましくなった。
「おにーさん、おねーちゃん。おやすみなさい」
「おやすみ、あまなちゃん」
「おやすみ~」
寂しさを感じさせない様子のあまなちゃんの挨拶に返し、俺と黒音も瞼を閉じる。
いつもと違いこの日は過去最速で入眠出来たと、後に振り返って思うのだった……。
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