第4話

「ちょっと、紫音?」

誰かが身体を大きく揺すっていた。

ぱっと目を開けるとあたりは薄暗かった。

驚いて上半身を起こしてみるとそこは3年3組の教室だった。

しかも自分の席。

心配そうに覗き込んでいる担任の顔が目に飛び込んできた。

「あ、天野先生?」

「もうとっくに下校時間は過ぎているわよ。どうしたの?具合でも悪いの?こんなところで寝ているなんて。」

「いえ、ちょっと夕べ遅くまで勉強していたので、疲れちゃって。でももう、大丈夫です。」

「そう?あんまり無理しないように、実力テストも近いんだから。」

「はい。じゃ、帰ります。さようなら。」

そういい残すと机の中に巻いて置いてあったマフラーとフックに掛けていたカバンを持って教室を後にした。

階段を駆け下りながら、手に持っていたマフラーを首に巻いた。

昇降口まで辿り着く頃にはすっかり真っ暗だ。

柱のところにある掛け時計に目をやった。

5:42

外靴に履き替えて、外に出た。

校門のところまで行ってから振り返って校舎をまじまじと見つめた。

公園の外灯を受けて浮かび上がる校舎。

(夢だったの…かな?)

ポケットに突っ込んでいた右手を出して、左手を添えてみた。

あの時の温かさがよみがえってきた。

バーンの手のぬくもりが。

と、風が吹き抜けていった。

蕃山へと吹き抜けていく北風だ。

寒さにかじかみそうになる手を再びポケットに入れて、その場をあとにした。


『紫音、…君は自分の生きている世界のことを、どう思う?』


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る