妹に通報されるとかシャレにならねぇっ!!



 黒髪黒目巨乳美少女JKとかいう、これでもかとモテ要素を詰め込んだような俺の妹──早川さがわ黒音くろねが、親父と喧嘩したから泊まらせろと突然やって来た。

 その来訪に俺は内心冷や汗が止まらないでいる。

 別にこういったことは俺が1人暮らしを始めてからよくあることなので、今更気にすることじゃないのだが……今だけはひっっっっじょうにまずい!

 

 何せ、今シャワーを浴びているのですぐにバレはしないが、あまなちゃんがいるんだ。

 自分の兄が自分の知らない幼女を部屋に連れ込んでシャワーを浴びているとか、事情を知らない人からしたら事案以外何物でもない。


 しかも事案を通報したのが妹とかシャレにならねぇよ!!

 

 ともかく、今は黒音を帰すしかない。

 そう判断した俺は、引き攣りそうな頬を平静に保って妹の説得を試みることにした。


「わ、悪い……今日から日曜まではちょっと人を泊められないんだ……」

「え? アニキ、ついに彼女でも出来たん? イマジナリーとかじゃないよね?」

「お前、いくらなんでもその言い方は酷くね!?」


 咄嗟の言い訳を勝手に察した黒音は、可哀想なモノを見る眼差しを向けて来た。

 だがその言い分は到底納得出来るものではない。


 妹に恋人の存在を期待されてないとかどんだけだよ!!

 

「まぁそれはいいとして大丈夫だって。日中は外で時間潰すし、雨風凌げるように夜だけ布団貸してくれればいいから!」

「いや、それもちょっと……」


 例え黒音が日中の間いなくとも、部屋数が圧倒的に少ないこのアパートじゃ、あまなちゃんが簡単に見つかってしまう。

 そのリスクを冒してまで、妹を泊めるわけにはいかない。

 

 だが、それだけで容易に引き下がる程、黒音は簡単な相手じゃないこともよく分かっていた。 


「え~、泊めてよ~。外で寝てたら顔も知らない男に襲われること間違いナシでしょ? アニキはこぉ~んなに可愛いJK妹がそんな目に遭って良いって思うような薄情者なの?」

「思ってねぇよ! 申し訳ないけど本当に都合が悪いんだよ!」

「だから夜だけ寝させてっていってるじゃん!」


 確かに、黒音みたいな美少女が公園のベンチで寝るとか襲って下さいって言ってるようなもんだし、見放すような真似をしていることは大変心苦しいに決まってる。

 けど、そんな妹相手だろうとあまなちゃんの存在を知られるわけにはいかない。

  

 信用してないわけじゃないが、変に誤解を与えて通報される可能性を少しでも減らす。

 そうでもしないと、天梨が帰って来るまでの日を、あまなちゃんは保護施設で過ごす羽目になってしまう。

 せっかく信頼されて他人様の子供を預かってる身として、それだけは絶対に回避するべきことだ。 


「ね、ネカフェとかで泊まれる分の金は出すから! 頼むから今回だけは無理なんだって!」

「だが断る!」


 必死に捻り出した妥協案を、どこぞの漫画家みたいに一蹴された。

 ちくしょうコイツ、こっちに隠し事があるって察しやがったな!?

 それなら親切に踵を帰してくれませんか?


「アニキがそこまでして泊めたくないって言い張るとか、絶対何かあるよね!? 別にAVとか見てる最中でも気にしないって!」

「だぁぁぁぁっ! お願いだから大人しく引き下がれっての!!」


 シャワーを浴びてる最中とはいえ、女子小学生がいる場所で華の女子高生が堂々とAVとか言うなよ!?

 あまりに必死な俺の様子から説得は無理と判断したのか、黒音は拗ねたように頬を膨らませる。


「もぉ~、アニキのケチ!」

「ケチで結構。それより、早く近くのネカフェにでも予約を──」


 ようやく黒音を説得出来そうだと内心安堵した瞬間、












「おにーさーん! ドライヤーどこー?」

「──っ!?」


 隠そうとした報いが牙を向くかの如く、洗面所のドアが不意に開かれた。

 咄嗟に振り返ると、白の水玉模様のパステルピンクなパジャマを着て、首に掛けている白いタオルで髪を拭くあまなちゃんが出て来ていたのだ。

 どうやら、ドライヤーの位置が分からず俺に聞くために出て来たらしい。 


 が、それはこの上ない最悪なタイミングでもあった。


 そもそも部屋の作りからして作為的なまですらある。

 玄関から上がって突き当たりまで進めば洗面所兼脱衣所なので、2つのドアを開けっぱなしにしていた場合、外から洗面所で着替える様子が丸見えになってしまう。

  

 そしてその玄関には妹の黒音がいる。

 つまり、恐れていた事態が現実になったのだ。


「え……?」

「あれ? そのおねーさん、だぁれ?」

 

 前門のJKと後門の幼女が俺を挟んで互いの存在を認識する。

 黒音は驚愕から目を丸くして呆けており、あまなちゃんは見知らぬ人物に純粋な疑問を懐く。


 その2人の間に立つ俺は、背中だけでなく全身から冷や汗を垂れ流していた。

 出来れば今すぐ逃げ出したいが、後から振り返ればそれは不可能だっただろう。

 実行するかどうかを考えるより先に、黒音が動く方が早かったのだから。 

  

「アニキ……」

「っ、ま、待て黒音……まずは話を──」

「……(ニコッ)」


 慌てて釈明の時間を要求したが、対する黒音は俺に目が笑ってない笑顔を向けるだけだった。




 ──スマホを片手に持って。



「いやいやいやいや待て待て待て待て待って下さいお願いしますお願いしますそれだけはそれだけはご勘弁をぉぉぉぉっ!!」 

「イヤアアアアッッ!! こっち来ないでよクソアニキ!!?」


 無言で兄を通報しようとする妹の暴挙を慌てて制するが、黒音は失望した表情を浮かべてドン引きしていた。

 その反応は無理もないが、事情も聴かずに通報するのは止めて欲しい。 

 ともかく、今は説明だ説明!


「違うんだ黒音、これには訳があるんだ!」

「疚しいことあるからそんな言い訳するんでしょ!? 幼女を部屋に連れ込むとか何考えてんの!? ほんっっと信じらんない!!」

「ちくしょう、なんかすごいデジャヴ!!」 


 確か天梨と初めて会った時もこんな感じだったわ!

 よくこんな状態から、あまなちゃんを預ける相手として信頼されたな俺……。


「いくら彼女が出来ないからってそんな小さい子を……アニキがロリコンだったとかサイアクなんですけど!?」

「異議あり! こちらの弁明も聴かずにロリコン扱いするのは名誉棄損に当たると思います! なので説明させてくれ!!」

「却下よこの変態!!」

「ふざけんな! そんな横暴があってたまるか!!」


 流れるようなロリコン扱いに、俺はブチ切れて反論する。

 しかし、黒音は一向にロリコン疑惑を止めることなく変態呼ばわりして来た。

 

 自分の人生が掛かっているのもあって、必死に通報を回避しようと踏ん張るが……。


「もーっ、ケンカしちゃダメー! きんじょめーわくでしょーっ!!」

「「──っ!!」」


 あまなちゃんの怒声により、俺達の口論は一気に沈黙した。 

 正論を言われたからというよりは、あまなちゃんに注意されたという点が大きいだろう。

 初対面の黒音ですら黙らせるのだから、如何に自分達が大人気ないのか思い知らされる気分だ。


 それでも、妹の黒音にあまなちゃんの存在がバレたことに変わりはない。

 

 露呈してしまったこともそうだが、ひとまず説明のために俺は黒音の外泊を認めるのだった……。

 

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